わたしは風邪を引きやすく長引きやすい。この冬もさっそく風邪を引き、ネット情報を手掛かりに漢方薬を試すとなんと一晩で回復。その情報を知人の医師に見せたところやや怪しかったみたい(結果として治ったからよかったけど)。そこで、いい機会なので、漢方の基礎知識から自分で使いこなせるようになる方法までをまとめてみます。
指導してくれたのは、医師でシンガーで漢方に精通する女医の木村至信(しのぶ)さんです。
そもそも漢方ってなんだろう?
医学には、西洋医学と東洋医学というふたつの大きな潮流があります。
西洋医学の始祖は、紀元前400~300年頃のギリシアの医師・ヒポクラテス。東洋医学の始祖は、150~220年頃の中国の医師・張仲景(ちょうちゅつけい)。彼が記した『傷寒論(しょうかんろん)』は、今も読み継がれる重要な原典です。
漢方とは、東洋医学のひとつ。5~6世紀に中国から伝わった医学が日本で独自に発展したものであり、現在中国で行われる「中医学」とは異なるものです。
これだけでOK「漢方基礎のキソ」
漢方の目的は、中庸(陰と陽のバランスが取れた状態)を目指すこと。漢方を扱う医師の技術として、「症状を『寒』と『熱』に分ける」というものがあります。「寒」の症状には体を温める漢方薬、「熱」の症状には体を冷やす漢方薬を使うのが基本です。
また、中庸であるためには、「足りないものは補う」、「過剰なものは減らす」ことも重要。気力や体力、体を潤滑に動かす力(漢方でいう「血:ケツ」)、水分が不足していたら、それらを補う漢方薬を使います。逆に、水分が多すぎることによるむくみには、水分を排出する漢方薬を使うなどします。
漢方薬とは、自然の動植物などから作られる生薬(しょうやく)を組み合わせたものです。
「漢方に即効性はない」はウソ!
「エビデンス」という言葉をご存じでしょうか。証拠、根拠などといった意味ですが、医学においては、「研究者の主観が入り込まないように、複数のランダム化比較試験の結果を解析するなどして得られた、信頼性の高い根拠」を指します。
漢方薬にはさまざまな生薬が含まれ、どの成分がどんな働きをしているのかがわからず、エビデンスを確立しにくく科学的でないとされた時代もありましたが、現代は、漢方医学も科学的に評価される時代。適切に使えば、しっかりと即効性を期待できます。
風邪対策こそ漢方の出番!
「風邪には葛根湯が効く」とよくいわれますが、これ、実は正しくありません(葛根湯が効くのは一部の風邪のみ)。
まず、風邪のおさらいです。風邪は俗称で、正式には「風邪症候群」といいます。さまざまなウイルスなどにより起こり、せきや鼻水、頭痛、悪寒など症状は多種多様。実際の症状や、その人の体質や状態を見極め、適切に漢方薬を使えば、たちどころに効きます。
ちなみに、インフルエンザも風邪症候群のひとつで、インフルエンザウイルスが病原体となったもの。ウイルスの感染力が強く、重症化しやすいという特徴があります。抗インフルエンザ薬はアレルギーをもつ人がいたり、副作用のリスクもあるので、漢方という選択肢もあります。
風邪の症状を分類して治す
木村至信先生が、この企画のためにチャートを描いてくれました。永久保存版としてぜひお手元に。あなたや家族、友達が風邪を引いたときにはぜひこのページを、風邪を引いてしんどい人にはチャートだけでも見せてあげてください。きっといつかお役に立つはず!
【初期の風邪】
風邪かな? と思ったときにこのチャートを参考にしてください。
【鼻・せき・のどの風邪】
鼻水やせきが出る、のどに違和感があるなどならこちらのチャート。
【回復期の風邪やだるさ】
風邪が治りかけているが、まだ不調があるときはこちらです。
漢方薬使いの裏ワザ
わたしは、地元のドラッグストアで薬剤師に相談後、お寺の参道で古くから営む漢方薬局を紹介してもらいました。朦朧としながらベテラン風の女性に症状を伝えたところ、「麻黄附子細辛湯はお湯で飲んでね。麻黄という生薬が入っているので、夜やや眠れなくなる方もいます」といわれました。
このように漢方薬によって、「水で飲む・お湯で飲む」などの決まりがあるので、パッケージに記載された飲み方やツムラやクラシエなどの漢方薬メーカーのサイトを参考にしましょう。
それから、重要なのが量。漢方薬が中国から伝えられた時代は、輸送方法がまだ十分に発達していなかったため、医師たちが必要最小限の処方をしていたという話。現在は、食間にきっちり服用すると効果が出やすいそうです。たとえば、1日には
①起床~朝食
②朝食~昼食
③昼食~夕食
④夕食~寝る前
の4回の食間があり、このうちの2~3回に服用するのが木村至信先生のおすすめの方法です。
【副作用などについての注意事項】
※一般的なドラッグストアは漢方薬の種類は少なめなので、漢方に詳しい医師のいる病院や漢方専門の薬局に行くのが確実です。
※漢方薬を組み合わせて飲むこともできますが、成分が重複する場合もあります。メーカーのサイトなどで確認しましょう。
◆監修=木村至信(きむら・しのぶ)
医師。信州大学医学部卒業後、横浜市大医学部大学院にて医学博士取得。救急対応もする耳鼻科医として忙しく働く傍らで、シンガーとしても活動中。http://www.kimushino.net