一つの石から壮大な自然界、大宇宙の真理などを感じ悟る芸術「水石(すいせき)」。盆栽の車の両輪とも言われ、能や茶事の概念を持ちながら、日本文化として受け継がれてきました。
水石は、見る側の感性や心に大きく左右されるので、深い精神性があれば、ただの石ころにも宇宙を見いだせるといった究極の心の芸術なのです。
…というわけで、こんにちは。風水&パワーストーンコンサルタントの資格を猛勉強中で、水石をはじめ、巨石巡り、化石採取など、父親の影響であらゆる石が好きになったライターの矢野詩織です。
実は、曾祖父の代から盆栽愛好家の一家に生まれた私。我が家でも父親へと盆栽が継承されています。身近な存在である盆栽や水石について、もっと詳しく知りたい!そんな想いから、今回の取材が始まりました。
日本水石協会の理事長を務め、内閣総理大臣賞を4度授賞している盆栽界の巨匠小林國雄さん(以下:小林さん)にお会いして、盆栽、水石の定義や初心者でも楽しめる鑑賞ポイントを教えていただきました。
これからの盆栽界はグローバル化!盆栽が日本と世界をつなぐ架け橋へ
取材に向かったのは、「春花園BONSAI美術館」。東京の北側に位置する江戸川区にあり、外観には、万国の国旗がずらりと並んでいます。園内は平日の午前中にもかかわらず、国内外の盆栽ファンが多く集まっていました。
英語や中国語など語学が堪能なスタッフさんたちが、海外から来たお客様を親切に案内している様子を見ると、おもてなしの心がある、グローバルな美術館といった印象です。
実は、この美術館の館長は小林さん! 年間で約3万人が訪れる園内には1、000鉢以上の盆栽が所狭しと並んでいます。
大迫力の盆栽に、錦鯉の泳ぐ池など、海外の方が想像する日本の良いところがギュッと詰まっている世界観に圧倒されます。
美しい盆栽に見惚れていると「どうぞどうぞ、こっちへ。一緒に座って!」と気さくに手招きしてくれる小林さん。巨匠と言うとなんだか無口で厳しいイメージでしたが、小林さんは、笑顔がチャーミングな紳士。来館した海外のお客様へ声をかけたり、丁寧にサインのプレゼントをしたりと、とても明るく優しい方です。緊張もほぐれたところで、取材がスタートしました。
世界の億万長者を魅了!小林さんの盆栽
「小林さんの作る盆栽、想像以上に大きくてびっくりしました!」と伝えると「僕は大きく作るのが好きなんだ。海外の方も本や雑誌で、僕の盆栽を知って買いに来てくれるんだよ。嬉しいね」と笑顔で話す小林さん。
なんでも小林さんの作る盆栽は、数万円~1億円まであるそうで、園内の盆栽はすべて売り物。Amazonの創設者・CEOのジェフ・ベゾス氏や、マイクロソフトの創設者兼会長のビル・ゲイツ氏、中国のアリババなど世界の億万長者が小林さんの盆栽を買いに来るほど、国外でも大人気なんです。
「僕は、盆栽を作る定義として、侘び寂び、そして自然界を表現しているんだよね。盆栽には、生と死が共存しているんだよ。盆栽は時間が経つほど味がでる。いつも言うけど、人も盆栽も温室育ちはダメね(笑)。侘び寂びがでませんよ」と小林さん。
「生を強調したいから、死を表現する」という言葉からも伝わるように、盆栽の印象的な白い部分は、幹が枯れている状態。小林さんの盆栽は、炎天下の乾いた環境や冷たい風が木々に強く当たる様子など見るものへ厳しい自然界をイメージさせ、生き抜く命を表現しています。「盆栽の形を作るのには2時間くらい。ただこのような表現にたどり着くまで約50年はかかったんだよ」と教えてくれました。
何百年、何千年と時代を超えて継承されていく盆栽。「小林さんの盆栽や技術は、誰が引き継がれていくのですか?」という質問に「僕の弟子たちはもちろん、孫たちにも期待しているんだけど。ただ人に教えるのは難しんだよな~」と照れ笑い。盆栽の巨匠も人を育てることには苦戦しているそうです。 そして、話の流れは水石へ。
究極の心の芸術、水石とは
水石の歴史は、南北朝時代頃より始まったと考えられていて、盆栽同様に中国から渡来してきた文化のひとつ。後醍醐天皇をはじめ、歴代の天皇にも愛され、現在の皇室にも水石は受け継がれているそうです。
また、川端康成氏も盆栽や水石を愛し、著書『美しい日本の私』の中では、水石の概念を理解するうえ重要なことを述べています。(以下、日本水石協会引用:http://www.suiseki-assn.gr.jp/index.html)
日本の造園ほど複雑、多趣、綿密、したがってむずかしい造園法はありません。「枯山水」といふ、岩や石を組み合わせるだけの法は、その「石組み」によって、そこにはない山や川、また大海の波の打ち寄せる様までを現はします。その凝縮を極めると、日本の盆栽となり、盆石となります。「山水」といふ言葉には、山や水、つまり自然の景色、山水画、つまり風景画、庭園などの意味から、「ものさびたさま」とか、「さびしく、みすぼらしいこと」とかの意味まであります。しかし「和敬静寂」の茶道が尊ぶ「わび・さび」は、勿論むしろ心の豊かさを蔵してのことですし、極めて狭小、簡素の茶室は、かへって無辺の広さと無限の優麗とを宿しております。
巨匠に聞く!水石の始め方と鑑賞方法
「初心者が水石を始めるときは、どうしたらよいのでしょうか?」と尋ねると「まずは、石を探しに川に行ってみること。探石から始めてみるんだよ。水の石と書くことからもわかるように、日本では川で自然と削られた石が水石の定義。ただ、海外では奇石などと言われる変わった形や色の石に価値を置く文化もあるよ」と小林さん。
美術館にも、盆栽と同様に所狭しと全国の銘石が集められた部屋がありました。すると、小林さんが石を持ってきて、目の前で水石のデモンストレーションを開始。
「まず、石を観察する。石の表情を見るんだよ。石盤の中央に置くか端に寄せるか。それもセンス。見え方が変わってくるよね」そう言いながら、なんと即興でつくってくれた水石をプレゼントしてくれました。なんとも可愛い、ミニサイズの水石。床の間のない部屋でも、これなら水石のある生活が楽しめそうです。
盆栽水石を世界遺産へ
現在、全国に約400近く存在する水石の団体や組合。「まずは日本水石協会を一つにまとめることが目標だ」と小林さんは話します。
「水石のレベルを日本全体でアップさせて、後世に残す作品や作家を生み出すことが文化を継承していく上で重要ですね。全国の団体や組合を1つにするのは、とても難しいことだよね。なぜなら、私達のレベルまで芸術性を高めることに消極的な人たちもいて。盆栽愛好家や水石愛好家による団体や協会は高齢の方が多いからね。日本人は、そういう意味では下手(笑)。自分たちの文化を狭めるようなことをしてもったいない。だから、若い人にも頑張ってほしいね!」と語ります。
盆栽、水石を世界遺産にするため、署名活動や呼びかけなど、全国各地で取り組みをおこなっているそうです。また、アジア、ヨーロッパなど、世界各国に講師として招かれ、盆栽のデモンストレーションを行う多忙な日々をおくりながら、世代や国籍を超え、盆栽、水石の技術の発展、文化継承のために小林さんは尽力されていました。
そういった小林さんの信念や志は、盆栽からも感じることができます。やはり作品には、作る人の魅力が現れるものだと実感!日本が世界に誇る盆栽、水石の世界は本当に素晴らしい文化です。
ちなみに「春花園BONSAI美術館」では、初心者でも参加できる「盆栽体験」や小林さんの指導を直接受けることができる「盆栽教室」が開催されています。見るだけでなく、実際に体験することでも、盆栽に触れるいいきっかけになりそうです。
令和2年2月14日(金)~18日(火)には、上野の東京都現代美術館で「第7回 日本の水石展」も開催されます。日本の水石展出品審査会を通過した水石を鑑賞できる貴重な機会。ぜひ訪れてみてはいかがでしょう。
春花園BONSAI美術館
住所:〒132-0001 東京都江戸川区新堀1-29-16
Webサイト:http://www.kunio-kobayashi.com/
休館日:月曜日(祝祭日の場合は開館致します。)
開館時間:10:00~17:00