Culture
2019.03.14

彬子女王殿下が最後の職人を訪ねて綴った「和樂」誌上連載が1冊の本になりました

この記事を書いた人

世界に誇るべき日本の手わざ。烏帽子(えぼし)、杼(ひ)、蒔絵筆(まきえふで)、烏梅(うばい)、和釘(わくぎ)、キリコ、金唐紙(きんからかみ)、御簾(みす)、漆(うるし)かき道具……。江戸期より明治、大正、昭和と守り伝えられてきた伝統が今、消えつつあります。彬子女王殿下は、最後の一人になっても伝統を守り続けようとする職人たちを自ら訪ねました。そこで彬子女王殿下が眼にしたのは、真摯な姿が希少なものを生み出す現場の神々しく、美しい姿でした。

日本文化を支える職人の真摯な思いに触れた25の旅の記録

彬子女王殿下は、約3年間にわたる和樂での連載「最後の職人ものがたり」「美と技を巡る詩(うた)」で、全国で唯一、もしくは、数少なくなった伝統技術を守り続ける職人の方たちを取材し、文章にまとめてこられました。日本の美を支える伝統技術が、後継者や材料の不足、用途の減少によって失われつつある状況のなかで、たとえ最後のひとりとなったとしても真摯に仕事に向き合う職人の方々が働く現場へ。北は青森県田子町、南は沖縄県久米島(くめじま)まで25か所を旅された記録をまとめられたのが、新刊「日本美のこころ 最後の職人ものがたり」です。

彬子女王殿下

職人の方たちが働く工房は、通常、表に公開されることがない、いわばバックヤード。取材させていただいた職人さんたちは、「皇族の方がここまで!?」と驚かれながら、大切な場所への扉をこころよく開いてくださり、彬子女王殿下もまた、開いた扉の奥へ奥へと進まれ、職人の方々と向き合われました。

「なさってみられますか?」という職人さんたちの誘いにうなずかれ、からむしの繊維をとられたり、蚕に桑の葉をあげられたり、水引をつくられたり、箔を叩かれたり……数々のご体験も。毎回、たくさんの笑顔に包まれながら、彬子女王殿下におかれては、研究者としてのフィールドワークそのものであったといえます。彬子女王殿下が日常のエピソードとからめながら、取材の体験と日本文化への思いを綴られた25篇の珠玉の物語。ぜひ、ご一読ください。

新刊「日本美のこころ 最後の職人ものがたり」の特徴

その1 美を支える力

漆の蒔絵を描くための「蒔絵筆」や、紅染めの媒染剤となる「烏梅」、漆を搔くための「漆掻き道具」など、日本の伝統工芸の制作を支える道具をつくることができる職人さんたちが、激減しています。日本の美を生み出すために欠かすことのできない道具。美を支える職人と、次世代へつなぐ思いを紹介します。

彬子女王殿下煤をまぶして真っ黒に燻し、乾燥させた梅の実が「烏梅」。「烏梅」を製造するのは、全国で中西喜久さん(右)の家族のみ。息子の謙介さん(左)と作業中。

彬子女王殿下村田重行さんが手がける、蒔絵を描くための「蒔絵筆」。近年、筆先の材料となる熊鼠(くまねずみ)の毛が採れなくなったことから、猫の毛で代用して製造されている。

その2 唯一無二の技

長崎の祭りの衣装を装飾する「長崎刺繡」や近代日本の洋館を修復する壁紙などに使われる「金唐紙」、正倉院宝物を模した「撥鏤(ばちる)」など、全国唯一、ほかに制作している人がいない技術をもつ方々を取材しました。数奇なきっかけで人生の途中から制作に携わるようになった職人さんも多く、熱い情熱を感じます。

彬子女王殿下一度途絶えた日本独自の「金唐革紙」の技術を、上田尚さんが復活させた「金唐紙」。東京都台東区の旧岩崎邸の洋館の壁紙として使われている。

彬子女王殿下守田蔵さんが正倉院宝物を模して製作した「撥鏤」の尺。キリのように細い彫刻刀で、縁起のよい動物や植物などの文様が描かれている。

その3 復興への祈り

東日本大震災、熊本地震など、大きな被害を受けた被災地へ、思いを寄せられている彬子女王殿下。東日本大震災で被災した宮城県・南三陸町の上山八幡宮(かみのやまはちまんぐう)に伝わる「キリコ」や、修復と調査に長い時間がかかるといわれている熊本城に赴かれ、地域で大切に守られてきた文化や文化財の背景を伝えられています。

彬子女王殿下庄悦さんに切っていただいた、「キリコ」を開かれた彬子女王殿下。「キリコ」は東北の三陸地方のお正月飾りで、この大漁祈願の対飾りは、主に漁師の家の神棚に飾られる。

彬子女王殿下熊本地震で被災した熊本城。瓦の落下、壁の亀裂や崩落など被害が大きかったが、建築物の部材や石垣を仕分けして、調査を終えたところから、修復や復元が進められている。

「日本美のこころ 最後の職人ものがたり」好評発売中!

彬子女王殿下「日本美のこころ 最後の職人ものがたり」彬子女王・著 小学館・刊 定価4,000円(税抜)272ページ 函入り

詳細はこちらから!

彬子女王殿下が出会われた職人はこちらの方々です

・烏帽子 四津谷敬一さん
・杼 長谷川淳一さん
・蒔絵筆 村田重行さん
・京瓦 浅田晶久さん
・長崎刺繡 嘉勢照太さん
・京弓 柴田勘十郎さん
・本藍染 森 義男さん
・烏梅 中西喜久さん
・からむし 昭和村からむし 生産技術保存協会
・琵琶 四世石田不識さん
・金具 横山金具工房
・キリコ 工藤庄悦さん
・撥鏤 守田 蔵さん
・和鏡 山本晃久さん
・丹後和紙 田中敏弘さん
・金唐紙 上田 尚さん
・久米島紬 久米島紬事業協同組合
・御簾 豊田 勇さん
・加賀水引 津田 宏さん
・漆搔き道具 中畑文利さん
・駿河炭 木戸口武夫さん
・熊本城復元事業 熊本城総合事務所
・金平糖 清水誠一さん・泰さん
・コロタイプ印刷 便利堂
・文化財修理 美術院 国宝修理所

撮影/三浦憲治

あわせて読みたい

秋田・男鹿のなまはげとは?彬子女王殿下が日本唯一のなまはげ面彫師を訪ねました
彬子女王殿下が考える「ボンボニエール」という皇室の伝統