アニメ『半妖の夜叉姫』が盛り上がっていますね! アニメ化された大人気漫画『犬夜叉』(高橋留美子・小学館)の十数年後の世界を描いたこの作品では、実在の刀工の名前をモチーフにしたと思われる武器もあり、刀剣ファンも注目したい内容となっています。
「菊十文字(きくじゅうもんじ)」は「菊一文字則宗(きくいちもじのりむね・きくいちもんじのりむね/備前福岡一文字派(びぜんふくおかいちもんじは))」、「兼光の巴(かねみつのともえ)」は「備前長船兼光(びぜんおさふねかねみつ)」がモチーフでしょうか?
メインキャラクターの1人、「もろは」が持っている妖刀「俱利伽羅丸(くりからまる)」については、刀工の名前以外からきていると思われます。
俱利伽羅ってなに?
「俱利伽羅」は「俱梨伽羅」「俱梨迦羅」「古力迦羅」「栗殻」などとも書きますが、日本史ファン、仏像ファンには馴染み深い名前かもしれません。
不動明王の化身とされる、龍(竜)が剣に巻き付いた姿を「俱利伽羅」と呼びます。「俱利伽羅龍王(くりからりゅうおう)」・「俱利伽羅龍(くりからりゅう)」・「俱利伽羅明王(くりからみょうおう)」とも呼ばれ、龍は黒龍で表されます。
刀とも深い関係が
刀剣においても、俱利伽羅は古くから刀身彫のモチーフとなっており、剣の柄(つか)部分は通常、三鈷柄(さんこづか)と呼ばれる、柄の先が3つに分かれた形状で描かれます。
刀身彫の俱利伽羅には、細密なものから草書のように簡略化された図案まであり、その度合いによって真(しん)・行(ぎょう)・草(そう)の3種類に分けられます(行の俱利伽羅は非常に珍しいので、見られたらラッキー!)。
刀剣には古くから梵字など仏教関連のモチーフがよく見られますが、刀剣研究家によると、これは修験道と刀剣との深い関わりを示すものと考えられるそう。
また、刀身彫の俱利伽羅には、国や時代によっていくつかの種類があり、龍の頭の方向・剣先を呑む形かそうでないか・姿勢・表情・三鈷柄の形状など、たくさんのポイントがあるため、それぞれの違いを見つけるのも楽しみの1つかもしれませんね。
有名な刀剣「大俱利伽羅広光(おおくりからひろみつ)」や「骨喰藤四郎(ほねばみとうしろう)」「日本号(にほんごう、ひのもとごう)」にも、俱利伽羅が彫られています。
古戦場の名前にも
富山県と石川県の県境にある「俱利伽羅峠(くりからとうげ)」および「倶利伽羅谷(くりからだに・くりからがたに)」は、平安時代末期の寿永2(1183)年に木曾義仲が平家の軍を破った戦闘の舞台として知られています。
この地名は、峠に倶利伽羅龍王を本尊とした倶利伽羅堂があったことに由来するといいます。
入れ墨の名前にも!
俱利伽羅のデザインは、ファッションにも取り入れられていました。
「俱利伽羅紋紋(くりからもんもん)」というのは、背中に彫った俱利伽羅の入れ墨のこと。ここから転じて、入れ墨自体も「俱利伽羅紋紋」と呼ぶことがあったのです。
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主要参考文献
・『新選漢和辞典 Web版』小学館
・『日本国語大辞典』小学館
・『日本歴史地名大系』平凡社
・『世界大百科事典』平凡社
・『国史大辞典』吉川弘文館
・伊藤満「梵字・彫物から見た刀工と修験道の関係」『刀剣美術』394号
・『刀剣甲冑手帳』刀剣春秋