なんでだか、教えてもらった通りに着ているつもりでもうまくいかない。おはしょりがもこもこしたり、衿が浮いてきたり。こんな起こりがちな悩みをどうにかできないかと、夏になると毎年浴衣を着ている私が、着付け教室「鞠小路(まりこうじ)スタイル」を主催する田中千衣子先生に解決のポイントを教えてもらいました。
田中先生が提案する着付け教室「鞠小路スタイル」とは?
今回教えていただいた田中先生が主催する「鞠小路スタイル」は、着物好きの間で話題の着付け教室です。
「着物を着たほうが身体が楽になる」と評判になっている秘密は、着物が本来持つ力を最大限に活かすことで、結果的に身体が整う独自の「無重力着付け®︎」にあります。
この、シンプルでわかりやすいメソッドは、着物を初めて着る人はもちろん、上級者にとっても目から鱗が落ちるほどで、改めて教室に通う人も多いのだとか。
「着物は本来、着る人それぞれの体型に合わせて綺麗に着られるようにできている衣服」という観点で考えられた着付けは、悩みの原因を根本からクリアにし、結果的に美しい着付けが実現できます。
現在は京都と東京を拠点に教室を開いているそうで、詳しくはオフィシャルブログをご覧ください。
腰紐の結び方にコツがあった!
田中先生によれば、浴衣の着崩れやおはしょり、衿浮きといった悩みの多くは腰紐(着付けで腰などに締める紐)を結ぶ位置や結び方で解決できるそう。私も実際にその考え方を理解したうえで結んでみると思ったよりすんなりできました。
そこで、どうやって結べば良いのか、具体的な位置や結び方を解説します。
1.腰紐を腰骨に引っ掛けてあてる
浴衣に袖を通し、上前(うわまえ)を右にもってきたら、腰紐の出番。
腰紐は身体の右脇あたり、腰骨の一番高いところにひっかけるようにあてて右手で押さえ、左手で腰紐を張りながらお腹にぴったりと密着させて左脇へもっていきます。
2.背中側で腰紐を交差させる
おなか側の腰紐の位置が決まったら、背中側へ腰紐を回します。腰紐の位置は脇より背中側が高くなるように交差させます。背骨のへこんでいるところに腰紐をあて、多少きついと感じるくらいに締めます。
腰紐は短くもってしっかり締めます
3.最後に前で蝶結び
背中側で交差させた腰紐の端を身体の前にもってきて、腰紐が緩まないようにしっかり蝶結びをします。最後に、腰紐の端を紐に入れ込んでできあがり!
どうしてこの手順?を理解できたらお悩み解消
上の結び方だけを読んでも、なかなか再現するのは難しそう、何となくわかったようなわからないような・・・という方が多いのでは。
実は大切なのが、「なぜそのような結び方をするのか」という理由。私は「なぜ」という部分を先生に解説していただいたことで、より結びやすくなりました。ポイントは身体と浴衣の構造です。
腰骨の傾斜と着崩れの関係
手順を理解する上で大切なひとつめのキーワードが「腰骨」。自分で触ってみて初めて実感したのですが、腰骨は前傾しているんですね。 骨の一番高い位置や傾斜を意識して腰紐をあてることで、腰骨にかかる状態で結んで着崩れてしまうことを防げます。
苦しくない着付けのポイントは身体の形に沿った結び方
ふたつめのキーワードが「身体の断面」。こちらはお腹の断面のイメージ図です。実はお腹ってただの楕円ではなくて、背骨の部分は少しへこんでいるし、お腹側はゆったりと丸みを帯びています。そのため、それぞれの部分に合った紐のあて方をすることで、腰紐のフィット感が高まり、快適かつ着崩れない着方になるんだそう。
おはしょりのモコモコ、衿浮き。解決の鍵は浴衣の構造を知ること
3つめのキーワードが「浴衣の構造」。浴衣って前側と後ろ側の長さが対称にできていますよね。そのため、衣紋を抜くと、浴衣の肩から裾までの長さが前側と後ろ側で異なります。腰紐が床と水平に結ばれていると、前側に対して後ろ側は長いおはしょりになるため、前後のおはしょりのバランスが悪くなり、右前側がうまく収まらず、モコモコになってしまうんです。
身体の前後でおはしょりの長さが大きく異なると、おはしょりがうまく収まらない状態に。
たとえ長い方のおはしょりを折ったりして見た目を整えたとしても、結局、後ろ側の長いおはしょりが緩んで衿が浮いてくるんですね。そのため、背中側で腰紐を結ぶ位置をお腹側の位置よりも上にしてあげると、結果的に前後のおはしょりの長さが整うというわけです。
田中先生は、「着物や浴衣の着付けのお悩みでよく皆さんが口にする、おはしょりをまっすぐにしたい、などは、本来それを目的にするものではないと思います。うまく着ていると結果的にそうなる、着物からのサインのようなもの。腰紐を先程の手順で結ぶと整えやすいですよ」と説明してくれました。
気をつけたいポイントは?
腰紐は腰骨よりも上で結ぶ
腰骨にかぶる状態で腰紐を結んでいると、下の写真のように、ウエストの細い部分に向けて、腰紐がずれやすくなってしまい、着崩れの原因に。
背骨の近くで締めるようにする
腰紐を交差したあと、背中側で締める時の手の位置も大切で、交差した場所の近くを持って締めます。私は浴衣が着崩れないよう、写真のようにしっかり締めたつもりだったのですが、身体に沿って結べていなかったので腰紐が食い込んで、お腹周りが苦しくなってしまいました。
写真では腰紐が腰骨にかぶった状態で、背中側の交差した場所から遠いところを持って締めたため、腰紐の位置がずれ、更にお腹も苦しいという悲惨な状況に
上前と下前(したまえ)を着崩さないために、腰紐は重ねて結ぶ
このように腰紐がずれていると、それだけで浴衣と体を密着させる力が弱まり、着崩れの原因に。自分ではできているつもりでも意外とずれていたので、姿見でチェックしながら結び直しました。
おはしょりが長い場合の対処法
もし帯まで着付けた後に、おはしょりが長いと感じたら、帯のすぐ下の出っ張った部分を帯の中に入れ込んで、おはしょりの下の部分を再度平面になるように直します。その後右手の甲を下にして、帯と浴衣の間に入れ、左から右にスライドさせて浴衣の皺をとります。
①おはしょりをつまんで帯のなかに入れ込む
②帯と浴衣の間に手を入れ、左から右にのばして皴を整える
③ほら、このようにきれいになりました!
おまけ・衣紋を抜くことで美しい着姿に!
衣紋(えもん)を抜くことによる変化のひとつが身体へのフィット感。下の写真をご覧ください。上は衣紋を抜く前、下は抜いた後です。
上は浴衣が身体から少し浮いていて、下は背中の形にぴったり添っています。浴衣や着物には、着る人それぞれの身体に沿うように考えられた着方があるのです。そして、浴衣や着物は実はそれぞれの人の身体にフィットするようにできていることがわかりました!
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