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2021.01.14

呪いで欠席?遅刻も当たり前!時間にルーズだった平安貴族に学ぶ、現代サラリーマンの働き方

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世界でも群を抜いて時間に正確、かつ厳しい国、日本。電車は秒単位の緻密さで発着するし「30分前出勤」が当たり前のように求められる職場もあります。

そんな現代から遡ること約千年。今で言うところの「国家公務員」のような存在だった平安貴族たちは、遅刻や早退が当たり前。しかも「呪い」が理由で欠席することもあったのだとか! 平安貴族の遅刻に関する研究を行っている、活水女子大学・細井浩志教授が、給湯流茶道さんの主催するZOOMトークショーに登壇されました。学生時代から平安文学を学んできた私ですが「遅刻」という観点で平安貴族をみたことがなかったため「新しい平安時代の姿が見えてくるかも」との期待のもと、トークショーに参加してきました!

細井浩志教授プロフィール

活水女子大学・細井浩志教授
長崎県にある活水女子大学で、日本史学(古代史・主に陰陽道、史書史、長崎県地域史)を専門に研究。

平安貴族の遅刻が多いことは以前から知られていたが、誰も研究はしていなかったので、自身が「平安貴族の遅刻」のパイオニアに。大学で陰陽道の研究をすると決めた際は、ダメとは言われないが「そんなこと研究してどうなるの?」という不穏な空気を感じたとか。

全員で「論T」を着て出席!

今回のトークショーでは、細井教授の論文がプリントされた、ロンTならぬ「論T」を着用しました。

スーツ姿の素敵な男性が、細井教授です

論T考案者の方によると
「世の中には面白い論文があるので、面白い論文を読む機会が増えたらいいな」
とのことです!

「論T」に関して詳細はこちら

平安貴族の遅刻の理由

現代の私たちの遅刻の理由と言えば、大半が寝坊や電車の遅延ではないでしょうか。平安貴族は一体どのような理由で遅刻していたのか、細井教授の論文をもとにお話を伺いました。

時計がなかった

時計がない! 確かにこれは致命的な原因です。

細井教授(以下、敬称略):だいたいの時間は体内時計でわかるけれど、それは個人差があります。太鼓や鐘で時間を知らせたり、日の高さや北斗七星の向きなど時間がわかるものを組み合わせたりすることもあるけれど、正確ではないですよね。時刻ぴったりに会議や儀式が始まるのは、かなり珍しいことでした。

そもそも全員が同じ「時刻」を共有するのが難しそう! 

細井:陰陽師は漏刻(ろうこく)という、正確に時間を計る水時計を使っていましたが、大きくてスマホや腕時計のようなもって歩けるものではありません。

「呪い」のせいで遅れる

の、呪い……? 現代からみると、なかなか奇抜な遅刻理由に感じられます。

細井:呪いがかけられることで、外出できない時間が発生してしまうことがあります。平安時代では「呪い」は公的なもので、陰陽師が政府の命令で呪うこともあるのです。

呪いは、ごく当たり前のものだったのですね。

細井:物忌(ものいみ)と言って、災いを避けるために外出を控えることもありました。ただそれにも建前があって「今日物忌なので、行かないほうがいいですよね?」みたいな、遅刻や欠席の理由にもなっていたようです。

なるほど! 現代なら「今日風邪っぽいので、みなさんに移したら悪いですし、出社しない方がいいですよね?」みたいな感じですね。

朝起きられない

朝起きられない! すごくシンプルな理由です。私もどうしても起きられない日はたまにあります。

細井:平安貴族は深夜まで仕事したり、飲み会を開いたりしていたので、単純に朝起きられないこともあります。

なんだか平安貴族に親近感がわいてきました。

間に合わないものは間に合わない

電車が遅延した時など、どう頑張っても間に合わないことは、現代にもあります。

細井:平安時代は道が今のように舗装されていないので、雨が降ったら道路がぬかるんで大変。野犬が多く、糞もそこらじゅうに転がっています。そんな状況ではどう頑張っても間に合わないので、最初から行かないこともありました。

平安貴族は意外と忙しい!

和歌や蹴鞠(けまり、サッカーのような遊び)を嗜(たしな)み、なんだか暇そうなイメージの平安貴族。しかし、意外にも現代のサラリーマンと同じく、激務だったのだそうです。日記から読み取れる平安貴族の仕事ぶりを伺いました。

寝る時間もないほど不規則な生活

細井:当時は照明に必要な「油」が高価だったので、基本的に夜更かしはできません。しかし、国の中央である朝廷には油がたくさんあったため、夜更かしできてしまうんです。

なるほど、現代も24時間パソコンが使えることで便利ではあるものの、逆に一日中仕事ができてしまいます。

細井:平安貴族が短命だったのは、睡眠時間が足りなかったのも原因でしょう。

光源氏の仕事は暇だった?

平安時代を代表する人物と言えば『源氏物語』の主人公、光源氏。実在の人物ではありませんが、その仕事ぶりについての考察もお話いただきました。

細井:光源氏の役職は、ほとんど実務を伴っていなかったのではないかと思います。光源氏は天皇の息子で絶世の美男子。そんな男が、他の貴族たちと同じようにヘロヘロになるまで仕事をしていたら、絵になりません。見栄えがいいので傷ものにするわけにもいかないですし、人気が落ちるのも良くないですね。

今でも社長の息子だったりして、何となくみんなと同じ仕事をさせるわけにはいかない「取り扱い注意」の人物っています。

細井:たくさんの女性と恋ができたのも、あまり実務がなくて暇だったのかもしれません。

確かに、他の貴族のように毎日深夜まで働いていたら、とても恋愛どころではありません! 「遅刻」や「仕事」という点に着目すると、光源氏の新しい一面が見えてきました。

時間に厳しい現代人へのアドバイス

最後に、現代の私たちに向けて、時間に関するアドバイスをいただきました。

本当に自分がやる仕事なのかを考える

仕事ができる人には、どうしても仕事量が偏ってしまいます。ひとつ仕事を終わらせたら、またその次の仕事……。これではいつまでもキリがない!

細井:「この仕事は、本当に自分がやるべき仕事なのか?」ということは、誰でも考えることができます。それを判断して、仕事量をコントロールするのも大切です。

なるほど。人を上手に使うのも、仕事ができる人の条件かもしれません。そして細井教授は、このようにもおっしゃっていました。

細井:ちょっとくらいサボっても、組織は回る。ふだん仕事をしている人ならば、そのくらいの気持ちが必要です。

細かい時間は実在しない!?

1分1秒を争うほど忙しい、現代の日本人。最後に、そもそも「時間」という概念から考えさせられるお話も伺うことができました。

細井:時間ってもともと大雑把なものです。体内時計に「秒」なんていう単位はありません。人間が計るようになってから、どんどん細かくなっていきました。なので、秒単位の細かい時間が実在すると考えすぎない方がいいでしょう。

……確かに! 時計を見なければ、外が明るくなって目が覚め、お昼ごろにお腹が空き、暗くなったら眠る。そんな大雑把な時間感覚で生活することになります。

細井:時間を精密に計るのには限度があるので、ある程度のところでやめておく必要があります。例えば、オリンピックのタイムも「これ以上は計測しない」というラインがあるそうです。人間、ほどほどにしておくことも大切でしょう。

時間より大切なこと

仕事をしっかりこなしたり、時間に遅れないように行動したりすることは、社会人としてとても大切なことです。でも、時間に囚われるあまり、自身の健康など本当に大切なものを失っては本末転倒。あまりに忙しい現代、遅刻や早退が当たり前だった、平安のエッセンスを取り入れることも大切なのかもしれません。

今回の細井教授のトークショーでは、最初に教授からこのような案内がありました。

「途中で早退しても大丈夫ですよ」

この一言から、相手の「時間」や「生活」を思いやる、細井教授のあたたかい人柄とユーモアを感じました。時間とは、人をがんじがらめにするものではなく、目安のひとつでしかない。時間に対する見方がかわったことで、少しだけ心が軽くなった気がします。

アイキャッチ画像:『源氏物語絵巻』国立国会図書館デジタルコレクションより

書いた人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。

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「下ネタは人類の共通言語だ」をモットーに、下ネタを通して日本の歴史の面白さを伝える。中の人は女子校育ちの耳年増。男の目の届かない花園で培った下ネタスキルを活かしたい。