1月5日(日)から放送が開始された2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)。江戸時代中期に活躍した「出版王」蔦屋重三郎(演:横浜流星)の生涯が描かれます。 大河ドラマといえば、例年「副読本的」なムック本が複数刊行されますが、今年は小学館から『初めての大河ドラマ 「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」歴史おもしろBOOK』が登場! 編集に携わった月刊誌『サライ』のwebサイト「サライ.jp」スタッフが、大河ドラマ『べらぼう』の“満喫リポート”とともに本書の魅力を紹介します。
『べらぼう』第1回はどうだった?
『サライ』ライターI(以下I):『べらぼう』が始まりました。
編集者A(以下A):物語の冒頭は明和九年(1772)に現在の東京都目黒区にある大円寺を火元とする火災から逃れる場面からのスタートになりました。半鐘をならしていた蔦屋重三郎がいたのは吉原。火元の目黒からはおよそ20㎞弱の距離があります。
I:ちょっとびっくりの距離なのですが、江戸の火事はそこまで延焼したのですね。
A:現地に足を運べばわかりますが、火元の大円寺は行人坂(ぎょうにんざか)という都内屈指の急坂に鎮座する古刹。近くには「百段階段」で知られる雅叙園や老舗芸能プロダクション「ホリプロ」、さらにはとんかつの名店「とんき」があります。行人坂を目黒駅方面に歩いてみると、『べらぼう』という物語は、「坂の上の江戸」を描いているのではないかという気がしています。
I:頂(いただき)を目指して、疾走するというイメージでしょうか。
A:主人公の蔦屋重三郎(以下・蔦重)は、幼い頃に両親と生き別れて、吉原で育てられた人物です。決して幸せとはいえない状況から才覚ひとつでのしあがっていく。江戸時代というと、なかなか才覚ひとつでのしあがれないというイメージがあったりしますが、必ずしもそうではなかったというわけです。
I:そういえば、幕府老中の田沼意次(演:渡辺謙)も江戸生まれですが、もとは紀州藩の中下級藩士の出身。のし上がったということでいえば蔦重と同様ですね。
A:つまりこの時代は、のし上がりたいと渇望する人間が活躍できるステージがあったということです。
「歴史おもしろBOOK」の読みどころは?
I:さて、そういう前提を受けて『初めての大河ドラマ 「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」歴史おもしろBOOK』(以下「歴史おもしろBOOK」)について解説してください。
A:はい。同書の11ページには田沼意次役の渡辺謙さんのインタビューが掲載されていますが、渡辺謙さんは、出演にあたって、田沼意次の領地である静岡県牧之原市に足を運んだということを語っています。私は取材会の際に直にお話を聞いたのですが、その翌週には牧之原市にとんでいました。その際の取材の成果が「歴史おもしろBOOK」の88ページから93ページに掲載されています(中下級藩士から老中への大出世『べらぼう』の時代を築いた田沼意次ってどんな人?)。
I:田沼意次といえば、「賄賂政治家」「金権政治家」として有名です。
A:田沼意次の悪いイメージは、近年の研究成果によってだいぶ修正されてきているのですが、まだまだ根強いものがあります。牧之原市での取材を通じて、いったん貼られたレッテルを覆すのがいかに困難なのか思い知らされました。
I:くわしく説明してください。
A:田沼意次ゆかりの品が展示されている牧之原市史料館が立つ場所は往時、意次の居城・相良城があった場所です。この相良城は、意次が失脚したあとすぐに徹底的に破却されたそうです。そのエピソードも強烈なのですが、以降、意次のことは半ばタブー視されたようです。『歴史おもしろBOOK』には〈「金権腐敗政治家」というレッテルのせいで、地元でも意次の評価はさんざんでした。昭和40年代から徐々に復権の動きが芽生えたものの勢いは続かず、平成時代を経て、生誕300年の令和元年に本格的に復権するようになりました〉とあります。
I:この本を読んで私も牧之原市史料館に行きたくなりました。意次が着用したと伝来される狩衣(かりぎぬ)や意次が領内の神社に寄進した神輿、南鐐二朱銀などが展示されているのですよね。
A:はい。そして、印象深かったのが、意次は子孫に対して書き遺したという「七か条の遺訓」です。
牧之原市史料館にはわかりやすい訳文が掲示されていて、『歴史おもしろBOOK』にも抜粋されています。〈家来には情けをかけ、賞罰をえこひいきがないよう気をつけること〉で始まる「遺訓第四」が意次の人柄をしのばせて心に沁みるんですよね。そして、意次の生誕300年である令和元年に発起された田沼意次の銅像が令和三年に造像され、牧之原市史料館の前にたっています。
I:1月26日からは牧之原市史料館で「大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』展・静岡まきのはら」が始まるそうです。田沼意次の足跡を知れば、『べらぼう』がもっともっと楽しめますね。
文・『サライ』歴史班 一乗谷かおり