漫画やアニメの影響もあり、現代は空前の落語ブームと言われています。そんな落語を定常的に楽しめるのが寄席。浅草や新宿などに古くからある有名な寄席を思い浮かべる方も多いでしょう。上方落語専門の定席として人気を博す天満天神繁昌亭(てんまてんじんはんじょうてい)は、大阪天満宮境内すぐにあります。傍には日本一長い商店街である天神橋筋商店街が伸びており、未だに多くでにぎわう商人の町です。そんな天満天神繁昌亭を訪れてみました。
上方落語に触れるなら「天満天神繁昌亭」
繁昌亭の寄席は、主に団体貸し切り公演の朝席(10時~12時30分)、全席指定で8本の噺が楽しめる昼席(14時~16時30分)、独演会や一門会が主となる夜席の三種類があります。
チケットは前売りもありますが、当日ふらりと来て購入するのも可能。今回伺ったのは朝席でしたが、まだ商店街も眠りから覚めていない時間帯にも関わらず、常連さんらしき方々の挨拶が飛び交う馴染んだ空気が漂っていたのが印象的でした。
座席は一階二階をあわせて216席(1階153席、2階63席)。朝・夜席は日替わり、昼席は毎週月曜から日曜日までの週替わりで楽しめます。内部は飲食禁止、アルコールも不可です。売店にも販売はないのでご注意ください。
繁昌亭を語るうえで、特徴的なのが外にびっしりとつり下げられた提灯ではないでしょうか。
中に入ると、会場内の天井にもびっしりと同じような提灯がつり下げられています。この提灯にはこの繁昌亭を建てるために寄付をした人の名前が書かれているのだそうです。今で言うクラウドファンディングと言ったところですが、集めた金額はなんと2億4千万円にも上るそう。すごいですね。
なお、この繁昌亭が建っている場所は大阪天満宮の敷地の一部。昔は駐車場だったそうですが、地域の発展のためならと無料で貸し出されているのだそうです。これには歴史的な経緯と思いがあるのですが、その説明は後に譲ることにしましょう。
上方落語とは
上方落語の始まりは1700年頃といわれています。
京都で露の五郎兵衛、大阪で米沢彦八などが神社の境内などでおもしろい噺を聞かせる「辻ばなし」とも言われ、これが落語の元祖だと言われています。
一次は廃れたものの、1800年頃の寛政時代に大阪坐摩神社で桂文治が初めて寄席をつくり落語を演じるようになり、笑福亭、林家、月亭などの落語家が登場します。
上方落語が江戸落語と一番違うのは、真打制度がないことでしょう。理由は定かではありませんが、大阪における寄席の形態が漫才中心になったのが大きな原因だと言われています。そのためか、松竹芸能や吉本新喜劇などのプロダクションと縁が深く、所属の噺家も多くいます。比較的早い段階からテレビなどで目にする機会が多いことも上方落語の特徴の一つです。
現在は特に、桂一門、笑福亭一門が有名です。
上方落語協会と繁昌亭の成り立ち
繁昌亭のある天満宮の裏門周辺は、50年以上にもわたって演芸や飲食の小屋が立ち並ぶ一大歓楽街でした。昭和初期まで「天満八軒」と呼ばれる寄席小屋が軒を並べており、これが現在の繁昌亭がここに復活した歴史的な理由です。ちなみに明治45年(1912)、八軒の一つ「第二文芸館」を吉本吉兵衛・せい夫妻が 買い取り、これが吉本興業の元になっています。
第二次世界大戦で大阪は焦土と化し、上方落語は長らく定席の寄席を失ったままでした。しかし、1957年4月に上方落語協会が正式に発足し、精力的に落語会を開催するようになり、人気も復活。
ついには2006年9月15日、ゆかりの地に上方落語協会が自ら運営する61年ぶりの定席を建立することになったのです。
神社との縁も深い繁昌亭。そのせいもあるのでしょうか、繁昌亭から徒歩数分、天満宮北側の星合池(通称・亀の池)のほとりに、境内社として「高坐招魂神社」が二年前に建立されました。「話の神様」「技芸の神様」として口下手で困っている人や大事なプレゼンや愛の告白を前にして悩む人にはご利益がるとのことなので、寄席に訪れた際には是非足を延ばしてみては。
繁昌亭突撃インタビュー
繁昌亭の中の人はどんなことを思って日々この定席を守っていらっしゃるのでしょうか。繁昌亭支配人の恩田様に少しお話を伺いました。
Q.プログラムはどのように決めているのですか?
昼席は、上方落語協会の10人ほどで構成された昼席は番組編成委員会で決定します。各一門のメンバーが参加し、偏りのないように構成していますね。
朝席は火曜のみ繁昌亭主催ですが、それ以外の曜日は噺家さんが主催されます。これは夜席も同様です。
現在270人ほどいますが、申し込めるのは入門10年以上で月一回のみと決まっています。
Q.朝席、昼席、夜席とありますが、上方落語初心者におすすめは?
やはり昼席が繁昌亭のメインだと思います。各一門のフレッシュな若手から大御所まで出演しますし、初心者からベテランまで楽しんで頂けると思います。
朝席夜席もそれぞれ工夫を凝らした企画で楽しんで頂けると思いますが、まずは昼席を一度ご覧頂けたら嬉しいですね。
Q.天満宮は大阪の人にとっては非常に身近で重要な存在だと思います。そんな場所の一部に在ることをどのように感じていらっしゃいますか?
繁昌亭は、大阪天満宮だけでなく、天神橋商店街、上方落語協会、これらの三者の協力なしには運営できないと思います。連携はとても強いです。
落語の八天神の舞台は天満宮ですし、それ以外にもこの地を舞台にした噺はいくつかあります。歴史的にもご縁の強い場所で定席を構えられたことは、やはり人の縁を感じますね。
Q.繁昌亭ならではの落語の楽しみ方をぜひ
昼席だと、終焉後に噺家自らお見送りをしたりします。一緒に写真を撮ったりサインしたりですね。江戸ではあまり見ない光景かなと思うので、そういう距離の近さも良さではないでしょうか。私も先日8月に浅草演芸ホールで開催されていた納涼住吉踊りに行ったのですが、その雰囲気を感じられましたね。
ありがとうございました。
いかがでしたか。江戸落語とも違う上方落語の聖地。大阪に行く機会があれば是非一席楽しんでみてはいかがでしょうか。
知らなかった新しい「笑い」に出会えるかもしれません。
天満天神繁昌亭:https://www.hanjotei.jp/