平安時代の人々が美を見出したのは、男女の逢瀬が「終わった後」。明け方に二人が別れることは「後朝(きぬぎぬ)」と呼ばれ、多くの平安文学に美しい後朝の情景が描かれました。
そこで「後朝ってどんな感じ?」ということを、現代の私たちにもわかりやすくご紹介します!
後朝とは?
後朝とは、夜に逢った男女が、翌朝別れることを意味します。
平安時代は妻問婚(つまどいこん)と言って、男性が女性の家に通う婚姻スタイルが一般的でした。そのため、朝になったら一度別れなければならないのです。
また「後朝の文(ふみ)」と言って、自宅に帰った後、男性から女性に手紙や和歌を送る風習がありました。今でも別れた直後に、このようなLINEのやりとりなどするのではないでしょうか。
ちなみに上記の画像は、「MOSO」というアプリでAIと後朝っぽいトークをしてみた様子です。AI相手にこんなこと言って、とっても恥ずかしくて複雑な気持ちになりました。正直、二度とやりたくないです。気になる方はインストールしてみては。
枕草子に書かれていた理想の後朝
清少納言が書いた『枕草子』「暁に帰らむ人は(明け方に帰る人は)」の箇所には、平安貴族の「理想の後朝」が描写されています。原文がちょっと長いので、意訳だけご紹介します。
【理想の後朝】
男は、明け方の帰り際にセンスが出る。女に「早く起きてください。みっともないわ」と言われて渋々起きて溜息をついたりするのは、もっと一緒にいたい感じがしていい。
着物もすぐに着ないで、女に近寄って夜のウフフな言葉の続きをささやき、いつの間にか着替えが終わっているといい感じだ。
(中略)
【BADな後朝】
スッキリ起き上がって、なんだか騒がしくきっちり着替え、帽子まできちんと被りなおす男。枕元に置いたはずなのにいつの間にか散らかってしまったものを「どこだ、どこだ」と探して見つけ「それじゃ失礼します」などと言って出ていくのはね……。
つまり理想の後朝は「もっと一緒にいたい」感じを出しつつ、さりげなく支度を終えていること。対して爽やかに目覚め、さっさと着替え、スマホを慌ただしくポケットに突っ込み「じゃ、また!」なんて出ていくのは……確かにちょっと風情がないかもしれませんね。
光源氏が詠んだ、狂おしい後朝の歌
後朝の和歌には、どのようなものがあったのでしょうか。一例として『源氏物語』から、私の大好きな歌をご紹介したいと思います。
見てもまた逢ふ夜まれなる夢のうちに やがてまぎるる我が身ともがな
昨夜のように愛し合うことがこの先できないなら、あなたと過ごすこの夢の中に紛れて消えてしまいたい
『源氏物語 若紫』より
これは、光源氏が義母と禁断の逢瀬を遂げた翌朝に詠んだものです。天皇である父の妻との恋。「夢のようなこのひとときがずっと続けばいいのに……」。張り裂けるような光源氏の胸の痛みが伝わってきます。
アイキャッチ画像:『源氏五十四帖 八 花宴』著者:月耕 国立国会図書館デジタルコレクションより
参考書籍:日本古典文学全集『源氏物語』『枕草子』小学館
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