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Culture
2019.08.19

アンティーク着物が可愛すぎ!弥生美術館&竹久夢二美術館展覧会レポート

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ファッション雑誌を見て可愛いコーデを真似したり、小物使いを参考にしたり…それは洋服だけじゃなく、着物も同じ。
東京都文京区にある弥生美術館・竹久夢二美術館では、2019年7月5日(金)から9月29日(日)まで、合同企画展『アンティーク着物万華鏡 ―大正~昭和の乙女に学ぶ着こなし―』が開催中です。

「オシャレって楽しい!」という、いつの時代も変わらない乙女心を、当時の装いを描いた絵や、コーディネートを再現したトルソーなどで紐解くことができる本展。

オシャレ好き&着物好き必見の展覧会なので、早速見所をチェックしてみましょう!

当時のファッションリーダーは抒情画家!?

弥生美術館と竹久夢二美術館は隣接しており、入館チケット1枚で2館あわせてみることができます。まずは弥生美術館から行ってみましょう。
1Fでは、蕗谷虹児(ふきやこうじ)らの抒情画(じょじょうが)を元に、スタイリストの岩田ちえ子さんが再現したコーディネートを楽しむことができます。抒情画とは、雑誌の表紙や口絵に使われていたイラストのこと。まだカラー写真が発達していなかった大正~昭和初期においては、ファッショングラビアのような役割を果たしていました。

当時の女子たちは、今のファッション雑誌の代わりにこの抒情画を見て、コーディネートの参考にしたり、「こんな風に着物を染めてほしい」と百貨店に依頼したりする女子もいたとのこと。抒情画は一種のファッションアイコンになっていたようです。

小物で叶えるコーディネート七変化

着物を着るうえでの醍醐味のひとつとなるのが、帯や半衿などの小物で印象をガラリと変えられること。今回はその特長を活かして、1コーディネートにつき、それぞれ「元になった抒情画」とそれを「再現したもの」、そして「小物を変えたもの」の3点を展示。万華鏡のように移ろう雰囲気の変化を、より分かりやすく感じられるので、自身の着物コーデの参考にもなりそうです。

チラ見せで差をつける!

当時のファッションは、半衿や襦袢など、チラッと見える部分にコーディネートのアクセントを置いているのがポイント。例えば、今でこそ半衿や襦袢は白が主流ですが、当時は真逆。礼装を除けば白はほとんどなく、むしろ着物より華やかな色柄のものばかりです。着物は地味でも、小物で華やかさを添える。それが、当時のファッションのこだわりのひとつでもあったようです。

着付けにもこだわりが!現代とは違うオシャレの美学

さらに、着付けの仕方にも注目。

例えば、こちらのコーディネート。イラストを見ると、帯がかなり胸高ですよね?当時は半衿の下ギリギリに帯を結ぶというコーディネートが流行っていたようで、実際にこのような抒情画が多く見られます。

また、当時は帯板も入れておらず、補正もナシ。今のようなきっちりとした着付けではなく、あくまで普段着としてとことんラフに。シワが寄っていても、そこもまた美しいと捉える独自の美学があり、それが現代の私たちにとっては逆に新鮮で、ファッションとしての可能性を感じさせます。

ニューファッションが斬新すぎる!

そしてここからは2Fへ。
このフロアでひときわ目を引いたのがこちらのコーディネート!

着物を短めに着付けたワンピースのような装いは、高畠華宵(たかばたけかしょう)のイラストをもとに岩田さんが再現したもの。
実際にこのようなコーディネートで外を歩いていた人がいたか…というと微妙ですが、実際にこういったイラストが当時の女子から高い支持を得ていたようです。
今では思い付かないような斬新な発想は、着物が普段着だったからこそ生まれたものなのかもしれません。

女性ファッションの変遷が一目瞭然!

こちらの屏風は、高畠華宵作の『移り行く姿』(昭和10年)。
向かって右から順に女性の装いを春夏秋冬で表現しているものですが、注目すべきは、同時に明治から昭和初期までの服装の変遷も描いていること!
着物姿はもちろん、明治時代の鹿鳴館を思わせる洋装から、袴姿の女学生、モダンな水着姿まで、全部で62人の女性が描かれています。

華宵は、特にファッションにこだわりを持っていた画家で、「自分は二つとして同じ柄の着物を描いていない」といった言葉を残したと言われるほど。着物の柄はもちろん、半衿や振りから少し見える襦袢など細部にいたるまで、しっかりと描き出されています。そのため、風俗史を語る上での貴重な史料としても扱われているそうです。

文学に見るファッション

文学作品の中にも、当時のファッションをうかがえるシーンがもりだくさん!今回の展示では、吉屋信子と菊池寛(きくちかん)の作品にみられるコーディネートの再現や、徳田秋声(とくだしゅうせい)が実際に着用していたトンビなどを観賞できます。

中でも特に印象的だったのが、吉屋信子の『花物語』という作品のコーディネート。ここでは、洋装に羽織を合わせたモダンな和洋折衷スタイルが描かれています。

羽織や着物はどこの家にも必ずあったもの。そのため、洋服にサラッと羽織るこのような装いは、当時よく見られたようです。

下着とは思えない華やかさ!粋の文化が詰まった襦袢の世界

3Fは、襦袢のみをたっぷり堪能できるエリア。
今では白が定番の襦袢ですが、大正~昭和初期は色柄豊富で、一堂に並ぶとその華やかさは圧巻です!
着物の振りからちょっと覗くだけで、外からはほとんど見えないのにこのこだわり様。

実は、見えない部分にこだわる文化は、江戸時代に出された奢侈禁止令が深くかかわっているとのこと。この法令によって、前面に華やかさを出す装いが禁止されました。けれども一方で、見た目を地味にする分、襦袢や羽織の裏(羽裏)などに遊び心あふれる派手な色柄を使うことで、華やかさを競うようになったそうです。

特に来場者から人気が高いのが、写真一番右の海老柄なのだそう!

このようにたくさんの襦袢を一気に見れる機会はなかなかないので、ぜひ一度は見ておきたいところです!

夢二が描く着物美

そして、最後は弥生美術館から直結している竹久夢二美術館へ移動。
夢二の美人画は、高畠華宵の着物に主眼を置いた華やかな描写に対して、着物を着た“女性”にフォーカスしている点が特長です。

ゆるやかにS字を描く儚げな夢二式美人がまとうのは、ゆるく着付けた素朴な印象の着物。普段着を愛した夢二ならではの、独特の味わいが感じられる、可憐な世界観が印象的でした。そんな夢二の抒情画も、岩田さんスタイリングでコーディネートが再現されています。

こちらは雑誌『婦人之友』の付録。夢二はオリジナルデザインの帯や小物を多く手掛けており、大正3年にはお店を出すほどの人気ぶりだったとか。この付録は、これを使って刺繍をすれば、自分でも簡単に夢二デザインの半衿が作れるというもので、実際にお店に行けない女子からも好評だったようです。

また、当時は夢二や華宵以外でも、着物のデザインを手掛ける画家は多く、百貨店の売り出す着物の図案作成やPRにも関わっていたのだそう。
遡れば、江戸時代には浮世絵師が手掛ける小袖本なる着物のデザインカタログも販売されていたので、ファッションに絵画的要素を取り入れるのは、日本人の特長的な感性のひとつなのかもしれませんね。

恋多き男でもある夢二の着物

竹久夢二は、恋多き男性としても有名。過去に関係を持った3人の恋人や贔屓にしていた芸者に、自分がデザインした帯や着物をプレゼントすることもありました。

ほかにも、夢二は黄八丈がとてもお気に入りだったようで、「黄八丈を着ている女性が側にいたら、それは夢二の恋人だ」とも言われていたのだそう。
多くの女性遍歴が、彼の類まれなる作品を生み出す糧になっていたのかもしれません。

実は美人より子供を描く方が好きだった!?

恋多き男性とも言われ、また美人画の印象が強い夢二ですが、実は子供の絵も多く手掛けています。
夢二本人も、「美人画よりも子供を描く方が好き」と言っていたこともあったのだそう。今ではほとんど見られなくなった子供の着物姿ですが、作品の中では、子供が着物で川遊びをしたり、雪合戦をしたりして遊んでいる描写も。汚れないように着物にエプロンをあわせている姿も見られます。

自由な発想が着物文化を育てる

最近は、「着物はこうあるべき」というルールばかりが先行して、自由度が制限されるシーンも多々あります。こういった流れが大きくなりすぎると、着物へのハードルを高くし、着物離れを加速させてしまう一端にもなることも。
もちろん正統派も大事にしながらも、さまざまな着こなしに対して寛容になり、着物文化のすそ野を広げていくことこそ、本来の意味での文化の継承に繋がるのかもしれません。

今回ご紹介できたのは、展示のほんの一部。
このような着物のファッションとしての可能性を、大正~昭和初期の女子から学べる絶好のチャンスです!ぜひあなたも足を運んでみて、オシャレな着物の世界に浸ってみてはいかがでしょうか?

展覧会概要

アンティーク着物万華鏡 ー大正~昭和の乙女に学ぶ着こなしー
会期:2019年7月5日(金)~9月29日(日)
場所:
【弥生美術館】東京都文京区弥生2-4-3
【竹久夢二美術館】東京都文京区弥生2-4-2
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日
※祝日の場合は翌火曜日(7/15、8/12、9/16、9/23(月)開館、 7/16、9/17、9/24(火)休館)
料金:一般900円/大・高生800円/中・小生400円
※2館あわせてご覧いただけます。
公式サイト:http://www.yayoi-yumeji-museum.jp

書いた人

広島出身。ライター&IT企業会社員&カジュアル着物愛好家。その他歌舞伎や浮世絵にも関心がアリ。大学卒業後、DTMで作曲をしながらふらふらした後、着物ムック本の編集、呉服屋の店長を経て、現在に至る。実は10年以上チロルチョコの包み紙を収集し続けるチロラーでもある。