Culture
2020.04.09

三途の川の渡り方とは?お金は必要?冥土ツアーガイドが詳しく紹介

この記事を書いた人

ようこそ、この世とあの世の狭間「三途(さんず)の川」へ。

七日間の旅ご苦労様です。険しい山「死出の山」を越えるおよそ3,200kmもの長い長い旅路、さぞお疲れのことでしょう。私、現世でもガイドを務めております石丸愛夢でございます。このたび、冥土の国でもガイドを務めさせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いします。

さぁ、ここにありますのが対岸も見えない大きな大河・三途の川でございます。ここを渡りきったが最後、現世へは戻れませんのでご了承くださいませ。

まずは、前方に見えます賽(さい)の河原をご紹介した後、秦広王(しんこうおう)様による審判を受けていただいてから三途の川を渡っていただきます。その後の流れもご説明いたしますのでご安心ください。

冥土の世界に咲き誇る曼珠沙華(いわゆる彼岸花)

一重組んでは父のため、二重組んでは母のため・・・

え、この子供たちがなにをしているのかですって?

この子たちは「親より先に死ぬ」、つまり肉親を悲しませるという大変大きな罪を犯してしまったのです。このような大罪を持ち、さらに早く死んだため功徳を積む暇もなかった子供たちは、あの世に行くことができません。


そんな子供たちは、嘆き悲しむ親を思いながら、三途の川のほとりにある賽の河原でひたすら石を積み上げて仏塔を作り、功徳を積むことで自身の罪を償っております。

石を上まで積み上げたとき、仏塔は完成し、初めてその罪は許され三途の川を渡れるのでございます。ただ、どれだけ石を積もうとも、後一息というところで鬼がやってきて壊してしまうので子供達は永遠ともいえる苦しみを味わうことになるのです。

好きで死んだわけじゃないのに可哀想?
はい、確かに理不尽ですね。でもご安心ください。そんな不憫な子供達への救済措置もちゃんと整っております。それが、「地蔵菩薩」様です。地蔵菩薩様は、苦しむ子供達を救済し、きちんとあの世へと送り届けてくださいます。

秦広王による第一法廷

さて、子供たちも地蔵菩薩様が救済してくださったようですね。
次はみなさまの番です。ついにこの世からあの世への一歩を踏み出す時がやってきました。

三途の川を渡っていただきたいのですが、まずその前にみなさまが犯した生前の罪を秦広王様に裁いていただく必要があります。この裁判結果によって次の旅程が変わってきますので。秦広王様は不動明王様の化身で、殺生の罪を問いただされます。

生前、人間に限らず虫や動物などあらゆる命を粗末にすることがなかったか、一度振り返ってみてください。嘘はすぐにばれますので、正直に発言することをオススメします。実は、冥土では現世に生まれた人間に一人ずつ一対の神様をつけることが規定となっているのです。

この一対の神様は、「倶生神(くじょうじん)」といい、人の誕生から死までの一生を両肩に乗って見守っております。右肩に在る女神「同生(どうしょう)」がみなさまの悪事を記録し、左肩に在る男神「同名(どうみょう)」が善行を記録しているのです。

地獄の沙汰も金次第

裁判の結果は出ましたでしょうか?
では、三途の川の方をご覧ください。三途の川の名の由来は、三つの渡り方であるとも、悪人の転生先となる餓鬼道・畜生道・地獄道の三悪道を意味しているとも言われています。川の流れが緩やかな浅瀬と激流の深瀬があるのが見えますでしょうか?浅瀬のところを「山水瀬(さんすいらい)」、深瀬のところを「江深淵(こうしんえん)」といいます。

罪が軽い方は山水瀬を歩いて渡り、罪の深い方は江深淵を泳いで渡るようお願いします。江深淵を泳いで渡るみなさま、覚悟を持ってお進みください。激しい流れはみなさまの体を岩に打ち付け、激痛をもたらすでしょう。水から顔を出せば鬼の攻撃を受けるやもしれません。

ですが、みなさんはすでに死んでいる身。どれだけ体が傷ついても修復されますのでご安心を。激痛と疲労に耐えなんとか渡りきってください。疲れ果て、下に沈んでしまうと、川底で待つ大蛇に喰われるともそのまま最下層の地獄行きになるとも言われています。どちらにせよ、諦めるのはオススメしません。

そして、ラッキーにも無実を証明された方々は、金銀七宝で豪華に飾られたこちらの「有橋渡(うきょうと)」をお渡りください。ちなみに、女性は初めて関係を持った相手に背負われて川を渡るという噂もあります。女性のみなさん、お相手の方はお見えになっていますでしょうか?ここで長年の嘘がバレることもあるので心のご準備を。

おっと。すみません。これは平安時代までのお話でございました。平安時代後期からルールが変わりまして、誰でも六文銭渡せば船で渡れるようになっております。近年は、この世でもあの世でも金が大事ということです。

奪衣婆と懸衣翁

最後に三途の川を渡り終わった後のことをご案内しておきましょう。

三途の川を渡りきったところには、奪衣婆(だつえば)と懸衣翁(けんえおう)が衣領樹(えりょうじゅ)の下で待っています。奪衣婆がみなさまの服を剥ぎ取り、懸衣翁に渡します。いささか奇妙ではありますが、これも手続きの一環ですのでどうか抵抗せずに服をお渡しください。

懸衣翁は、衣領樹の枝にみなさまの服を掛けることで、生前の罪の重さを図ります。ここでの結果は後の裁判にも反映される重要なものです。

ちなみに、彼らが秦広王様の代わりに三途の川を渡る前に判定を行い、三途の川の渡り方を決定する場合もあります。その場合は、彼らに六文銭を支払い判定を免除してもらうことになります。ご存命のご家族様の枕元に立つ場合は、その旨もお伝えくださいませ。

ではでは、みなさま、こちらで作業に当たっている鬼たちの指示に従い順番に川をお渡りください。この後も七日ごとに秦広王様の審判を入れて合計七回もの裁判を受けていただきます。これらの裁判の結果でみなさまの来世の行き先が決定されます。どうかご武運を。

書いた人

生粋の神戸っ子。デンマークの「ヒュッゲ」に惚れ込み、オーフス大学で修士号取得。海外生活を通して、英語・デンマーク語を操るトリリンガルになるも、回り回って日本の魅力を再発見。多数の媒体で訪日観光ガイドとして奮闘する中、個人でも「Nippondering」を開設。若者ながら若者の「洋」への憧れ「和」離れを勝手に危惧。最近は、歳時記に沿った生活を密かに楽しむ。   Born and raised in Kobe. Fell in love with Danish “hygge (coziness)” and took a master’s degree at Aarhus University. Enjoyed the time abroad, juggling with Danish and English. But ended up rediscovering the fascination of Japan. While struggling as a tour guide for several agencies, personally opened “Nippondering” that offers personalized tours with a concept of “When in Rome, do as the Romans do”.