ユニークな表現でイメージをかき立ててくれる慣用句。わかるわかる! というものが多いのですが、中には、これってどういう状況? と首をひねってしまうものも。
「木で鼻をくく(括)る」。木って、多少の柔軟性はあるかもしれないけれど、鼻を縛るほど柔らかくはないのでは……。それに、鼻を縛る、というのもよく分からない……。
ということで、意味や由来を調べてみました!
「木で鼻をくくる」の意味と謎
「木で鼻をくくる」とは、無愛想にふるまう、冷淡にあしらう、という意味で、「木で鼻」「木で鼻をかむ」とも言います。また、「さっぱりする」という意味も持っています。
江戸時代の歌舞伎や浄瑠璃の台本、夏目漱石の『吾輩は猫である』にも見られる表現です。
「括る」とは?
では、「括る」とはどんな意味を持っているのでしょうか。
日本国語大辞典によると、おもに以下のようなときに使う単語です。
・ばらばらのものを縄や紐(ひも)などで一つにたばねる。まとめて結ぶ。まとめる。
・物のまわりを縄や紐などでしばる。締める。ゆわえる。
・自由を束縛する。強制して物事をさせる。
・物事に、ある区切りやまとまりをつける。まとめる。しめくくる
・物事のありさまをあらかじめはかる。予想する。
・括染(くくりぞめ)にする。
・絵の主要な部分などを、すこし濃い色で線を加えたり、隈取(くまど)りしたりする。
なるほど。
でもやっぱり、どうやって木で鼻を? という疑問は解消されないままです。
本来は「括る」ではなかった!
ということで、さらに調査を進めると、意外な事実が。
「くくる」は「こくる」の誤用がそのまま定着したもので、「こくる」とは、こする・強く摩擦する、という意味なのだそう。
そうか! 木で鼻をこする、という意味だったのですね。
でも、また新たな疑問が。なぜ「木で鼻をこする」のが無愛想だったり冷淡だったり、ということになるのでしょう?
「木で鼻をこする」とどうなるのか
木で鼻をこすると、当然ながら痛いため、顔が歪んでしまいます。そんな雰囲気や表情で対応する、ということで、無愛想のたとえとなったそうです。
ただし、近世に別の文脈「さっぱりする」の意味で使われたこともあったようです。
アイキャッチ画像:勝川春潮『美人摘草』メトロポリタン美術館サイトより加工使用
参考文献:
・『デジタル大辞泉』小学館
・『新選漢和辞典 Web版』小学館
・『日本国語大辞典』小学館
・『故事俗信ことわざ大辞典』小学館
・江川卓ほか『世界の故事名言ことわざ総解説』自由国民社
・小松寿雄、鈴木英央・編『新明解語源辞典』三省堂
・米川明彦、大谷伊都子・編『日本語慣用句辞典』東京堂出版
・長野伸江『賞賛語(ほめことば)・罵倒語(けなしことば)辞典』小学館