Craft
2019.10.02

今や国際共通単語!「切り出しナイフ」の機能性を楽しみ尽くす

この記事を書いた人

国際単語になった日本語は数多いが、この記事では「Kiridashi(切り出し)」をテーマにしていきたい。

切り出しとは、切り出し小刀のこと。ブレードの先端を斜めにカッティングし、その部分に刃を付けた形状のナイフが「Kiridashi」と呼ばれている。

この切り出しナイフは日本独自の種類のブレードであるが、一方で海外のナイフ制作者にも多大な影響を与えている。単純だが合理的なこの形状を採用する制作者が、ここ最近目立つようになっているのだ。

海外にも影響を与える「Kiridashi」

クラウドファンディングKickstarterに、こんな製品が登場した。

携帯用ナイフ『Tidashi 2.0』だ。刃渡りは僅か1.5cm、全長も7.6cmしかない。制作者はオランダ人だが、小ささ故に携帯性に優れているという利点を有している。

そもそも切り出しは、刃渡りを抑えられる形状だ。もう少し具体的に述べれば、刃渡りと全長が連携していないということである。

切り出しはその用途は限られるが、安全性の高いナイフだと筆者は認識している。

筆者は先日、日本の折り畳みナイフである肥後守についての記事を執筆した。その中で筆者は、

“かつての男子小学生は、誰しもがこの肥後守を愛用していた。鉛筆を削る作業もさることながら、そこら辺で拾った枝に手を加えて新しい玩具も作った。”

と、書いている。

だが、日本は案外広い国だ。地方によっては肥後守よりも切り出しの方が普及していたのかもしれない。兵庫県三木市から距離のある地域、たとえば関東以北ではどうだったのだろうか。このあたりを文化人類学として調査すれば、また面白い記事が書けるのかもしれない。

話は逸れたが、それだけ切り出しはポピュラーなナイフだったということである。

魂の1本

今回、記事を書くにあたって手に入れたナイフがある。

岐阜県関市の後藤益美氏が手掛けた魚型切り出しである。後藤氏は鍛造から研磨までこなすクラフトマンとして知られていたが、今年1月に亡くなった。現在もオンラインで後藤氏のナイフが販売されているが、在庫数が増えることはもうない。

筆者が手に入れた切り出しは、まさに魂の1本だ。この切り出しは魚型とあって、ブレードが緩いカーブを描いている。直線型よりも持った際の角度をつけやすく、それが扱いの容易さにも直結している。

刃は分厚い印象で、この点は肥後守と共通する。料理よりも木工用途を想定した分厚さだ。大きさを見てみよう。全長は14.3cmだが、ここではオピネルの6番から9番、そして肥後守と並べてみる。切り出しのハンドルに相当する部位は肥後守、そしてオピネル7番のそれとほぼ同じスパンである。決して大きくはなく、日本人からして見れば最も扱いやすいと感じるスケールではないか。

シンプルはいいことだ!

昔は今と違い、「木を削る」という行動を生活の中で頻繁に行っていた。

鉛筆はその最たるもの。鉛筆削り器のない時代、芯を尖らせるにはナイフが必要不可欠だった。また、日本は森林に満ちた国である。近代以前は現代よりも木材加工業に従事している人の割合が多く、木材に対して細かい作業を施すには切り出しが欠かせなかったのだ。

そんな切り出しが、現代になって海外で高評価されるようになった流れは肥後守とよく似ている。

欧米では「シンプル・イズ・ザ・ベスト」の発想が根付いている。下手にゴテゴテと装飾がついているよりも、極力シンプルなデザイン設計にした方が欧米では評価されやすいと筆者は感じている。

切り出しにしろ肥後守にしろ、それが絶賛された最大の理由は「シンプルさ」なのではないか。

Instagramと切り出し

Instagramで「#kiridashi」と検索すると、約1万8000の投稿が表示される。

1万8000という数字はそこそこの影響力を帯びていると筆者は思うが、ともかくそれだけ切り出しナイフが認識され、同時に人気を集めているということだ。

海外では、ナイフコレクションがひとつの趣味として成立しているという背景もある。

もし日本でナイフコレクションを始めるとしたら、最初の1本は肥後守か切り出しをお勧めする。価格も決して高いものではなく、割と気軽に購入できる。

ただし、注意点がひとつ。切り出しはその形状故に保護キャップが作りにくく、シース(収納ケース)がないものもある。従って、保管場所にはくれぐれも気を付けたい。

【参考】
Tidashi 2.0, a titanium mini knife-Kickstarter