柔道と空手が戦ったとしたら、どちらが勝つだろうか?
格闘技が好きな人や、もしかしたらそうでない人も一度くらいは考えたことがあるかもしれない。
柔道は投げ技や寝技を主体とする格闘技、空手は打撃主体の格闘技であり、それぞれにそれぞれの強さがあるため、戦った場合にどちらが勝つのかなど分かりもしない。おそらく戦う人たちの技量によるところが大きいだろう。
では、柔道と空手を合わせるとどうなるだろうか?
投げ技、寝技、打撃など様々な技術が合わさり、日本版の総合格闘技が生まれるだろう。
日本拳法という格闘技は、まさに柔道と空手の要素を併せ持つ日本版の総合格闘技である。
1932年、日本拳法元年
日本拳法の歴史は柔道や空手と比べて短い。柔道は19世紀、空手に至っては諸説あるが15世紀頃の発祥と言われており、その歴史は非常に長い。対して日本拳法は1932年に柔道家の澤山宗海(さわやまむねおみ)氏により創案されたものなので、歴史としては100年にも満たない。
創始者の澤山氏が日本拳法を創案するに至った経緯として、彼は元々柔道や様々な古流柔術を体得していたが、彼はそれだけでは満足することができず空手の稽古も始めた。
ところが空手は形稽古が多く自由な打ち合いも少なかったため、彼は大阪府吹田市にある垂水神社の境内に同門生を集めて自由な組手を始め、1932年には大日本拳法を立ち上げた。
発祥した頃の日本拳法は自由に組手をしていたものの空撃(いわゆる寸止め)の打ち合いとなっていたため、澤山氏にとってはまだまだ不十分であった。そこで防具を装着することにより全力で打ち合い、さらに組みついての投げ技や寝技にも発展させることができる総合的な稽古が実現できるようになり、現在の競技としての日本拳法の原型が出来上がった。
競技としての日本拳法
競技としての日本拳法のルールは非常にシンプルである。剣道のようにキレイに決めると1本となり、それを2本先取することで勝ちとなる。ただし1本を取るためには顔面や胴への打撃か、それ以外では関節技等で相手の動きを制しなければならない。そのため相手を投げても1本とはならず、相手を投げた後に顔面や胴に追撃をするか、あるいは肩や肘などの関節を固めなければならないため1本を取るのは容易ではない。
しかも大学生や社会人の試合になると、予測不能な蹴りを出してくるテコンドーや一瞬の隙にタックルをしてくるレスリング、得体の知れない投げや関節技をしてくる柔術等の経験者も少なくはなく、戦術はより一層複雑さを増す。
例えば、打撃のみで1本を取る人もいれば、パンチで顔面に注意を向けておいて足元にタックルをして倒してから胴に回り込んで膝蹴り1本や、相手のパンチに合わせてキレイに一本背負いをしてから肩関節を固めて1本、など戦い方もバリエーションに富む。たまに顔面への蹴りを多用する人を見かけるが、蹴られる方の衝撃もさることながら、鉄面を着けているので蹴る方の足も非常に痛かったりする。私自身はレスリングをかじっていたので、打撃メインとしつつもタックルを織り交ぜた戦い方をしていた。
他にも私が1度しか見たことがない珍しいケースであれば、持ち上げ1本というものがあった。持ち上げてから相手を地面に叩きつけて大ダメージを与えることもできるが、それをすると大怪我をするので持ち上げた時点で生殺与奪の権を取った、ということで1本となるものもあった。
このように書き並べると日本拳法がなんでもありのように感じる方もいるかもしれないが、いくつか禁止技もある。
まず日本拳法では防具を付けていない部位への攻撃を禁止しているため、総合格闘技やキックボクシングでは必ずと言っていいほど見られるローキックが禁止技である。
他にも股間への攻撃や、相手が背中を向けた場合(そもそも相手に背中を向けた時点で警告の可能性が高い)に後頭部や背中への強打は禁止である。ただし、相手の蹴りを上手くキャッチして股間に蹴りを入れる型をしたり、相手の攻撃を上手くかわして後頭部にパンチの寸止めなどをすることで1本とするケースもある。
日本拳法の派生
競技以外の場においても日本拳法は活用されている。防具を付けることで全力で組み合い、そして打ち合うことができるため身体へのダメージが比較的少なく、継続的な訓練にも向いている。そのため日常的に訓練を重ねる必要がある自衛隊などにおいても徒手格闘として取り入れられている。
現役自衛官も全日本選手権など大きな試合には出場されるが非常に強く、上位入賞者も多く輩出し、中には6年連続で優勝した猛者もいるぐらいである。実際に試合で戦うことになると、その実力の高さに震え上がるものである。
他にも警察官や皇宮護衛官の方々が習得している逮捕術は徒手術・警棒術・警杖術から成るが、このうち徒手術については日本拳法をベースにしている。
このように日本拳法は、人々の生活の安全を守る分野において非常に有用であり、実は身近なものであったりもする。
ただ、日常生活において逮捕術などを見かける機会もそうそうない。ここまで読んで日本拳法に興味を持たれた方は、ぜひ近くの武道場などに行って試合を観てみてはいかがだろうか?
きっとその迫力に高揚し、自らの拳を試したくなるに違いない。
(写真提供:公益財団法人日本拳法会)
公益財団法人日本拳法会 基本情報
法人名: 公益財団法人 日本拳法会
住所: 〒545-0021 大阪市阿倍野区阪南町1-18-19
公式webサイト: https://www.nipponkempo.or.jp/index.html