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Culture
2020.10.29

「マツコの知らない世界」の元総合演出家による世界初の大相撲ドキュメンタリー! 映画『相撲道』坂田監督インタビュー

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三度目の正直で初優勝を果たし、大関に昇進した正代(しょうだい)関。切れの良い相撲っぷりで土俵をかき回した新入幕の翔猿(とびざる)関。ニューヒーローの活躍も目覚ましく、コロナ禍にあっても話題に事欠かない。大相撲はいま、技の確かなベテラン勢を追い上げるように若手が台頭し、サムライの活躍した戦国時代をほうふつとさせる群雄割拠の時代にある。

「相撲は国技」。そう言われて、反論する日本人はいないだろう。けれど、果たして相撲のことをどれだけ知ってる、と問われたら?

「実は、お相撲のことをまったく知らなかったってことに自分自身も衝撃を受けて……」。こんな意外な答えから、ドキュメンタリー映画『相撲道~サムライを継ぐものたち~』 のメガホンを取った坂田栄治監督のインタビューははじまった。

特殊音響と絵づくりで国技館での大相撲観戦を完全再現。相撲初心者こそ見て!

坂田監督は、総合演出としてTBSの大ヒット番組『マツコの知らない世界』や『細木数子のズバリ言うわよ』などを手掛けてきた。映画は本作がデビュー。TBSの現役社員として働きつつ、正月休みや有給休暇を使うなど時間をやりくりして、世界初の大相撲ドキュメンタリーを完成させた。そこには、まったく知識のない人に「知らない世界」を伝えるための、番組制作で培ってきた技術をふんだんに盛り込んでいる。専門知識がなくちゃダメ、日本の伝統文化は近寄りがたい、そんなことを豪快に吹き飛ばしてくれるのが本作だ。

15日間の熱戦が繰り広げられる両国国技館の館内へとカメラが入っていく。かつてはお茶屋と呼ばれた相撲案内所(入場券や弁当、飲食の手配をしてくれる)が並ぶ一角を抜けて、ざわざわと湧き立つ1階の観客席へ。にぎやかな縁日のような、お祭りのような館内の雰囲気をカメラは捉える。

「ウォーッ!」
「ゴツッ」「グチャ」「ドスッ」

力みなぎる動きをさらに強調する映像の演出と、力士同士の頭と頭、体がぶつかり合う音が生々しい。リアル過ぎておののく。頭上からも、サイドからも立体的に響いてくるサウンドは「ドルビーアトモス」という特殊音響で再現した。設備を備える一部の劇場に限られるものの、その臨場感は、国技館のマス席に座っているのとまるきり同じだ。

坂田栄治監督。「2020年に向けて、自分の培ってきた技術で日本人としての何かをつくりたかった」

「まずは、本物を楽しんで!」と映画鑑賞者の背中を押すかのような坂田監督。「僕は相撲オタクでもマニアでもありません。けれど、格闘技が好きで、なかでも力士は最強だと思う。1発、1発、本気で、裸でぶつかっていく力士の姿を見たときに感動して。だから、僕が感じた思いをそのまま再現したいと思いました」。そう、大相撲は観戦するのに決してハードルが高いものではないのだ。

「1日1番」。令和のサムライたちが相撲部屋で語るそれぞれの熱き思い

日本相撲協会が開催する大相撲の興行、本場所は年6回行われる。1場所15日制で、各力士の取り組みは1日1番だ。対戦は長いもので1~2分という場合もあるが、短ければ数秒で勝負が決まってしまう。関取たちはインタビューの際、口癖のように「1日1番」と言う。まるで自分自身に言い聞かせるかのように。1つの勝ち負けの差が優勝争いに、そして次の場所の自らの地位に関わってくるからだ。短い時間に最大の集中力を発揮できるよう毎日の稽古が欠かせない。坂田監督のカメラは、シビアで尊い力士たちの生き様を相撲部屋にも密着して伝える。

境川部屋の稽古のようす。力士が一列に連なって土俵まわりをすり足する「ムカデ」は足腰の鍛錬に。後ろに付く人の体重が掛かって相当にキツイ (C) 2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会

2020年10月現在、日本相撲協会には44の相撲部屋があり、坂田監督はそのうちのふたつ、境川部屋、髙田川部屋の稽古を追った。相撲部屋はその数だけ個性があるのを知るのも面白い。「相撲道」を絵に描いたような漢(オトコ)、豪栄道関(現 武隈親方/たけくまおやかた)は2020年1月、潔く進退を決めた。口数少ないと言われる親方が語る自身の相撲への思いは希少なインタビューだ。

現在は境川部屋の部屋付き親方として活動する武隈親方(元大関豪栄道)(C) 2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会

髙田川部屋に所属する竜電関。度重なる大けがを克服して幕内(大相撲の番付の最上段に記載される前頭以上の地位)に戻った人気力士。プライベートもたっぷり披露? (C) 2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会

やっぱり、食事の量はハンパない! 焼肉どれだけ、食べるんすか?

そして、だれもが気になるのは、力士たちのプライベートだろう。バラエティ番組で鍛えた監督は、そのあたりも抜かりはない。監督のポケットマネーで提供された焼肉店での顛末は……遠慮のない食べっぷりに見てるこちらがソワソワするほど。

大相撲では食べるのも大事な修業と言われるように「食べて、稽古して、休む」のインターバルは欠かせない。一瞬に賭ける勝負師同士のぶつかり合いだけに、しなやかさに加えて、軽トラックが衝突するほどと言われるポテンシャル・エナジーを自分の体に蓄えることが力士には求められる。映画では、私のような両国国技館でナマで観戦するファンが得る興奮と同じ、いやそれ以上の、「肉体のガツンな音!」が体感できる。

ちゃんこ番の料理の様子もドルビーアトモスで (C) 2020「相撲道~サムライを継ぐ者たち~」製作委員会

「普通の人なら、頑張ったなと思ってその瞬間にだいたい終わってしまうけど、彼らには限界がない。『まだまだ』と稽古をし続けるから強くなるんです。ケガも多いし、そのケガを抱えたまま土俵に向かっていく。ケガは闘いながら治すというのですから超人ですよ。裸ひとつで闘う。姿からしてそうですが、むき出しで生きている。そうじゃないと強くなれない。うそがないというか飾りがない。そんなサムライたちの生き様を多くの人に見ていただきたいです」(坂田監督)

大相撲は単なる勝ち負けではなく、下位の力士であってすら、ファンはその個性を見つめている。スター主義ではなく、「大相撲の個性」が浮き上がる映画に、アツいものを感じる。

『相撲道~サムライを継ぐ者たち~』

2020年10月30日(金)よりTOHOシネマズ 錦糸町、10月31日(土)よりポレポレ東中野 ほか全国順次公開 ※ドルビーアトモス対応劇場での上映は現在調整中です。
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書いた人

日本美術や伝統芸能(特に沖縄の歌や祭り)、建築、デザイン、ライフスタイルホテルからブラック・ミュージックまで!? クロス・ジャンルで世の中を楽しむ取材を続ける。相棒は、オリンパスOM-D E-M5 Mark III。独学で三線を練習するも、道はケワシイ。島唄の名人と言われた、神=登川誠仁師と生前、お目にかかれたことが心の支え。