唐突ですが、まずはこちらのジャケットをご覧ください!
背面に紐を結んで作り出された独特なデザインが施されています。これは、とある日本の伝統文化にヒントを得たものなのですが、何だかわかりますか?
そう、このデザインのモチーフになっているのは“緊縛”なんです! 緊縛というと、性的なイメージを持っている人も多いはず。実際私自身もそうだったので、このようにファッションモチーフとして取り入れられているのを知り衝撃を受けました!
このジャケットは、オランダ / ポーランド人デザイナーのアントス・ラファウ氏がプロデュースするブランド「ANTOSTOKIO」の2020年AWの新作アイテム。
海外ではすでに高い評価を得ており、イタリアの有名セレクトショップ「DAAD DANTONE」では日本に先駆けて、展示&販売中なのだそうです。
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日本の伝統とストリートを融合させた「ANTOSTOKIO」
ラファウ氏は、「GIORGIO ARMANI」や「GAP EUROPE」などで経験を積んだ実力派デザイナーで、2020年12月にポーランド語で“東京”という意味を持つ“”TOKIOを冠したブランド「ANTOSTOKIO」をローンチ。
日本の古き良き伝統文化とトレンド感のあるストリートスタイルを融合させた、ユニセックスなプロダクトを展開しています。
ラファウ氏を魅了した“縛る”アートが根付く日本
子どもの頃にポーランドで観たNHK連続テレビ小説「おしん」や「Yohji Yamamoto」「COMME des GARCONS」といったジャパニーズブランドの影響で、日本の文化に関心を持ち始めたというラファウ氏。
次第に歌舞伎、能、寺社など伝統文化にも興味の幅を広げていき、中でも特に惹きつけられたものの一つが、日本の“縛る”文化だったのだそう。そのきっかけとなったのが、神社のしめ縄です。
しめ縄の悠然と佇む力強い存在感と、しなやかで美しいフォルムに魅せられ、日本の“縛る”文化に興味を抱いたラファウ氏。その後、色々と調べていく中で縛るというアートは、神道をはじめ日本の生活のあらゆる場所、物の中に色々な意味合いで溶け込んでいる事を知ったのだそう。確かに日本には縛る(結ぶ)という伝統が随所に存在します。しめ縄はもちろん、引いたおみくじを結ぶ、ご祝儀袋の水引、風呂敷結び、竹垣の結び、おせち料理の定番結び昆布など、意味合いは多少異なれど、日常の多くのシーンでその片鱗を垣間見ることができます。そういった日本の”縛る”文化を紐解いていく中でラファウ氏がたどり着いたのが、緊縛だったのです。
緊縛とは、元々江戸時代に罪人を拘束するために発達した捕縄術と呼ばれる武術の一種。明治時代に日本画家・伊藤晴雨(いとうせいう)が緊縛された女性などをモデルに官能美を表現する“責め絵”を数多く描き、これが今のアングラでエロティックな緊縛のイメージに繋がっています。
多くの日本人がエロスを表現する手段として緊縛を捉える一方で、ラファウ氏はアートとしての可能性を感じたのだそう。「緊縛を性的な描写で見るのではなく、動けないように固定するという強制的な強さとは対照的に、紐を結び模様を作り一つのアートを生み出す美しさに日本の美を感じたのでデザインに取り入れたいと思いました」
そういった外国人デザイナーならではともいえる解釈で、「ANTOSTOKIO」のアイコン的デザインの一つとして緊縛が取り入れられています。
緊縛美を具現化した「ANTOSTOKIO」のジャケット
ラファウ氏が惚れ込んだ美しき緊縛。そのデザインを取り入れた代表的アイテムが、冒頭でもご紹介した2020年AWの新作「MA-1ジャケット」です。バックにグラフィカルな緊縛デザインを施したユニセックスジャケットで、従来のイメージとは異なる洗練されたエッジイなシックスタイルへと変化を遂げています。
帯締めに使われる「丸ぐけ」を緊縛デザインに使用
緊縛部分の紐には、着物の帯締めなどに使われている丸ぐけ(意味:真綿などを芯にして、丸い棒のように絎(く)けて仕立てた紐のこと)を使用。素材には綿とポリエステルを使用しており、男性的なシルエットのジャケットに、柔和さと上品さを感じさせる女性的なニュアンスをプラスしています。
けれども、現在出回っている丸ぐけの多くは正絹(しょうけん)で作られているため、綿の丸ぐけを製造している工場を探し出すのに大変苦労したのだそう。
現在依頼しているのは、婚礼・七五三用の丸ぐけをメインで製造している京都・亀岡市の工場「加藤良株式会社」。丸ぐけの帯締めの長さはだいたい150cm程度が一般的ですが、今回使用したものは3m近くにも及ぶかなりの長尺!
工場でもこんなに長い丸ぐけは作った事がなく、ブランドとしてはもちろん工場としても新たな挑戦だったのだとか。綿の量や太さなどを調整しながら何度も試作を重ね、ようやくオリジナルの丸ぐけの完成に至ったそうです。
蔵で眠っている着物生地を使用
「MA1ジャケット」をはじめ、同ブランドの製品の多くは生地に反物(たんもの)を使用しているのも大きな特長。老舗の呉服屋と連携して、着物需要の低下などにより買い手がつかずに蔵で眠っている反物を調達し、洋服やバッグなどの生地としてリユースしているのだそうです。
匠の技術が詰まっているうえ、限られた数量しか作れないためレア感もありますね。
バッグにも緊縛デザインをプラス
緊縛デザインは、バッグにも使われています。ジャケットよりもさらに従来の緊縛感がなく、言われないと分からないようなさり気なさ!こちらも着物生地を使用しているので、洋服にはもちろんカジュアルな和装スタイルにもなじみそうです。
緊縛だけじゃない!日本の伝統を取り入れたTシャツにも注目
「ANTOSTOKIO」のプロダクトのデザインモチーフは、緊縛だけではありません!
例えばこちらのTシャツ。なんと春画がデザインされているんです!
海外では一つのアートとして高く評価されている春画。アートとしての美しさにの中に、滑稽さやダイナミックさなどウィットに富んだ趣向が凝らされていて、ラファウ氏自身もとても関心を持っているのだそう。ただし、そのままプリントするにはあまりにも露骨なので、同じく江戸時代に流行した市松模様と組み合わせて、オシャレにアレンジ!一見春画とは分かりませんが、よくよく見ると「あれ!?」という発見を楽しめるところも魅力ですね。
さらに、今後はアイヌの織物を使ったアイテム製作も検討中とのこと。どのような形でアップデートされるのか、期待が高まります!
2021年には新作「KIMONO BEAT」が登場!
さらに、2021年3月には、SSコレクション「KIMONO BEAT」をリリース予定。近年リバイバルファッションが注目されており、中でもストリートファッション黄金期である90年代のスタイルがじわじわと盛り上がりを見せているのだそう。
着物生地や春画などをカラフルにプリントして、伝統と90年代ファッション、そして現代のストリートスタイルを見事にマッチさせたクールな一着となっています。
また、着物の生地を使ったバッグや帽子も登場。ボヘミアンスタイルを掛け合わせたデザインで、若い人が取り入れやすいよう程よくカジュアルダウンさせています。
“持続可能な”伝統の継承を目指す「ANTOSTOKIO」
ラファウ氏のデザイナーとしての審美眼と外国人ならではの解釈で、日本の伝統とストリートスタイルをナチュラルにコラボレートさせている「ANTOSTOKIO」。一見堅苦しいイメージを持たれがちな伝統文化を“楽しく、美しく”自然に日常の中に溶け込ませることをブランドポリシーとしてしており、その根幹にあるのは、ファッション業界でも広まりつつあるSustainable(サステイナブル)です。
買い手がつかなかった反物を生地として使用するというエコな側面はもちろんですが、文化の継承は業界全体の持続可能性に寄与することも意味しています。前出の京都の工場と協力してオリジナルの丸ぐけを作製したことについて、ラファウ氏はこう語っていました。「おこがましい事かもしれませんが、今回の丸ぐけに限らず日本には素晴らしい技術を持った工場が沢山あります。このような歴史ある工場を無くさない為にも微力ながら支え合っていけたらと思っています」。
伝統を継承するということは、すなわち高い伝統技術を持った職人と一緒に新しいものを生み出していくということ。そして、緊縛や浮世絵、着物など縁遠くなりつつある日本の伝統をファッションに昇華させ、それを消費者が意識せずとも自然に手に取り、現代のサイクルの中にスムーズに組み込んでゆく。
そんな新たな可能性の扉を開き、ファッションを通してサステイナブルな伝統文化を目指す「ANTOSTOKIO」の取り組みから、今後も目が離せません!