レジ袋が有料になってから、エコバッグを忘れた日には牛乳やら納豆やらを手に抱えて歩いている。レジ袋を買うのをためらうのは、環境のため? 正直、それだけではない気がする。
レジ袋1枚3円に、モヤモヤするのはどうして?
わたしだって、ウミガメがプラスチックを飲み込んで苦しんでいる写真を見たときには悲しくなったし、マイクロプラスチックの人体への影響だって心配だ。
プラスチックゴミの問題に取り組んでいくことが、今、必要なことだとわかっている。
だからいつもエコバッグとマイボトルを持って出かけるようにしているし、スーパーやコンビニに限らず本屋でも服屋でも、プラスチックの袋を断るようになった。
それでもときどきレジ袋を購入するときに、ちらりと感じる罪悪感。
環境によくない、お金がもったいない、だけではない。たぶんわたしは、プラスチックをただ悪いもの、使うのをやめればいいものと思い切ることができないのだと思う。
だって、プラスチックと一緒に生きてきたんだもの。幼いころ宝物だったおもちゃのネックレス。着せ替えの人形。キャラクターのシャンプー容器。家族で遊んだゲームボード。
プラスチックのおかげで暮らしがものすごく便利になったという実感もある。ペットボトルの登場は衝撃だった。今はできるだけマイボトルを使っているけれど、いつでもどこでも水分補給ができる安心感は、ペットボトル飲料が教えてくれた。
レジ袋はゴミを捨てるのにもちょうどよかった。そういえば昔、おばあちゃんはミカンの皮や出がらしのお茶っ葉を、新聞紙で折った袋に入れて捨てていたっけ。あれをまねしようかと思ったけれど、うちの新聞はしばらく前からデジタルだったよ。
これからプラスチックゴミの問題と、どう向き合っていけばいいのだろう?
こんがらがった気持ちを引っ提げて、わたしはレジ袋のメーカーに取材を申し込んでみた。
レジ袋の材料はノーベル賞ものの発見だった
訪ねたのは、「国産ポリ袋で暮らしと社会を楽しくする」というキャッチコピーを掲げているトミーケミカル株式会社の久野(ひさの)さん。トミーケミカルは60年以上前から国産のポリ袋を作り続けてきた東信化学工業株式会社からうまれた会社で、環境に配慮したポリ袋の普及にも取り組んでいる。
久野さんは、プラスチックやポリ袋のことをとても分かりやすく教えてくれた。
たとえばポリ袋というのはプラスチックの一種であるポリエチレンまたはポリプロピレン製の袋のこと。一般的なレジ袋も、ポリエチレンまたはポリプロピレンでできているんですって。
ポリ袋のはじまりは今から70年くらい前にさかのぼる。紙の包装資材よりも安くて防水性が高く、食品などを衛生的に扱うことができると、どんどん普及していった。
ちなみに、ポリプロピレンを作るのに貢献したドイツの化学者カール・チーグラーと、イタリアの化学者ジュリオ・ナッタは、1963年にノーベル化学賞を受賞している。そのくらい、わたしたちの暮らしを便利にしてくれた素材だということだよね。
ポリエチレンやポリプロピレンの原料となるナフサ(粗製ガソリン)は当時、原油から精製される燃料のなかでも使い道がないものだったという。石油を無駄なく使いきるという点では、もしかしたらエコを先取りしていたと言えるかもしれない。
レジ袋は、悪なのか?
レジ袋にだって、たくさんの役割がある。たとえばスーパーで買った肉や魚のドリップがこぼれてしまったけれど、袋の中だけですんで助かった!という経験がないだろうか(わたしはある)。コンビニで買った弁当の空き箱をレジ袋に入れてゴミ箱に捨てれば、それだけで虫がわきにくくなる。ウィズコロナの時代、衛生的って大切なことだ。
さらにゴミを焼却するときにも燃料の代わりになるので、トータルでみると焼却に使う重油の使用量を減らすことができるという。
コロナの感染防止のために医療従事者が身に着ける使い捨ての防護服にも、実はレジ袋と同じポリエチレンが使われている。プラスチックゴミになるからといって、防護服を悪くいう人はいないはず。
それなのに今なぜレジ袋だけにスポットライトがあてられ、プラスチックゴミ削減の代名詞のように言われるのだろうか。
トミーケミカルの久野さんは「正直なところわからない。個人的には、ポリ袋は表面積が大きいので、海洋ゴミの中でも目立つというのはあるかもしれないと思っている」と話す。
でも実は、海を漂うプラスチックゴミのなかでポリ袋が占める割合はたった0.3%。レジ袋だけの問題ではないのは明らかなのだ。
進化するプラスチックと、新しいレジ袋
それに、プラスチックだって進化している。環境に配慮した新しいプラスチックのキーワードは「バイオマス」そして「生分解」だ。
バイオマスプラスチックとは?
国も普及を推進している「バイオマスプラスチック」は再生可能な植物由来の資源で作られたプラスチックのこと。
サトウキビのしぼり汁からバイオエタノールを精製して作られる「グリーンポリエチレン」もそのひとつ。
サトウキビは生育段階で光合成によりCO2を吸収するから、ゴミとして焼却する際に排出されるCO2を相殺できる。これをカーボンオフセットというのだそう。
このバイオマスプラスチック、実はすでに食品の梱包資材やレジ袋として、たくさんの企業が使いはじめているという。
確認してみたらわたしがふだん買い物にいくイオンやセブンイレブンのレジ袋も、すでにバイオマス原料配合になっていた。
せっかくお金を払うなら、環境にやさしいレジ袋のほうがいい。やむを得ずレジ袋を買うときのモヤモヤも少しは晴れる気がする。
だがしかし。
「バイオマスプラスチックが本当に環境にやさしいかというと、まだ課題が残る」と久野さんは言う。従来の石油から作られたプラスチックと同様で、自然にかえらないという課題。
生分解プラスチックとは?
その問題に応えるのが「生分解プラスチック」。時間とともにボロボロになって、最終的には微生物によって分解されて自然にかえるプラスチックだ。従来のプラスチックも、バイオマスプラスチックも、加工を施すことで生分解プラスチックにすることができる。画期的!
ただ、どうしても割高になってしまうので、なかなか普及が進んでいないという。
仮に、従来のレジ袋が1枚3円、バイオマスレジ袋が4円、生分解性のレジ袋が5円で買えるとしたら、「たった1~2円の差であれば、環境にいいものを選びたい」と考える人だっているだろう。でもその1~2円の差も、大量に仕入れる卸業者や小売り店には大きな負担になってしまうのが難しいところ。
今こそ、プラスチックの出口を考えよう
久野さんはそれでも「未来のことを考えて、生分解プラスチックの普及を進めていきたい」と話す。そして「環境のことを考えれば、使用量の削減にも賛成。大切なのはゴミの出口について、もっとみんなで考えていくことだと思う」と教えてくれた。
まず、ゴミの処理について。
実は、日本のプラスチックゴミの再利用率は海外に比べて高い。その多くは焼却してエネルギーを燃料などに再利用するというもの。
「個人的には、日本はゴミを衛生的に処理できているし、焼却は海に流出しないという点でも、良い方法だと思う」と久野さん。海外ではプラスチックゴミをそのまま埋め立てている地域もあるけれど、大きな自然災害などが起きたときに海へ流出してしまう恐れがある。だから日本の焼却技術を海外にも広めていけたらと考えているのだそう。
ただし、ゴミを焼却する際に発生するCO2は、温暖化防止のために削減していかなくてはならない課題でもある。
そして、海洋プラスチックゴミの問題に向き合っていくこと。
ポイ捨てされたゴミが雨水に流されて下水から川へ、やがて海へと流れ出す。そして、クジラやウミガメが飲み込んでしまう。
分解されずにいつまでも海を漂い、やがて小さなプラスチックの粒子となって海洋生物の体に取り込まれてしまう、マイクロプラスチックの問題も明らかになりつつある。
だから、自然にかえる生分解プラスチックを導入していけるとよい。
1枚のレジ袋の向こう側に、広くて青い海が見えてくる気がした。
そして思う。暮らしのなかで、何かをよくするために工夫をしたら、新しい問題が出てくる、そんなことは当たり前にある。
これは善か悪かで考えるような問題じゃない。時間をかけていろいろな方向から向き合っていくべきことなんだと。
使い捨てを減らすこと。必要な分だけ使うこと。ゴミはきちんと捨てること。わたしにできることだって、たくさんある。
取材協力:
トミーケミカル株式会社
公式Webサイト:https://tommy-chemical.com/
アイキャッチ画像:メトロポリタン美術館より