古より水の都と謳われてきた京都を象徴する賀茂川。その川沿いに鎮座する上賀茂神社には、神代の昔より守り継いできた神の水があります。それは御祭神・賀茂別雷大神(かもわけいかづちのおおかみ)が舞い降りた神山(こうやま)より、こんこんと湧き出でる、「神山湧水(こうやまゆうすい)」です。
神山湧水との出会いから生まれた、日本の味覚に寄り添ったコーヒーがあります。柔らかな日本の水が生む、澄み切った味わいのドリップコーヒーAGF®「煎」。浮世絵とAGF®「煎」の関わりを紹介した「ドリップコーヒーAGF®「煎」との密なる関係を探る」「ドリップコーヒーAGF®「煎」と浮世絵、6つの共通点」に続き、今回は上賀茂神社のお休み処「神山湧水珈琲|煎」にて、コーヒーを偏愛してやまない和樂web編集長セバスチャン高木が、AGF®「煎」の開発ストーリーに迫ります。
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和樂web編集長セバスチャン高木が、日本文化の楽しみをシェアするためのヒントを探るべく、さまざまな分野のイノベーターのもとを訪ねる対談企画「編集長が行く!」。第13回は、味の素AGF株式会社でAGF®「煎」の商品開発を手掛ける布田明日和さんです。
ゲスト(写真左):布田明日和(ぬのた・あすわ)さん
世界遺産の古社でいただく神の水で淹れたコーヒー
高木:何度も上賀茂神社には訪れていますが、水の豊かさを感じる神社ですね。ご社殿の両側を御手洗川(みたらしがわ)や御物忌川(おものいがわ)が流れ、合流して楢(なら)の小川になる。川のせせらぎを聞きながら歩いていると身が清められる思いがします。水によって聖域を守り清め社家町をうるおしてきた上賀茂神社は、ご祭神が降りた神山から湧き出る神の水を守り継いできたそうですね。汲み上げられた神の水は、参拝前に自らを清めるお手水や婚礼儀式などの特別なシーンでのみ使われていたとか。
布田:上賀茂神社が古くから守ってきた水が「神山湧水(こうやまゆうすい)」です。この水で淹れたコーヒーが今飲んでいただいている「神山湧水珈琲|煎」です。味はいかがですか?
高木:とてもおいしいです。これは市販のAGF®「煎」と同じコーヒーですか? こちらは神社の清々しい雰囲気を感じながら、コーヒーでひと息つける素敵な場所ですね。
布田:参拝者のみなさまにも好評だそうです。昨年などは1日400杯も提供した日があったと聞いています。私自身も上賀茂神社を訪れると、必ずコーヒーをいただいています。飲んでいただいているホットはAGF®「煎」〈香醇 澄んだコク〉で、アイスは〈濃厚 深いコク〉で淹れています。もちろん市販と変わらない豆を使っています。
こちらでは、一杯ずつ豆を挽いて抽出するマシンを使用しています。本社の背にある神山から神山湧水を取水するために、山からパイプラインをひき、コーヒーマシンに直結させています。もちろん殺菌機器も完備しています。一見カジュアルなスタイルにみえて、かなりの最新技術を導入しているんです。味については神山湧水を使っていることもあると思いますが、川のせせらぎを聞きながら樹々の香りに満ちた場所でいただくことで特別な味わいを感じるのかもしれませんね。
高木:えぇ、コーヒーのために山からパイプラインで水をひいている!? それは、すごいですね。さまざまな神社仏閣を訪れましたが、世界文化遺産に登録された神社の境内にカフェがあるところははじめてです。
布田:世界文化遺産なので厳しい規制があるのですが、参拝者のみなさまに喜んでいただきたいとの想いから、ひとつひとつ基準を確認した上でクリアして、お休み処「神山湧水珈琲|煎」を造られたそうです。そして専門業者に任せることなく、神社が運営していらっしゃいます。また和食の原点とも言われている、神様に献上する食事の神饌(しんせん)。京都最古の神社として神饌についても膨大な古文書が残されている上賀茂神社ですが、葵祭(賀茂祭)のお祝いにいらっしゃる全国の神様への庭積神饌(にわづみしんせん)には、その時々の最高の恵みをお供えするそうです。その際に、神社の歴史上はじめて「神山湧水珈琲|煎」をお供えしていただきました。
高木:神饌にも選ばれたコーヒーなんですね。さきほど神職の方が「神の水で淹れたコーヒーを供する世界で唯一の場」とおっしゃっていました。神様にお仕えする人が神の水で淹れてくれる、おいしいだけでなくご利益もありそうですね。
歴史や文化を育む神山湧水から生まれた新たな味
高木:日本の味覚に寄り添うAGF®「煎」は、神山湧水との出会いから生まれたそうですね。たくさんの銘水があるなか、なぜ神山湧水だったのですか。
布田:もともと当社では、日本の味覚や日本のやわらかな水に寄り添ったジャパニーズコーヒーを追求してきました。日本の水でおいしく香る焙煎方法を研究する過程で、日本の銘水とコーヒーづくりを模索しはじめます。
全国の銘水を調査するなかで、上賀茂神社の神山湧水に出会いました。神代の昔より守られてきた尊い水であり、その水は社家町や田畑をうるおして都の食文化を支えてきました。おいしさを極めただけの水ではなく、日本ならではの歴史や文化を育んできた上賀茂神社の神山湧水は、当社の考えるジャパニーズコーヒーにふさわしい水だと、神社へとご相談におうかがいしたんです。
高木:なるほど。神の水ありきではじまったプロジェクトだったんですね。
布田:ちょうど上賀茂神社が平安時代から続く式年遷宮*を迎えられる年だったこともあり、式年遷宮記念文化事業のひとつとして神山湧水珈琲を開発するプロジェクトへと発展しました。そして神山湧水を分析してみると非常にまろやかな軟水であること、渋みが出やすい特定成分が少ないことがわかりました。水の特性を活かすことで、すっきりと澄み切った味わいのコーヒーを完成させることができました。記念行事でご参拝の方にふるまったところ、これが非常に好評だったんです。
高木:まろやかな軟水が生む澄み切った味わいは、コーヒーのみならず和食に欠かせない出汁の話にも通じるものですね。引き出された出汁の味に慣れ親しんでいる私たちは、水に溶けだした香りやコクを感じとりやすい?
布田:まさにおっしゃる通りです。水に含まれるミネラル分が少ない軟水は、まろやかで飲みやすいだけではなく、出汁やうま味を抽出しやすい水。その水で生まれ育った私たちは、繊細な味わいを感じとることができます。だからすっきりとしたなかにコクと旨味を感じるジャパニーズコーヒーのおいしさは多くの人にわかっていただけるはずだと。式年遷宮記念プロジェクトでしたが、あまりにも反響がよく結果としてAGF®「煎」を立ち上げることになったんです。
科学的手法による風味設計とそれを叶える焙煎技術
高木:昔から自分で豆を焙煎するほどコーヒー好きなんです。このすっきりと旨味のある味わいにするにはどのように豆を選び、焙煎にどのような工夫を凝らしたのですか?
布田:お客さまを対象とした嗜好テスト、専門評価員による官能評価、機器を用いた成分分析を行って科学的手法にもとづいた風味設計をしています。ただ豆自体は、当社のレギュラーコーヒーでも使っている割と一般的な豆なんです。いかに雑味を抑えて、狙い通りの香りやコクを出すコーヒーへと仕上げるかは、焙煎技術にかかっています。AGF® 「煎」では「T²ACMI焙煎®(たくみばいせん)」という焙煎技術を用いて緻密な味を実現しています。
高木:「T²ACMI焙煎®(たくみばいせん)」、匠の技みたいな?
布田:ひとりの熟練職人に頼るものではなく、研究スタッフが試行錯誤を重ねて導き出した“たくみな火加減”をすべて機械で管理しています。多くの量産型コーヒーが単一の温度で焙煎するのに対して、AGF® 「煎」は、秒単位で温度を変えて焙煎しています。
高木:なるほど機械だからこそできることですね。そして、このクオリティで味が2種類あることもすごいことですね。〈香醇 澄んだコク〉と〈濃厚 深いコク〉の焼き分けは難しくはなかったのですか。
布田:豆はほぼ同じ種類なんです。〈香醇 澄んだコク〉はやや浅めの焙煎でふくよかな香りとすっきりとした後味、〈濃厚 深いコク〉はやや深めの焙煎でしっかりとしたコクと奥行きのある味わいに焼き分けています。焙煎を少し変えるだけで大きく味に違いがでる、飲みくらべてみると楽しいですよ。
高木も感動のドリッパーと日本独自のコーヒー文化
高木:ピリピリと開けやすい切り取り線やカップにかけたときの安定感、淹れる前に感動したのがドリッパーです!本当に使い勝手がいい。
布田:カップへのかけやすさ、お湯の注ぎやすさ、抽出過程がひと目でわかるなど、いくつもの改良を重ねて完成したドリッパーです。使い手が混乱しないように形はベーシックなのですが、広口で注ぎやすくて、香りが立ちやすい。ドリップコーヒーを淹れるひと手間も楽しめる設計になっていると思います。
高木:ふにゃふにゃしているドリッパーだと、カップのなかがトルココーヒーみたいになってしまいますからね(笑)。味以前の問題として大事です。以前、老舗コーヒー店の店主からドリップ式コーヒーは日本の喫茶店発祥だと教えていただきました。客前でドリップ式のコーヒーを淹れる所作は、客前で茶を点てる茶道に通じる、とも。江戸時代に長崎の出島にオランダ商人が持ち込んだコーヒーが、茶道などの日本文化と絡み合って独自の発展を遂げてきたのはおもしろいですね。
布田:AGF® 「煎」という名は、焙煎の煎であり、茶を淹れる煎でもあります。鎌倉時代初期、臨済宗・開祖である栄西が宋から喫茶の習慣を持ち込んだのが茶道の起源とも言われています。長きにわたるお茶文化があったからこそ、日本ならではのコーヒー文化も成熟してきたのだと思います。日本文化の一端に、コーヒーが連なっていることを興味深くうれしく感じます。
開発者が教える楽しみ方でAGF® 「煎」をよりおいしく
高木:おいしい淹れ方、また布田さんおすすめの飲み方を教えてください。ドリップで淹れる際にはコーヒーを落とし切らないほうがいいと聞きますが、AGF® 「煎」もそのほうがおいしくなりますか。
布田:少量の熱湯を注いで20秒ほど蒸らしてください。その後、ゆっくりと2、3回にわけて熱湯を注ぐとおいしく出来上がります。いきなりザーッと注ぐと、豆の成分が抽出されずに味が薄くなってしまいます。AGF® 「煎」は落とし切ってもらって大丈夫。浸けこんだまま長時間置くと雑味が出てきてしまうので気をつけてください。
また冷たいコーヒーがお好みならば、急冷ドリップといって氷をいれたカップにドリップするのもおすすめです。〈濃厚 深いコク〉はアイスでもホットでもキリッとした苦味が楽しめます。一方で〈香醇 澄んだコク〉は急冷でいれると個性が変わり甘酸っぱい風味が生まれる。開発担当としても意外なおいしさに驚きました。ミルクや砂糖をいれてもおいしいですが、ストレートで飲むと香りや味わいがよくわかります。
高木:確かに、いい意味で苦みがなくてストレートで飲みやすいです。2020年は誰もが家で過ごす時間が増えています。気分転換の外出もままならず、気持ちの切り替えが難しいときには、おいしいコーヒーを淹れるとちょっと気持ちが和らぎますね。
布田:仕事もプライベートも家にいる。最初は新鮮でも家にずっといる生活に、ときどき息苦しくなることがありますよね。そんなときこそ、AGF® 「煎」を淹れてちょっと寛いで欲しい。香り、コク、余韻の移ろいといったコーヒーそのものを味わう、ちょっとだけ贅沢な時間を過ごしていただきたいです。
高木:ちょっとだけ贅沢な時間っていうのがいいですね。すごい贅沢な時間だとなんだか罪悪感がありますから(笑)。
上賀茂神社 神山湧水珈琲|煎
住所:京都市北区上賀茂本山339番地 上賀茂神社内
営業時間:10:00~16:00
公式サイト:https://www.agf.jp/concept/kouyama/
日本の味覚に寄り添うふたつのAGF®「煎」
1杯ずつ抽出する時間も楽しめる、パーソナルタイプのドリップコーヒーAGF®「煎」は、好みや気分に合わせて香りやコクのバランスが異なるふたつの味わいを選べるのも大きな魅力です。
香醇 澄んだコク
やや浅めの焙煎で、ふくよかな香りとすっきりとした後味が楽しめます。(容量:10g×5袋 / 20袋)
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濃厚 深いコク
やや深めの焙煎で、しっかりとしたコクと奥行きのある味わいが楽しめます。(容量:10g×5袋 / 20袋)
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撮影/伊藤信
取材・文/森有貴子
編集・構成/セバスチャン高木、白方はるか(和樂web編集部)