秋である。豊かな実りに食指が動いて仕方がないのである。結果、馬とともに肥えていくことになる。毎年これを繰り返しているのだから、ちょっとは対策をとったらどうだ、と我ながら思うのだが、冬にちょっと暖かく過ごせるかもしれないから、などと誰にともなく言い訳をしながら過ちを重ねている。
しかし、食指とはいったいどの指のことで、どういった経緯でそう言われるようになったのだろう。
「食指」は人差し指
「食指が動く」とは、食欲が起きたり、物事に対する欲望や興味が生じたりすることである。もともとの意味は「食欲が起きる」で、そこから転じてさまざまな物事に対しても使われるようになった。
結論から言ってしまうと、食指とは人差し指のことである。
中国の故事に由来するもので、『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』にその記述が見られる。
鄭(てい)の公子宋(こうしそう、子公[しこう]とも)が霊公(れいこう)を訪問する道中、人差し指が動いた。公子宋はそれを同行していた子家(しか)に見せながら、「こうしたことが起きると、いつもご馳走にありつけるのだ」と告げる。霊公の家に着くと、果たして大きなスッポンが料理されていた。
公子宋の人差し指はご馳走レーダーだった、という逸話から生まれた、なんだか楽しい慣用句である。
ただ、この話には続きがあって、それを聞いた霊公がわざと公子宋にだけスッポンを食べさせず、怒った公子宋は料理の器の中に指を突っ込んで舐めて「予言」を実行したのだという。
霊公が何を考えていたのか、ただの意地悪だったのか、それは分からないが、公子宋が器に突っ込んだ指もまた「食指」だったのだろうか。
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アイキャッチ画像:歌川豊国三代『今様三十二相 上手相』、国立国会図書館デジタルコレクションより