「大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない」というのは、和樂web編集部のchiakiさんのプロフィール。うん、確かに(笑)。
ガチで平安文学を専攻し、今も源氏物語ワールドに生きている人がいるなんて、世界は広い。わたしも源氏物語なんて受験以来すべて忘れましたが、たまたま『易・五行と源氏の世界』(吉野裕子)という本を手にし、源氏物語をちょっと読み返すと世界が一変!
源氏がモテモテなのも、子どものうちで夕霧が源氏の後継者となったわけも、すべて宇宙のしわざってわかった(ような気がします)。
源氏物語って「イケメンの光源氏がヤリまくる話」?
源氏物語は平安中期の長編物語。作者は、紫式部という女性です。主人公の光源氏は常にモテモテです。詳しいあらすじは以下のリンクでどうぞ。
某知恵共有サービスでは、「千年経っても変わらない人の感情を紡ぐ物語」「格調の高いポルノ小説」など、人それぞれに評価しているのがおもしろいところ。「格調の高いポルノ小説」って、うまいこと言うなあと感心しつつも、わたしもきっと「イケメンの光源氏がヤリまくる話」と要約するでしょう。
ちなみに、chiakiさんは「人生のバイブル」だそうです。
光源氏のモテモテ話をスピ目線で眺める
絶世の美男子こと、光源氏。「光」は輝くような美貌からついたあだ名のようなもので、「源氏」は天皇からもらった姓です。
『易・五行と源氏の世界』の本では、「『源』(の字)は水の元」と記述しています。「この世のすべては木・火・土・金・水という5つの要素からできている」とする五行説に基づくと、源氏物語の主人公である光源氏は「水」の要素に分類されます。
ここからは、わたしの持論となります。水ということはですね……。
「生命の起源が海である」という考えがあるように、水は万物が兆すところであり、母の子宮のようなもの。そこから転じて、水は悩み、性愛などといった意味合いです。
光源氏の初恋の相手は、父の桐壺帝(きりつぼてい)の後妻である「藤壺(ふじつぼ)」で、つまり義母です。禁断の恋と知りつつも、「幼くして死別した生母に似ている」と恋心を募らせ、一線を越えてしまいます。その後、光源氏は「紫の上」と「女三宮(おんなさんのみや)」を妻として迎えるも、どちらも藤壺の姪。平安時代は一夫多妻制とはいえ、これ以外にも数多くの女性とドロドロ愛憎劇を繰り広げました。
多くの女性と浮名を流しましたが、光源氏はややこじらせ系の印象がありませんか。明るくあっけらかんとしたモテであれば、五行でいえば「水」の正反対にある「火」のイメージ。光源氏のモテは、暗い穴に向かう「水」のようなじめっと感あふれる性愛世界です。
モテモテ男は出世する?女性は財だから
光源氏は美形に生まれてモテモテなだけでなく、準太上天皇(じゅんだじょうてんのう)という天皇に並ぶ称号を得るまで出世します。おもしろいほどのリア充ぶりです。
ここで、五行説をベースとした四柱推命という占いの話。人が生まれるとき「オギャー」と泣いて肺呼吸がはじまり、その呼吸でそのときの木・火・土・金・水の五行を取り入れ、それが運命の基礎になるという考えがあります。
この五行バランスで見ると、男性にとって、「妻の星=仕事や財の星」となります。つまり、「モテモテ男は仕事もできる」ことになりますが、女性をないがしろにすると財に見放されるのもこの世の道理。光源氏は多くの女性をもてあそびましたが、その結果、どんな晩年となったのでしょう。
最愛の妻の愛を失った光源氏の暗~い晩年について、chiakiさんの記事があります。皆さまも、周りの女性をどうぞ大切に。
登場人物を五行で読み解く!まずは「紫」
全54巻にも及ぶ源氏物語には、さまざまな人物が登場します。
まず、作者の「紫式部」、それから「紫の上」と、「紫」の文字が強調され、紫の花である「藤」まで広げると「藤壺」も当てはまります。紫は昔から高貴な身分を表し、庶民には使えない禁色ですが、その理由について、『易・五行と源氏の世界』では「宇宙の色でもあるから」と、ダイナミックな仮説を展開しています。
宇宙!? でも、「紫=宇宙」説と「55=宇宙」、まったくもって突飛なものではありません。
まず、紫。寺などで見かける五色の幕があります。
これも、五行説にルーツがあり、五行と色の対応は、木=青(緑)、火=赤、土=黄、金=白、水=黒(紫)。七夕でも「五色の短冊」を飾る風習があり、これも五行説がベースです。さらに、天体をあてはめると、
木=青(緑)=ベガ(織姫)
火=赤=アンタレス
土=黄=アルタイル(彦星)
金=白=天の川
水=黒(紫)=星の背景にある漆黒の宇宙となります。のちに、黒の代わりに紫が使われるようになり、「紫=宇宙」!
では、55は?
五行説では、55がすべての変化を表し、宇宙を模しているとする考えがあります。
天を表す数は1、3、5、7、9 合計25
地を表す数は2、4、6、8、10 合計30
天の数と地の数の合計は55です。
『易・五行と源氏の世界』では、「源氏物語が54巻なのは、宇宙の数は55であり54だと1足りないが、それが現実と空想の差である」と記述されます。
また、『「源氏物語」を読み解く 源氏物語は五十五帖? 陰陽五行・易でみる源氏物語の深層』(福永利貞)という本では、「光源氏が死ぬことを暗示する55巻『雲隠』を入れると、源氏物語は55巻となり、宇宙の基本数と一致する」と書かれていました。
いずれも、源氏物語の「宇宙っぽさ」の核心に迫る興味深い説です。
六条御息所が最恐怨霊になったのも宇宙のせい
さて、この企画を提案したところ、担当編集者のサッチーさんから、「吉野裕子さんという方もなかなか個性的な方ですね。記事、楽しみにしています」というコメントをもらいました。そうか、普通の人はビバ吉野裕子さん! あなたのおかげで源氏物語がめっちゃおもしろくなりました! という反応をしないのね。個性的……。
とはいえ、
「六条御息所が超怖い怨霊になり、光源氏の妻や恋人を呪い殺した。これは、易占いのベースとなった聖典である易経(えききょう)で『六』は五行で水にあたり、水の性質にしたがい陰々滅々たる怨霊となる」
「光源氏たちが住む六条院の東北(丑寅)にある花散里に、光源氏の息子である夕霧が預けられた。東北の方角は相続や継ぎ目の象徴となるため、夕霧は源氏の後継者となる」
などの吉野説は実にエキサイティング。吉野さんは故人のためもうお話は聞けませんが、この本のおかげで、世界の見え方がちょっと変わりました。
紫式部は、光源氏と女性たちの愛や哀しみを見事に描きました。でも、もしかするとそれは表面だけで、この世のすべての根底にある宇宙の法則を写し取った物語が源氏物語なのかもしれません。そう考えると、胸に迫るなんともいえないしみじみと感情が……! これぞ、世に言う「もののあはれ」というもの?
紫式部に関する基礎知識はこちら
『源氏物語』の作者、紫式部はどんな人? 意外と苦労の多かった女流作家の素顔とは。3分でわかる記事は以下よりどうぞ!
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