今、空前の刀剣ブーム!刀剣女子が有名ですが、中高年向けの雑誌でも刀剣の特集が組まれるなど世代を超えた広がりを見せています。そんな中、行政がクラウドファンディングに乗り出し話題になった国宝があります。「太刀 無銘一文字(山鳥毛) (たち むめいいちもんじ やまとりげ)」。上杉謙信ゆかりの刀であり、一般的には「さんちょうもう」の読みで親しまれています。
2018年に発表されたクラウドファンディングの値段は5億円。会社の運営資金と見紛う高額さですが、2020年春、予定金額を大幅に超えて見事に達成!人気ゲーム『刀剣乱舞』にも実装されたことも相まって大きな話題となりました。
山鳥毛は長らく個人の所蔵でした。お披露目を心待ちにされていましたが、新型コロナウイルスの影響で公開予定施設の「備前おさふね刀剣の里 備前長船刀剣博物館」は1カ月以上臨時休館に。2020年5月21日に開館が決定しました!
待ちきれない!という方に朗報です。公開がより楽しみになるように「山鳥毛」の歩みそして「これから」について瀬戸内市に聞いてきました♪
上杉謙信が愛した「山鳥毛」が国宝になるまで
国宝指定されている「太刀 無銘一文字(山鳥毛)」。鎌倉時代に「一文字派」と呼ばれた刀工集団による傑作と名高く、変化にとんだ華麗かつ激しい刃文が特徴的です。諸説ありますが、1556年、関東管領上杉家の長尾景虎――のちの上杉謙信の手に渡ったとされています。その後養子である景勝が受け継ぎ、「上杉家御手選三十五腰」にも選ばれました。以降は御家名物、つまりは家宝として、米沢上杉家に保管されていました。
上杉家の文書には「蓋シ焼刃ノ美ナル山鳥ノ尾毛、山野ノ燃ユルノ状ニ似タルヲ以テ、其模様ヲ形容シタルモノナリ」とあり、鳥の羽毛に見える、野山が燃える様子に似ているという一文があります。「山焼毛」と呼ばれていたという説もあるようですよ。1940年に旧国宝(重要文化財)指定、1952年に新国宝に指定されています。
1948年に岡山の個人収集家に譲渡されるまではずっと米沢上杉家に保管されていました。明治天皇山形御幸の際には外部へ出展されたようですが、とにかく人目に晒されることなく大切に扱われきたことがうかがえます。
そんな山鳥毛の運命が大きく動いたのはここ数年。きっかけは譲渡の話が持ち上がったことでした。
瀬戸内市の挑戦!5億円のクラウドファンディング発足
一度、新潟県上越市に購入が打診されましたが、結果として購入には至りませんでした。2018年1月に打診を受けたのが岡山県瀬戸内市。元々備前国(現在の岡山県)は、優れた刀工を輩出してきた土地です。長船(現在の瀬戸内市)はその刀派「福岡一文字派」「長船派」が拠点にした場所があり、現在も刀工が日々鍛刀に励んでいます。
「日本の誇る刀剣文化・技術の守り手として岡山の大切な刀を守りたい。」
瀬戸内市が購入へと踏み切ったのは、そんな日本刀と歩んできた長い歴史がありました。そこで購入費用5億円をクラウドファンディングで集めようと試みる「山鳥毛里帰りプロジェクト」が立ち上がりました。市民や県民だけでなく、全国、世界中の日本刀愛好家の「お志」によって購入したい、という瀬戸内市の意思がありました。
出足は好調でも、中々目標達成はできなかった
当初3カ月だった実施期間。記者会見を行い、イベントやマスコミへのPRを行い、ふるさと納税時期の12月に早々に1億円を達成。出足は好調のように思えましたが、金額達成とはならず。さらに2カ月期限を伸ばして2019年3月末としますが、やはり目標まで届きませんでした。1年の延期を決めますが、度重なる延長に、今回達成できなければ購入を断念すると瀬戸内市議会で表明する事態に。その後も伸び悩むこともあったようです。
2019年10月に備前長船刀剣博物館で開催した山鳥毛の特別陳列をきっかけに、プロジェクトへの賛同が広がりました。その後僅か2カ月で3億円もの寄付が集まり、目標額を達成!達成後も寄付は止まらず、最終的にはなんと8.8億円という当初の予定を大幅に超えた金額が集まることとなりました。
公開が待ちきれない!山鳥毛のこれからを瀬戸内市に直撃
2020年3月、晴れて瀬戸内市への里帰りが決まった山鳥毛。しかし、残念ながら新型コロナウイルスの影響で、未だ公開とは至っておりません。瀬戸内市の方に、オンラインでお話を伺いました。
―― 現在はどちらで保管されていますか?
現在はこれまでの保管場所であった、岡山県立博物館にて保管されています。防犯上時期をお伝えできないのですが、今後は備前長船刀剣博物館にて保管する予定です。
―― たくさんの方が公開を心待ちにされていると思うのですが、やはり時期は決まってらっしゃらない?
残念ながら、公開時期は現時点では未定です。できる限り早めに公開したいと職員一同願っております。
―― きっと華々しくお披露目されることでしょう。楽しみに待つことにします。備前長船刀剣博物館も閉館していらしたとのことですが、来館者へのメッセージがありましたら、お願いします。
新型コロナウイルス感染症が終息し、地域間の移動が滞りなくできる日常となった際には、山鳥毛、他にも瀬戸内市が誇る優れた日本刀を見に来てください。また、長船地域には日本刀に関わる社寺や史跡等が残っております。そちらも併せて巡っていただき、「日本刀の聖地・長船」をお楽しみいただければと思います。
「山鳥毛」は瀬戸内市の、そして刀剣を愛する人の宝
かつて上杉家の宝だった山鳥毛。クラウドファンディングを経て、瀬戸内市の、そして刀剣を愛する人々の宝となりました。クラウドファンディング実施のさいに、刀剣ファンがSNSで呼びかけているのも目にしています。達成後にさらに寄付があるというのは、かなりのレアケースだとか。人々の刀剣への熱意と愛が里帰りを実現させたのは間違いないでしょう。
実は私の生まれは岡山県。出身者としても「山鳥毛」を見に行くことを楽しみにしています!