好きな人と結ばれたい。そんな思いはいつの時代も一緒。江戸時代には、好きな人と結ばれるために、惚れ薬といわれていた「イモリの黒焼き」を買い求める男性が多くいたとか。一方で、好きな人と結婚したくてもできない厳しい風潮もあったそうです。今回の記事では、江戸時代の人々がどのような恋愛をしていたのか、その様子をご紹介します。
武家階級の恋愛は?
江戸時代の結婚は身分が同格のものと結婚するのが一般的で、親や上司、仲人などを通じて相手を決めるのが普通でした。特に武家の身分では、自由恋愛はタブー視されていて、相手の顔も結婚の当日、初めて知るということも珍しくありませんでした。とはいえ、江戸時代の武家社会の恋愛は、表向き自由な結婚は禁じられていたものの、裏では気軽な恋愛が行われていたようです。
江戸の男性はアプローチが苦手だった?
単身で奉公や出稼ぎにくる男性が多かった江戸は、女性の割合がとても少ない男性社会でした。女性からすると恋のライバルが少なく選び放題だったのかも? 江戸時代の江戸の町では、恋愛の主導権を握っていたのは女性だったともいわれています。
そんな女性が主導権を持っていたエピソードとして、江戸時代の離縁状に「三下半(みくだりはん)」というのがあります。表向き、男性のみ女性に三下半を突き付けて、離縁することができたのですが、裏では、女性が離婚を決定できるよう、結婚時に夫から三下半を書いてもらっておくということもあったそう。そんなしたたかなやり取りが行われていたともいわれています。
一方で、男性からのアプローチは比較的控えめで、気に入った女性の着物のたもとにラブレターを入れたり、誰かつてを見つけてラブレターを贈ったりしたともいわれています。
男性の方からぐいぐい押していくような恋愛は、当時は少なかったのかもしれませんね。
ほれ薬で相手を振り向かせる!
意外と恋愛においては奥手な傾向があった江戸の男性。ですが、男性だって恋に落ちてしまうことがありました。
そんな男性が当時よく買い求めたのがイモリの黒焼きです。
イモリの黒焼きは当時流行したほれ薬で、オスのイモリの黒焼きを自分にふりかけ、メスのイモリの黒焼きを好きな相手にふりかければ、お互いに引かれて相手がふり向いたといわれていました。
交尾期のイモリの雄と雌を、それぞれ節を隔てた竹筒の端から入れておくと、お互いの恋心が募り、一晩のうちに節を食い破って交尾したとか。そこから、雄と雌のイモリを引き離して黒焼きにしたものを思い人に振りかければ、イモリの強い互いを求める気持ちが働いて、特定の相手に恋慕の情を募らせるといわれていました。
当時、恋に一途になっていた男性は、一縷の望みをかけて買い求めたのでしょうね。
自由恋愛の成れの果ては心中
江戸時代の初婚年齢は遅くても19歳といわれていました。10代といえば、まさに恋するお年頃。それなりのお相手がいたり、気になる男性ができたりしていたのかもしれません。ですが、本人たちの気持ちにはお構いなしに縁談話が持ち込まれたことで、いくつもの悲劇も誕生しました。
ちなみに江戸時代の燃えるような恋といえば、代表的なものに近松門左衛門の『曽根崎心中』があります。『曽根崎心中』は実際にあった心中事件で、浄瑠璃の作品になるやいなや一大ブームになった作品です。遊女の「はつ」と商人の「徳兵衛」の純愛ゆえの悲劇の心中話なのですが、こちらでも、もともと恋仲だった2人の知らないうちに、徳兵衛の叔父が勝手に縁談の話を進め、結納金まで入れてしまうくだりがあります。結果的に2人は現世で思いを遂げられないなら、天国で一緒になろうと死を選んだというのですから、なんとも悲しい結末ですよね。
当時、そんなお話がブームになった背景には、多くの人に2人のそんな切ない気持ちが共感できたからなのかもしれませんね。
結婚が決まれば恋人とはお別れ
好きな人との束の間の恋愛を楽しんだとしても結婚は避けられないもの。江戸時代の結婚は、武家や商家の女性は、輿に乗り、花嫁行列を行って婚家に向かいました。そして、夜には婚家の床の間付きの座敷で祝言が始まります。式にはふたりと三三九度の杯事の人たちだけが立ち会います。
そして、それを機に、恋人との恋愛も終了となりました。
自由な結婚ができなかった時代だったからこそ、つかの間の恋愛に燃えたのかもしれません。そして、そんな恋をした経験があったから、新しい生活にも覚悟を持って臨めたのかもしれませんね。
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参考文献:田中 優子『江戸の恋―「粋」と「艶気」に生きる』集英社新書、2002
永井 義男『下級武士の日記でみる江戸の「性」と「食」』河出書房新社、2016
いつか『江戸の「粋」に学ぶ口説きの極意 女が惚れる、モテる男のいなせな恋愛作法』 Kindle版、2016