「日本文化の良いところは…」子どもに伝えるとしたら、あなたはまっさきに何を思い浮かべますか? 伝統、しきたり、ほにゃららであるべき。「日本文化」と聞くとハードルが高くて、何をどう伝えたら良いのか悩んでしまう人も多いのではないでしょうか? この記事では、和樂webのライターが子どもに伝えたい日本文化について、わいわい語り合います。(読めば日本文化の基礎知識がちょっとだけ身につく、かも!)
座談会の登場人物
常駐スタッフさいころが、今回の座談会を企画。参加してくださったのは、和樂webライターのみなさま。写真左から、さいころ・chiaki・ちえ・アヤコの4人でお送りいたします!
さいころ
chiaki
ちえ
アヤコ
令和版つくるっきゃない? 「暦」の話
さいころ: 今日は暑い中、編集部にお集まりいただきありがとうございます。
ちえ: 9月なのにこんなに暑いと「二十四節気※」なんか、普段の生活の中では感じられないですね〜。
二十四節気(にじゅうしせっき)
古代中国でつくられた季節の区分法。立春、春分、夏至など、耳にしたことのある人も多いかも? 一年は「立春」から始まり、各節気は約15日間。日本では主に江戸時代に使われていましたが、現代でも天候によって左右される農作業の指針として使われることが多い。
アヤコ: 最近は、天気予報で「暦の上では秋分ですが、30度を超える猛暑の日が続きます」なんて使い方で耳にするようになりましたね。
ちえ: こうなったら現代の気温とか風景に合わせて新しい「二十四節気」を考えたらおもしろいかも(笑)
chiaki: 令和版「二十四節気」良いですね〜!!
さいころ: 季節の変わり目をだんだんと感じづらくなっていますが、それにともない自然の変化も感じづらくなっていますよね。
アヤコ: うちには「花札※」や日本の色100色をモチーフにした折り紙があるので、折り紙の色や柄にちなんで季節の解説をしたいところなんですが…つい説明書から入ってしまいます…(笑)。
花札
日本のかるたの一種。一組48枚に、12か月折々の花が4枚ずつに書き込まれている。若い世代は映画『サマーウォーズ』で知った! という人も多いのでは? ゲームでおなじみ任天堂もはじまりは花札の製造から。その歴史を辿ると江戸時代の寛政の改革なども学べる。
さいころ: 「藤」とか「菖蒲(しょうぶ)」とか、なかなか身近にはないですもんね。東京に暮らしていると、季節の変化を子どもに伝えるのが難しいので、わたしの家では一輪挿しを使ってちょっとした工夫をしています。
いろんな一輪挿しを用意しておいて、娘が好きなものを選んで、ねこじゃらしなんかの雑草を摘んでぽんと生けるだけなんですけど。それだけで季節を感じられるので、オススメです。
アヤコ: なるほど〜〜〜!
ローカルルールの宝庫! 「行事」の話
さいころ: 今日は子どもに伝えたい日本文化にまつわるものをお持ちいただきました。chiakiさんの持っていらっしゃるものは…おひなさまでしょうか?
chiaki: はい。ちょうど家から持ってきたのですが、この「つるしびな※」、娘が生まれたときに夫の親戚がつくってくれたんです。こんなものがあることも知らなかったですし、わたしの娘のためにここまでつくってくれたことにとても感激して。頂いてからは、ひな祭りの季節になると玄関に飾っています。
つるしびな
絹の端切れでつくったカワイイ布細工を吊るす、日本独自の風習。発祥は江戸後期とされており、現在は主に山形県の酒田、静岡県の伊豆稲取(いなとり)、福岡県柳川で伝えられている。
さいころ: ものすごく繊細なつくり。ひな祭りも日本ならではの行事で、地域や家庭によって少しずつ違いがありますよね。chiakiさんのような家族とのつながりを強く感じられるものが身近にあるのは、とてもうらやましいことです。アヤコさんのお持ちいただいたものは…?
アヤコ: これは香川に住むお義母さんが贈ってくれた「七五三※」の着物です。
香川は茶の湯の文化も盛んで、着物好きな人がメチャクチャ多いんです! …が、実は娘もわたしもこの着物が初めての和装で、これに合う小物を探すのも初めてで。着物屋さんで小物を手にとってみて、その値段に衝撃を受けました。お店の方に「お母様もよろしければ〜」と着物を奨められても、思わず後ずさりしてしまう高値で…(笑)。
chiaki: お気持ち、よくわかります…(笑)。
七五三
7歳、5歳、3歳の子どもの成長を祝う、江戸時代に始まった神事。みなさんも一度は経験したことがあるのでは(実家にわけもわからず着物を着た写真が残ってる人も多いはず)? 旧暦の11月は、収穫を終えてその実りを神さまに感謝する月でもある。なので11月の満月の日(=15)日に、神さまへの収穫の感謝を兼ねて子供の成長を感謝し、加護を祈るようになったといわれている。現在では11月15日にこだわらずに、11月中のいずれかの土・日・祝日に行なうことも多い。
ハードル高いぞ! 「着物」の話
chiaki: やっぱり着物ってハードル高く感じます。子どもに着物の良さを伝える以前に、自分がなかなか着物の世界に踏み込めなくて。
アヤコ: まちがえちゃいけない、お金がかかりそう、決まりごとが多そう…手を出すのに、ビクビクしています(笑)。結果、着物を子どもに伝えたいなと思えるようになるまで、時間がかかってしまいました。
さいころ: 実は、わたしも夜寝るときだけ浴衣を着ているんですけど、外に着ていくのはなかなかハードルが…。ちえさんは、着物の記事を和樂webで書かれていますが、子どものころから着物に親しんでこられたんですか?
ちえ: 興味を持ち始めたのは最近なんです。大人になってから日常着として親しむようになったので、振袖とか礼装は着たことはありません(笑)。友人がアンティーク着物を着始めたんですけど、それがものすごくかわいくて、こんな着物があるんだ!という驚きからハマっていきました。
さいころ: なんと、そうでしたか! 着物のハードルをどうやって乗り越えたのか? 今はどうやって楽しんでいるのか? ぜひ教えてください。
ちえ: 着物は高い、というのが第一のハードルかと思いますが、例えば今日持ってきたこの着物は中古で3,000円でした。この「名古屋帯※」は1万円くらいかな? 今は通販やフリマアプリでも安く手軽に着物が手に入ります。
名古屋帯
名古屋発祥の女性用の帯。フォーマルに用いられる「袋帯(ふくろおび)」よりもカンタンに締められるので、カジュアルな普段使いにぴったり。
ちえ: あとは「着物※」ってルールが多いように見えますが、夏は帯の中に保冷剤を入れて着たり、冬はハイネックを中に着たり、草履がめんどうくさいときはブーツを履いたり…いろんな工夫ができるんです。なので個人的には、初めて着る人たちもTPOに合わせて、もっと自由に着て良いと思っています。あえて面倒くさいものを身にまとうのって、おもしろいんですよ! 便利な時代だからこそ、あえて面倒くさいことに挑戦してみると、大人も新しい発見があるんじゃないでしょうか。
着物
SNSで最近話題になった「KIMONO」。日本で「和服」という言葉が生まれる明治時代よりも前の16世紀の時点で、生まれている。以来、日本人が衣服のことを指して呼んだ着物 (=KIMONO)が、現在の和服を表す言葉としてヨーロッパの人々にも知られるようになった。
いちばん身近? 「食」の話
さいころ: 編集部から若者代表として常駐スタッフのとまこさんを呼んできました〜。
さいころ: とまこさんはご両親から教わった日本文化にまつわるエピソードはありますか?
とまこ: 日本文化のなかでも食に関しては、家庭料理を通じてスッと入ってきた知識が多いなあと感じています。子どものころ、お母さんが料理をするのを横で見ているのが好きだったんですけど、煮物の彩りに絹さやを添えたり。そういうちょっとしたことで料理が美しくなることを学びました。最近ひとり暮らしを始めたんですが自然と「和食※」をつくったり旬のものを食べていて。日本の食文化について、子どものころから生活のなかで教わってきたんだなーって気づきました。
chiaki: ご両親の教えがすばらしいー! 子どもにとって、食事ほど身近なものってないです。料理でなくても、ふだんの食事の所作をキレイに、お箸のもちかたひとつでも気にするところからでも、伝えられることがありますね。勉強になります!
和食
意外と知られていないが、2013年に無形文化遺産に登録された「和食」。精進料理や懐石料理、おせちからお花見の団子や家庭料理まで。日本の食文化の豊かさは世界に誇るものがある。日本産の農林水産物・食品の輸出も2013年から右肩上がりに成長。もはや「SUSHI」だけが和食ではないのだ。
さいころ: 食を通じて日本文化の豊かさを親から子へ継承する。これって、日本ならではの感覚ですよね。和樂webでは有志のライターのみなさんを対象に「コンビニでみつけた日本文化」をテーマにしたワークショップを開いているのですが、そこでも期間限定スイーツの話がたびたび登場しました。そういったカジュアルな食文化だって、わたしたちにとっては、身近な日本文化の入り口ですよね。
ちえ: スイーツって、まさにコンビニやカフェを中心にした大人の文化〜って感じですよね。逆に、駄菓子=子どもの文化として伝えたいなーと、考えています。
駄菓子って、大人になってふりかえっても、必ず盛りがるのが不思議ですよね。こんなに身近な人たちと共有しあえる食の楽しみってなかなかないので、いつの時代になっても、子どもたちに駄菓子のすばらしさを伝えていきたいな〜と思っています。少子化で駄菓子業界全体が縮小傾向にあるとしても、書籍や記事のようなかたちで、文化を伝えていきたいです。
どうやって伝えていく? 日本文化
さいころ: 暦、行事、着物、食…今日はいろいろ、子どもに伝えたい日本文化についてお話しました。こういうテーマを、ふだんお母さんたちで話すことってありますか?
chiaki: いえ! ふだんは身の回りのできごととか、世間話するのがほとんどなので「子どもにどんな日本文化を伝えたい?」と切り出したらきっと「急にどうしたんだろう?」って心配されてしまいます(笑)。
アヤコ: たしかに、こういう話をすると「お堅い人かしら?」と思われちゃう(笑)!
ちえ: やっぱり、こういうテーマを共有する場所がないですよね。だからこそ大人同士で気楽に日本文化を語れるような、もっとおおらかな世界になると良いなーと。文化って永遠に変わらないわけじゃなくて、環境が変わるのに応じて変化していかないと、いつか途絶えちゃうんじゃないか? と、着物を着るようになって考えるようになりました。日本文化に関しては、特にルール自体に縛られて、伝える側も動きづらくなっているのかも。着物にしても食にしても、それ自体を楽しめないと文化そのものが廃れてしまうのは、危機感を感じます。
さいころ: 街を歩いていて浴衣の着崩れを注意する人はいても、洋服でボタンとれてるときに「あなたのボタンとれていますよ」って指摘するかというと…なかなかないですもんね(笑)。日本文化のむずかしいところです。
アヤコ: わたし自身、日本文化の楽しみがみつからなくて若い頃は海外ばかりに目を向けていたんですけど、今は子どもの親になったことで、たまたま身近なところにある日本文化に気づいて、新しい楽しみがみつけられた! という気持ちです。わたしは夫の実家である香川の風習をきっかけに、地域への愛着から日本文化への興味が深まっていったんです。なので日本文化について子どもたちへ伝えるときも、直接的にアクションを薦めるより、自分の身近なところを入り口に興味を深めていくと結果として子どもに伝わっていくのかな? と思っています。
さいころ: アヤコさんのおっしゃる「直接的でないアクション」とても共感します。例えば、わたしが食事に和食を選ぶとか、子どものお弁当箱にわっぱを使うのは「日本文化を伝えたい」という気持ちから選択した行動というよりも、それがふつうというか…文化というよりも、生活の一部という気持ちで選んだことなので、その選択から子どもがどう感じるかは、子どもに委ねたいと思っています。
このお弁当を包んでいる布も、実はわたしが染めたものなんです。沖縄などで育っている月桃という植物で染めたものですが、これだって、子どもに日本の色の美しさを伝えたくてやっているわけじゃなくて、きれいな色がでるからつくったものなんですね。わたしがこうしたものを使っているのを見て、娘が良いなーと思ってくれたら、それが「日本文化を伝えること」になっているのかなあと思います。
…ただひとつ。むずかしいのは、自分の子どもじゃなくて、日本の子どもたちの未来を考えたとき、この伝え方には限界があります。なのでまずは、大人たちに日本文化の良さを伝えて、それぞれの家庭で良いと感じるものを生活に取り入れていただきたい。そのきっかけとして、和樂webのいろんな切り口の記事がお役に立てたら嬉しいです。…いつのまにか熱く語ってしまいました。chiakiさん、ちえさん、アヤコさん、今日は貴重なお時間をありがとうございました!
本日登場した4人による記事一覧はこちら!
■ さいころの記事
■ ちえさんの記事
■ アヤコさんの記事
■ chiakiさんの記事