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Culture
2021.03.09

歌舞伎でキレッキレのNiziUダンスも!アクロバティックな立廻りで大活躍「やゑ亮&音蔵コンビ」に注目!

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和樂4月号本誌の連載「ニッポンの伝統芸能を支える人々」で、立廻りを演出する立師の山崎咲十郎(やまさきさくじゅうろう)さんを取材させていただきました。歌舞伎の舞台では、刀を使った斬り合いや捕り物などの場面を様式的な動きで表現します。その動きを立廻りといい、振付を演出する人を立師といいます。主役の周りで大勢の捕手が下座音楽やツケ(歌舞伎の効果音)に合わせて見得をしたり、ときには捕綱や梯子を使ってアクロバティックで美しい動きを見せたり、とんぼを返ったり(宙返り)。その立廻りの迫力は歌舞伎の見せ場であり、 醍醐味でもあります。 今回、主に菊五郎劇団の立師として活躍する山崎咲十郎さんを取材するにあたり、実際に舞台の立廻りの場面などで大活躍している若手の名題下俳優、坂東やゑ亮(ばんどうやえすけ)さんと&尾上音蔵(おのえおとぞう)さんにご協力いただきました。それを機に、立廻りに注目して舞台を観てみると、歌舞伎が一段と楽しくなりました。

今注目のキレッキレの「やゑ音コンビ」の立廻りや、彼らの素顔を本誌では詳しく紹介できませんでしたが、和樂webで、たっぷり紹介いたしましょう!

中央が、立師の山崎咲十郎さん。今回の本誌の撮影でご協力いただいた坂東やゑ亮さん(左)と、尾上音蔵さん(右)。立木義浩先生に記念写真を撮っていただきました(撮影のためマスクを外しています)。

まずは、坂東やゑ亮さんの身体能力を動画でご覧あれ!

まずは、やゑ亮さんのとんぼの動画『全集中!!水の呼吸 弐ノ型 水車!!!!』をご覧ください。

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まさしく『鬼滅の刃』の炭治郎もびっくりの身体能力です。只者ではない回転力ですが……それもそのはず、やゑ亮さんは5歳頃から15歳までフィギュアスケートをやっていて、小、中学時代は全国大会で羽生結弦選手とも戦っていたそうです。また、同時に歌舞伎は福岡の児童劇団に入って5歳頃から子役として歌舞伎の舞台にも出ていたそうです。

「子役時代、小学3年生のときに『於染久松色読販』の油屋の丁稚 長太の役で坂東彦三郎 (当時亀三郎)さんと共演させていただいたのですが、とても優しくしていただいて、若旦那を大好きになってしまい“小学校を出たら歌舞伎役者になって、あの人のところに入るんだ”と言ってました。子役の先生・音羽菊七先生が繋いでくださり、中学校を出ても気持ちが変わらなかったらいらっしゃいと言われて、中学を卒業してから上京して弟子にしていただきました。母には高校を出て欲しいといわれたので、高校に通いながら舞台に出るということを3年間させていただきました。歌舞伎が好きでこの世界に入ったというよりも、ただただカッコ良くて、優しくしてくださった亀三郎さんが好きで、何一つ知らずに右も左もわからないゼロの状態で入りました。歌舞伎の世界に入って12年。名題下という立場なので、まだまだそんなに いい役はもらえませんが、菊五郎劇団という座組は立廻りが魅力の座組みで、立廻りがうまくできれば、絡みの中でもいい役をいただけるときがあるんですよ。たとえば『彦山権現誓助剣―毛谷村』 という芝居の、忍びの浪人役をもらえたりします。今はそういう役を少しでも多くできるように目指してやっています。そこは今できるうちに全部やりたいと思います。いずれトンボは返れなくなるので、それまでにいろんな勉強をしておいていつか名題さんに上がり幅広いお役の勉強をさせていただければと思います。 今は、今しかできない役をやりたいです」と、やゑ亮さん。

こちらのYouTubeでは、やゑ亮さんがとんぼの解説をしています。併せてご覧ください。
●歌舞伎の「とんぼ」を解説します【歌舞伎ましょう】

ストリートダンスが得意な、尾上音蔵さん扮する土蜘蛛のキレッキレのNiziUダンス

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なんとキュートな動画なんでしょう♡今年1月に、国立劇場で上演された菊五郎劇団の通し狂 言『四天王御江戸鏑』では土蜘蛛に紛した音蔵さん。本舞台の劇中では出演者たちが皆でNiziUの縄跳びダンスを踊るシーンがあって話題を呼びましたが、音蔵さんがInstagramにアップしたのは、国立劇場の客席をバックにキレッキレに踊るNiziUダンス。この動画が歌舞伎好きの間で大反響を呼びました。

「僕は子供の頃からミュージカルや舞台が好きで、小学校4、5年生からはストリートダンスや歌舞伎以外の演劇をやっていたんです。大学の時に初めて歌舞伎を見るようになり、さよなら歌舞伎座公演で、前方の席で『蘭平物狂』を観ていたんですが、井戸から灯籠に返り落ちする立廻りを観て“これをやりたい、俺、できる!”と思って(笑)、そういう変な自信があるんですよね。でも、入ってから叩きのめされるんですけど(笑)。それまでは歌舞伎に立廻りがあることもよく知らなくて、大学を卒業する時に、国立劇場の研修所で募集しているのを知って、この道に進みました。
歌舞伎は詳しくありませんでしたが、旦那様(菊五郎)の世話物『髪結新三』や『弁天小僧』がとにかくカッコよくて好きでした。新三は凄く乱暴なまとめ方をすると、ヤンキーが調子に乗ってヤクザに殺される話なのですが、それがなんでこんなにカッコいいんだろうって……。それで、この人のところに行きたいなと思ったんです。もし旦那の新三がなかったら、僕は歌舞伎の道には入ってなかったかもしれません」と、音蔵さん。

こちらのYouTubeでは、音蔵さんが歌舞伎の化粧をしながら流暢な英語で解説しています。子供の頃、海外で生活をしていたことがあるそうです。
●【KABUKI Makeup】尾上音蔵、歌舞伎の化粧を英語で解説【歌舞伎ましょう】

国立劇場の楽屋にて、音蔵土蜘蛛に襲われそうな、やゑ亮さん。

やゑ亮さんが27歳で、音蔵さんは33歳。7、8年前から歌舞伎でもプライベートでもずっと一緒にいることが多いそうです。6歳離れているけど、やゑ亮さんの方が3年早く歌舞伎界に入っているので先輩になるんです。「年下だけど、達観したところもあるし、互いに尊敬できて、バランスが良く、気を使わない仲で、兄弟っぽいんですよ」と、音蔵さん。

おや? 壁ドン! 恋人にも見えるけど……。

とにかく息が合う! 後輩が目指してくれるような名コンビになりたい

さて、ふたりの息のあった「とんぼ」を動画で見てみましょう!

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2月歌舞伎座の『神田祭』では仁左衛門さんを相手にふたりは鮮やかな立廻りを見せました。
やゑ亮「もともと息が合うというか、シンクロ率が高い。背格好も似てるし、やることも似てるし、常に一緒に舞台に出てるので、完全に息が合うペアみたいな感じで。お互いの間がわかるというか、合わせようと思わなくても見事に合うのがすごいね、僕たちこれだけは(笑)」

音蔵「うん。ふたりでペアを組むことが圧倒的に多くて、いつもは基本的に自分の動きを見ていますが、あらためて引いてふたりの動きを確認したときに“えっ、めちゃくちゃ揃っていませんか?”となる。返り越しという互い違いになって跳んで入れ替わる技で、そのあとグルっと一緒に返っても…どんな大技でも大体揃います。本当に揃っていてふたりで自画自賛するんです(笑)」

やゑ亮「僕らの先輩たちにも、たとえば菊五郎劇団でも二人がかりで複雑な立廻りの技をやるならあの二人というような歴代の名コンビがいるんです。そういうコンビに名を連ねられたらいいなという気持ちでやっています。後輩が目指すような対象になれれば嬉しいですね」

音蔵「でも、トンボができるだけではダメなんです。トンボに行くまでの立廻りが大事で、立廻りにあったトンボを返らなければいけない。たとえば『神田祭』のような立廻りは舞台が華やかになるように軽やかに音を立てない。逆に、時代ものの『車引』などは、本業(文楽)でもベシャっと倒れますから、倒されるときはどどーんといった方がいい。トンボだけでも、いろんな返り方や芝居心を持って返らなきゃいけないんです。先輩には、今やっていることが正解だと思うなよ、と言われてきました。今でも正解じゃないと思うし、色々と考えるようになりました。僕たちもまだまだ自信持って言えない、模索中です」

憧れの踊り『三社祭』を二人で共演。仲良しだけど、良きライバル!

『三社祭』(写真提供/国立劇場)

立役なら誰もが踊ってみたいと思う、歌舞伎舞踊『三社祭』。この写真は、国立劇場の「稚魚の会歌舞伎会合同公演」でやゑ亮さんと音蔵さんが踊った『三社祭』です。夏に勉強できる貴重な機会。ふたりだけで15分間踊るのですが、稽古だけは3ヶ月間したそうです。

『三社祭』(写真提供/国立劇場)

踊り方や、立廻りの仕方、トンボの返り方はそれぞれ違っても、ふたりのタイミングや息が不思議とぴったり合っています。

とはいえ、ふたりは良きライバルなのです。「負けたくない」「いい役がついてチクショーと思うこともある」と、ふたり。重要な役がいただけるかどうかは、実力だけじゃなくて家によっても違いがあるそうです。出し物を出す事が多い尾上菊五郎門下の音蔵さんは、当然チャンスが多いでしょう。でも、「僕は音蔵に比べるとチャンスが少ないですから、別の旦那の出し物で、うまく入り込むしかない。だから、“あいつなら大丈夫”と、顔を覚えていただくしかないんです」と、やゑ亮さん。「その代わり、いろんな方に引っ張ってもらって、僕らができない役をやれたりするので、いいなあチクショーと思うこともあります(笑)。いい意味で互いに触発され、意識しています」と、音蔵さん。

ラスト1分ほどのふたりの立廻りに注目!

3月の歌舞伎座二部で、ふたりは『雪暮夜入谷畦道 直侍』に出演し、立廻りを見せてくれます!最後の場面で、尾上菊五郎丈が演じる直次郎を追う捕手の役。 「音羽屋の旦那(菊五郎)の出し物です。最後に音羽屋の旦那が逃げるんですが、それを追う捕手を二人を僕たちコンビで勤めます」と、やゑ亮さん。

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「旦那たちの芝居を最後の最後に壊さないように、江戸の岡っ引きらしいキビキビした感じのところを出せたらいいなと思っています。最後の1分くらい、本当に一瞬なんですけど、最後のところで、旦那に“音蔵とやゑ亮で”と言ってもらえて、すごく嬉しかったです」と、音蔵さん。「主役の旦那方だけでなくお弟子さんのことも一生懸命観てくださっている方もいます。一人でも観てくださる人がいると思うと頑張れますし、気合いが入るね」と、ふたりが顔を見合わせました。
風が吹き抜けるかのような清々しい江戸の岡っ引きに注目してみましょう!

二人で「立廻り」の解説YouTube!

歌舞伎の闘いの場面の演技・演出である「立廻り」が、歌舞伎の立廻りがど のような流れでできているのかを、立師の山崎咲十郎の指導のもと、実演をまじえながらふたりがYouTubeで解説しています。
●歌舞伎の「立廻り」を解説します【歌舞伎ましょう】

★やゑ音コンビのプロフィール&情報

坂東やゑ亮●ばんどうやえすけ

『彦山権現誓助剣』忍びの浪人役(写真提供/国立劇場)

立役。坂東楽善一門。1993年生まれ。2009年3月坂東彦三郎(現・楽善)に入門。10年1月国立劇場『旭輝黄金鯱(あさひにかがやくきんのしゃちほこ)』の花四天で 坂東やゑ亮を名のり初舞台。11年1月『四天王御江戸鏑』の立廻りで国立劇場奨励賞。14年1月『三千両初春駒曳』の立廻りで、15年1月『南総里見八犬伝』の立廻り で、16 年1月『小春穏沖津白浪(こはるなぎおきつしらなみ)』の立廻りで、17年1月『しらぬい譚(ものがたり)』の立廻りで、19年1月『姫路城音菊礎石(ひめじじょうおとにきくそのいしずえ)』の立廻りで国立劇場特別賞。
坂東やゑ亮 Instagram https://www.instagram.com/yaesukebando/
坂東やゑ亮 twitter https://twitter.com/yaesukebando

尾上音蔵●おのえおとぞう


立役。尾上菊五郎一門。1987年生まれ。2013年国立劇場第20期歌舞伎俳優研修修了。4月尾上菊五郎に入門し、歌舞伎座『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』の捕手で尾上音蔵を名のり初舞台。2014年1月『三千両初春駒曳』の立廻りで、15年1月『南総里見八犬伝』の立廻りで、16年1月『小春穏沖津白浪(こはるなぎおきつしらなみ)』の立廻りで、17年1月『しらぬい譚(ものがたり)』の足利家老女南木の吹替で、18年1月『世界花小栗判官』の鬼鹿毛で、19年1月『姫路城音菊 礎石(ひめじじょうおとにきくそのいしずえ)』の立廻りで国立劇場特別賞。

尾上音蔵 Instagram https://www.instagram.com/zoo.aka.otozo/

★ちなみに、本誌で取材させていただいた立師の山崎咲十郎さんは、3月は国立劇場の『時今也桔梗旗揚』「本能寺馬盥の場大」の大名・鈴木早太武常として出演中です。