Craft
2021.11.27

AQUOS第一号機などのヒット商品を生んだ!デザイナー歴50年、喜多俊之さんに聞く「プロダクトデザイン」

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プロダクトデザイナーとは、どんな職業かご存知ですか?

私たちの身近にある様々な製品の形やデザインを決めたり、製品化を実現させるのがプロダクトデザイナーの仕事です。
クライアントからの意向をくみ取り、使用する人の立場に立って、使いやすさを追求することが不可欠です。ただそれと同時に、使ってみたいと思わせる魅力的な色やフォルムなども求められます。

プロダクトデザイナーの喜多俊之さんは、日本とイタリアを拠点にして長年活躍してきました。様々な種類の製品のデザインを行い、日本だけでなく海外でも大ヒット商品を生み出しています。

約50年に渡るものづくりを紹介する展示が、兵庫県西宮市大谷記念美術館で開催中です。デザインの秘訣やデザインに込めた思いなどを、お聞きしました。

遊び心を感じる椅子は、猿山がヒントだった!

会場へ入ってまず目に飛び込んでくるのが、色鮮やかな赤色の円形ソファー。ガラス越しに見える美術館中庭の景色と調和していて、美しいオブジェのようにも見えます。

この『SARUYAMA』は、ネーミングの通りに猿山からヒントを得たそうです。「大分市の高崎山自然動物園でサルたちの動作を見て、こんな風に横に寝そべったりできるソファーがあっても、いいんじゃないかと思ったんです」と喜多俊之さん。一人掛け用の椅子がそばに置かれているのは、日本庭園の飛び石のイメージとか。自由で遊び心があって、また和のテイストも感じます。

展示の椅子のほとんどは、自由に座れます。見学に来た人が、皆リラックスした様子でくつろいでいました。

多くの人の心を掴んだ椅子

平成4(1992)年に開催されたスペイン・セビリア万博の日本館回転劇場500席のためにデザインした椅子は、ハッと目を惹く黄色です。スピーカー内蔵のパーソナルチェアで、ヘッドホンのボタンで3つの言語から選ぶ仕組み。当時のハイテク技術を使い、どこか未来を感じさせるデザインです。

世界的スーパースター故マイケル・ジャクソンも、この椅子のファンだったというウワサも…….。

「この椅子は人気で、自分でデザインしたのに手に入らなくて、オークションに出たのを落札して、やっと手に入れました。ニューヨーク近代美術館、パリのポンピドゥー・センターに永久収蔵されています」

制作の元となるデザイン画

世界が認めたシャープの液晶テレビ

国内の多くの日本人が知る喜多さんのデザインと言えば、平成13(2001)年から製品化されたシャープの液晶テレビ『AQUOSーC1(アクオスシーワン)』 でしょう。左右に回転する画面と、持ち運びができる取っ手がついた画期的なデザインは、日本オリジナルとして、国内だけでなく世界から注目を集めました。

「どうしたら家庭用のテレビとして身近な存在になれるかというのが、テーマでした。それまでの硬くて冷たい無機質な液晶テレビではないデザインをと考えました」

手塚治虫の漫画を彷彿とさせる先見性

ロボットと言うと、子どもの頃に夢中になって読んだ手塚治虫の漫画が思い浮かびます。当時のロボットのイメージは、あくまでも物語の中だけで存在するもの。それが、今やロボットは、私たちにとって、身近になりつつあります。

喜多さんが平成15(2003)年にデザインを手掛けた『WAKAMARU(ワカマル)』は、セキュリティや高齢者の介護を用途とした人型ロボットです。音声認識による簡単な対話や、10人までの顔認識が可能で、インターネットを通じてニュースなどを受信。未来を予測したかのようなこのロボットは、国内外の見本市やイベント会場で、人気を集めたそうです。「人の心をとらえる目の表情を、特に意識しましたね」

源義経の幼名である「牛若丸」から、WAKAMARUと名付けられた。

約30年ほど前には、サスティナブル※とエコロジーを考えた『電線の無い家』を提案。太陽光と風をエネルギーにして、一軒の家の電気をまかなう発想で、電気自動車のチャージも同時に考えた模型を制作しています。当時は、現在のようなサスティナブルの考え方は浸透していませんでした。

喜多さんが手掛けるデザインは、未来を先取りしていたり、将来を予測しているようで、不思議に思います。「海外へ行く前からの発想なんです。とても好奇心が強くて、未来はどうなっていくんだろうと考えるので、自然とそうなるのかもしれません」

※持続可能なことを指す。特に環境破壊せずに維持、継続できるという意味

デザインは全ての調和

喜多さんにとってデザインとは? とお聞きすると、「全ての調和です」という言葉がすぐに返ってきました。続けて、「商品として売れることや、経費のことも考えなくてはいけません。また使う人のことも考えなくてはいけない。日本ではデザインと言うと、形と色を決めるぐらいに思われがちですが、社会性や安全性、コストの問題など様々な要素の全体のバランスを取ることがプロダクトデザインなのです」

またアート作品ではないと言いつつ、「アートの心を持っていなくてはいけない」とも。デザインの奥深さを感じます。

喜多さんがデザインした製品を説明する時、まるで我が子のことを話すような愛情を感じます。「どの製品にも思い入れがあります。素材が変わっても、大きさが違っても、私にとってデザインすることは同じなんです」。展示の1つ1つから、思いやこだわり、工夫が肌で感じられます。素材や製品のジャンルを特定しないのも特徴です。

海外で絶賛された和のデザイン

喜多さんはプロとしてヒット商品にこだわりながら、日本の伝統技術の継承を、ライフワークとして取り組んできました。「日本には、各地に腕の良い職人の技術があります。この技術を次世代に残していかなくてはいけないと、何十年も前に危機感を感じて、できることを模索してきました。伝統技術とテクノロジーが合わさったデザインを生み出すことで、日本の技を広く世界に知ってもらえたらと思っています」

1971(昭和46)年に製品化された、手すきの美濃和紙を使った壁面照明器具『TAKO』は、和紙の柔らかい光がヨーロッパで評判を呼び、人気商品となったそうです。伝統的手法で作られた和紙は軽くて強くて変色しにくい、その素晴らしさが、現代的な照明器具を通して海外で受け入れられたのです。今もロングセラーとして人気が続いています。

日本の手仕事の良さを取り入れて、生活を豊かに

職人の技術にデザインを加えた食器なども手掛けています。300年余りの伝統を持つと言われる津軽塗は、色漆を何度も塗り重ねて研ぎ出すことで、美しい模様や柄が出ます。長く使えば使うほど変化が生み出されるので、独特の面白さがあるのだとか。

「日本人は忙しいあまりに、すてきな暮らしから遠のいてしまったように思います。是非、こういった日本に伝わる伝統工芸品を生活に取り入れて、心豊かになってもらいたいですね。また製品化することで、職人達を長く応援していきたいと思っています」

手前の大きな入れ物は、そばやうどんをこねるのに使える津軽塗の『TSUGARU』。飛騨高山の春慶塗(しゅんけいぬり)や、輪島塗の漆器のラインナップ。

喜多俊之さんプロフィール

1942年大阪に生まれる。1969年よりイタリアと日本でデザインの制作活動を始める。作品の多くがニューヨーク近代美術館、パリのポンピドゥーセンターなど世界のミュージアムにコレクションされている。1990年、スペイン「デルタ・デ・オロ賞(金賞)」受賞。2011年、イタリア「ADI黄金コンパス賞(国際功労賞)」受賞。2017年、イタリア共和国より「イタリア共和国功労勲章コンメンダトーレ」を叙勲。2018年、平成30年度「知財功労賞」において特許庁長官表彰で知財活用企業(意匠)受賞など、受賞歴多数。大阪芸術大学教授。

「喜多俊之展 TIMELESS FUTURE」情報

会期:2021年12月5日(日)まで
休館日:水曜日
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
入館料:一般1,200円、高大生600円、小中生400円
会場:西宮市大谷記念美術館(兵庫県西宮市)
公式ウェブサイトhttp://www.otanimuseum.jp/

書いた人

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。