答えを求めず、もっと自由に解釈したらいい!「ArtSticker」遠山さんに聞く現代アートの楽しみ方

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「この絵は一体、何を表現しているんだろう……。」現代アートの作品を前にして、こんな疑問が浮かんだことありませんか? 知らず知らずのうちに、作品の「正解」を求めていることも少なくないはず。一見するとハードルの高い現代アートの世界ですが、楽しみ方はもっと自由! そのおもしろさを、コレクターであり自らアーティストでもある「あの方」に伺いました。

和樂web編集長セバスチャン高木が、日本文化の楽しみをシェアするためのヒントを探るべく、さまざまな分野のイノベーターのもとを訪ねる対談企画。第15回は株式会社The Chain Museumの代表で、アート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker(アートスティッカー)」を運営する遠山正道さんです。

取材に同行した私が「合いの手」を入れます!


ゲスト:遠山正道さん

1962年、東京都生まれ。2000年、株式会社スマイルズを設立し、代表取締役社長に就任。食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」、ネクタイ専門店「giraffe」等を展開する。18年11月、アートと個人の関係をテクノロジーで変革する新会社「The Chain Museum」をクリエイター集団PARTYと共同出資で設立。

アートとグリーンさえあれば、オフィスができる

セバスチャン高木(以下、高):「ArtSticker」を開発しているオフィスへやってきました。これは仕事が捗(はかど)りそうな環境ですね。

遠山正道(以下、遠):全面スケルトンの空間に、アートとグリーンと椅子さえあればオフィスとして成立するんじゃないか? という発想で生まれた場所です。今のご時世、一人ひとりがパーテーションで分けられることもありますが、それをグリーンに置き換えてみました。野生動物が木陰に身を隠して自分のテリトリーを保つように、心理的な遮断にもなりますよね。人とアートとグリーン、それぞれの関係性でひとつの場所を構成したかったんです。

まるでジャングル!

高:入り口からさっそく立体作品がありますね。

遠:彫刻って、ものすごい空間支配力があるんですよ。これは私が個人的に購入した作品で、キリストとマリアの関係がモチーフとなっています。彫刻というとルネサンス期のブロンズでできた重々しい作品のイメージがありますが、これは石膏でできていて非常に軽いし、脆いんですね。さらに、このペインティングが二人をまるで諫めているというか。見ていると立体と平面を行ったり来たりするような、不思議な感覚に襲われる作品です。

安井鷹之介『chained』

高:これは、かなり日本的な要素が強い作品に見えます。「脆さ」であるとか「平面」であるとか。オフィスにアートを展示するとなると、設置場所も大事な要素になりますね。入口には立体作品、トイレの近くには水場をモチーフにした作品が展示されていますが。

遠:そうですね、作品の前に立つ人の意識が利いてくるので、場所に合わせて選んでいます。

石場文子『2と3のあいだ -room T(部分)-』(写真左)
『2と3のあいだ -room C-作品名』(写真右)リアルな空間に輪郭線をつけて撮影した作品。浮世絵のような平面性が現れている

高:このオフィスは、いつ頃つくられたんですか?

遠:まだ1年も経っていないんです。そもそも「ArtSticker」を運営しているのは、PARTYと私が一緒に立ち上げた会社「The Chain Museum」で、このスペースはPARTYのオフィスを間借りしてつくっています。リモートワークが多いので、出社する人は少ないですね。今日は3人くらい働いていますけど、これでも多いほうです。

高:僕も久しぶりですよ、リアルで人に会うのは。会議も取材もビデオチャットでなんとかなっちゃうんですよね。

遠:じゃあ「編集長が行く」も、最近は「編集長が行かない」だったんですね(笑)。

高:そうなんです(笑)。

今回の「編集長が行く」は半年ぶりのリアル取材なんです。

インディーズやオルタナティブ的な作品に出会える場所

高:さっそく本題ですが「ArtSticker」がどんなアプリか、和樂webのオーディエンスのみなさんに教えていただけますか。

遠:一言でいえば「現代アートのアーティストや作品が、世界に通じるための新しいプラットフォーム」です。発端は、3年くらい前かな。スイス・バーゼルのアートフェアへ訪れたとき、現代アート市場の在り方にショックを受けたんです。超一流アーティストの2億円の作品に、コレクターとメガギャラリーが中心にいて、一般人はとてもじゃないけど立ち入れない空気で。

もちろん彼らがトップにいて、現代アート界を牽引してくれるからそれはそれでいい話なんですが、それだけじゃないな、と思ったわけです。音楽でいえばインディーズとかオルタナティブにもおもしろい作品はたくさんあるし、みんなに購入のチャンスがあってもいいんじゃないかと。それで、現代アートに出会える高速道路のようなものを、デジタルで通してみようと「ArtSticker」を構想しました。

現代アートに出会う機会と対話を楽しむ場所を提供し、アート鑑賞の「一連の体験をつなぐ」アート・コミュニケーションプラットフォーム「ArtSticker」。アーティスト・展覧会の検索や作品購入機能に加えて、金額に応じた色の「スティッカー」を作品に貼ることで、金銭的にアーティストを支援することができる

高:アプリ上にはいろんなアーティストが掲載されていますが、掲載の基準はありますか?

遠:「個展の経験がある」など一定のラインを引いています。自称アーティストみたいな人ばかりになるのも、アカデミアだけになるのもおもしろくないので。バランスを重視して、よいアーティストが参加してくれる雰囲気づくりを心がけています。

高:アート作品って値段に関わらず実用品ではないので、購入を検討するための環境づくりが大切だなと思っていて。その点「ArtSticker」は、現代アートを買う環境にフィットしているのでとてもおもしろいです。20万円の作品でも100万円の作品でも金額がきちんと表示されていて、情報がフラットで、実際に買えなくてもワクワクしますね。

たしかに「これくらいの価格で買えるんだ!」という驚きがあります。

遠:ありがとうございます。このアプリのコミュニケーションの特徴のひとつに「スティッカー」という機能があります。お金を払って「スティッカー」を購入するとアーティストへコメントができるようになるんですが、作品やそれに対する思いを言語化するのって、なかなか慣れないですよね。でも勇気を出して3行くらい書いてみて、それに「いいね」がついたり、アーティストから返事がきたりしたら、すごく楽しいんですよ。

(上記は掲載イメージ)

高:スティッカーはどのように思いついたんでしょうか。

遠:ルネサンス期は王様や貴族がアーティストたちを支えていたんですよね。でも現代には彼らのようなパトロンがいない。じゃあ、私たちが現代のパトロンとなってアーティストを支えよう、ということで考えたしくみがスティッカーでした。

例えば、毎月スティッカーだけで20万円の収入が入るようになって、それでアーティストが生活できるようになったら、作品を売らずに済みます。これって、かなり革命的だと思うんです。これまでは作品の所有権を移転することで利益が発生してきたけど、移さなくてもよくなるのであれば、ビジネススタイルも変わってきますよね。

制作過程を販売してもいいし、絵を描くのやめて言葉を販売してもいい。そこまでいかなくても、これまでよりも大きなキャンバスに絵が描けるようになるとか変化が起きる。要するにスティッカーが普及することで、アーティストが表現とビジネスを明確に分けられるようになるはずです。実現はまだまだ先ですが、そういう世界を目指して活動しています。

高:お話を伺っていると「現代アートの民主化運動」というか、僕はまず「現代アート=王様とか貴族とか一部のお金持ちの人だけのもの」という先入観をぶち壊す必要があるんじゃないかと思いました。「ArtSticker」はちょっとハードルが高く見える現代アートの世界を、私たちに近づけてくれているわけですよね。作品を購入する楽しみだけじゃなくて、スティッカーを買う楽しみ、アーティストとコミュニケーションする楽しみとか。

和樂webも活動のミッションに「日本文化の民主化運動」を掲げているので「ArtSticker」と重なる部分があるなと思ったわけです。「日本文化ってごく一部の人しか扱っちゃいけないんじゃないか? 」とか、語ることも許されないような空気が漂っていて。それが少なからず日本文化の可能性を狭めているので、もっとみんなが気楽に語れる世界を目指して私たちは活動しているんです。

遠:現代アートは、逆にその「語っちゃいけないような空気」で守られている感じもありますね。語れないことによって、現代アートが現代アートらしく成立してるっていうバランスと言いますか。

高:そういうバランスをね、僕は壊したくなっちゃうんですよ(笑)。

破壊衝動が抑えられないようです!

正解がなくてもいい。現代アートの解釈はもっと自由だ!

高:ヨーロッパや香港を見ていると、現代アートと大衆の距離がめちゃくちゃ近くありませんか? 作品との接触機会が日本に比べて圧倒的に多いですし、マーケットも盛り上がっていて。思い思いに現代アートを楽しめる環境ができているように感じます。

遠:「現代アートの見方は自由」っていう考え方もあるんですよね。現代アートって、言い方を変えると「同時代アート」つまり「現在進行形」ってことなので、アーティスト自身も自分の評価がよくわかってないような、発展途上の状態で市場に出てくるわけです。

これはギャラリストの吉井仁実さんとの対談で彼が話していたことですが「現代アート以前の作品のほうが、現代アートよりもよっぽどむずかしい」。なぜかというと、フランス革命がどうだとかアーティストの環境だとか、動かし難い過去と事実がたくさんあって、いろんな事実に塗り固められているので、まずそれを知らなくては解釈できない。

高:自由にアートを解釈しようにも、文脈の中でフィックスされちゃってるんですよね。

遠:そう。事実で固められちゃっていて大変。だけど現代であれば、それが固まっていないし、本人でさえ途上だからずっと気が楽でわかりやすいという。

瀬戸優『水源-ハヌマンラングール-』

高:本来そうであるべきはずの現代アートに対して、特に日本では、多くの人がハードルを高く感じていますよね。

遠:それはそのとおりですね。「現代アート≒コンセプチュアルアート」のように「コンセプトがあって初めて表現がある」という構図があたりまえになっているのが問題点かもしれません。えらそうにいうと、日本の正解を求める教育が自由な解釈を邪魔しているのかも。

本当は、作品だけ見てもよくわからないことのほうが多いのに、正解に辿り着けないから不安になっちゃう人が多い。コンセプチュアルアートであったとしても、正解がなくてもよいですし、アーティストがつくった道筋と見る人が違うことを感じ取ったら、それを否定しようもなくて「そういう考え方もおもしろいね! 」でいいんじゃないでしょうか。

作品に答えを探しちゃうのは、日本人らしい悩みなのかも?

高:「ArtSticker」には、そういう正解を求めない現代アートの見方を伝えようとする狙いもあったんでしょうか?

遠:それもひとつですね。あくまで個人的な考えなので、それが絶対とは思わないですが。現代アートの見方でいうと、今度現代アートについてぜひ語ってもらいたいなと思っている社会起業家がいるんですが、彼は目が不自由なんですね。彼が作品を「見る」には、作品の前で誰かに付き添ってもらって、その人が彼に一生懸命説明するんですが、そこに描かれている表面的なものを単純に語っても意味があるんだろうか、とかいろんな疑問が生まれてくるんですよ。

高:目の不自由な方に現代アートを伝える作業って、コンセプチュアルアートが主流であるからこそできる楽しみ方のような気がします。僕も似たような体験の可能性を感じていて、例えば、音声コンテンツだと作品は見えない状態です。じゃあ、何を伝えるかというと、アーティストの考えを想像したり、自分が作品から感じたことを話したりするしかない。そうすると作品からいろんなものが剥がれ落ちて、作品の芯にある「塊」みたいなものだけが残っていくんです。この作業が結果としてアーティストが表したいことや伝えたいことに近づく手段になるのかもしれません。

遠:おもしろいですね。リスナーが妄想した作品と本物が全く違うってこともありえそうです(笑)。

高:語り手の能力が問われます(笑)。話す人の数だけ作品が存在するみたいなかたちになっていくのも、おもしろいじゃないですか。

現代アートなら、アーティストと未来を共有できる

高:遠山さんにとって現代アートはものすごく身近な存在のようですが、いつ頃興味を持たれたんですか?

遠:30年前くらいに代官山に引越してきたとき、菅井汲というアーティストの作品を買って、今も玄関に飾っているんです。少なくともその頃から現代アートを買ったり眺めたりしていたわけですけど、もっと身近な存在として現代アートを感じるようになったのは、この7,8年くらいかな。

高:現代アートを買う時は、直感で選ぶのですか?

遠:自分のお金で買うなら趣味で選べばいいんだけど、会社として現代アートを購入する場合はいくつか基準があります。まず極端な話、よい作品しか買いません。例えば、デイヴィッド・ホックニーの数百万円する作品のような、将来的に資産になるもの。それがひとつ。

それから社員にとってのリテラシーになるもの。デイヴィッド・ホックニーとか名和晃平とか「このアーティストは最低限知っていてほしいなぁ」という思いで選ぶ。

もうひとつは「ここまでの仕事を我々はやっているんだ! 」という会社の自負を象徴するような作品です。例えば小川信治という細密画を得意とするアーティストがいるんですけど、技術も労力もすさまじいんですね。

高:個人で購入するときは異なる基準を?

遠:そうですね。自分が絵の中に入っていけるような、止まり木になるようなものを選びます。コンセプトと作品が自分の中で結びついたとき、あとは「やられたな」とショックを受けたり「自分だったらこうできたかな? 」と圧倒されたりする作品ですね。

安井鷹之介『Waiting Man』

高:遠山さんのコレクションの中で、特に脳みそがブワーッとなった作品はありますか?

遠:会田誠の『ちくわ女』です。「海ほたるがもしも女性だったら」を表現した巨大な絵なんですが、それが大好きで。私が持っているコレクションの中で、一番長くひとりで眺めている作品かもしれない。「このちくわの先に座ったらどんなかんじだろう」「ゴォーッとかすごい音を立てて、風が吹き込むんだろうな」とか妄想するのが楽しいんです。子どもの頃に絵本を眺めているうちに物語の中に入りこんでいっちゃうような、そんな感覚を呼び起こします。

ユニークな作品なんですよ、『ちくわ女』。「会田誠 ちくわ女」で画像検索してみてください!

高:遠山さんが考える「現代アートのおもしろさ」って、なんですか?

遠:アーティストが生きていて、直接会える可能性があることは、楽しみのひとつですね。作品は既に過去のものだけど、これから未来があって、自分も一緒にアーティストに加担できるというか。アーティストと未来を半分共有できるところがおもしろいのかな。

あとは、私があるアーティストの新作を持っていたら、そのアーティストと作品を通じて、さらに別の人と知り合いになれる可能性もあります。例えば「アートフェア東京」のとき、立石従寛の作品をスターバックスの社長の水口貴文くんらが購入したので、4,5人で作品を囲んで食事をしたんですね。そうするとアーティストを通じてコミュニティができる。20年でも30年でもこの食事会が続いたら、心が豊かになるじゃないですか。

高:たしかに、未来に繋がる楽しみは現代アートならではです。

たしかに、ピカソや北斎と関係性を築くのはできないけど、現代アートのアーティストならそれができるかも!

アートとビジネス、両方のよいところを生きる術に

高:アーティストってすごいですよね、作品だけで生活するのは大変なのに、それでも情熱を注ぎ続けられる。

遠:彼らには上司もいないですし、いい意味で「自分ごとの権化」みたいな人なんですよ(笑)。だからカッコいいなと尊敬しています。ビジネスマンはアーティストからそういう姿勢や表現力を学ぶべきだし、アーティストはもう少しビジネスセンスを持って、両方のよい要素を持ちながら、一人ひとりの表現が生きていく術にもなっていくとよいのですが。

高:現代のアーティストは孤独感が強いんじゃないでしょうか。純粋な自己表現だけによって立って創作活動するのは相当しんどいはずです。

遠:たしかにしんどいかもしれませんが、私もアーティスト活動しているのでそのおもしろさがわかります。「社会的私欲」なんて言って、自分の私欲を掘っていった先に、禅でいう即禅みたいな、バン! と宇宙に通じちゃうことがあったら最高じゃないですか。

例えば、私の作品に「生彫刻」というシリーズがあるんです。フルーツが好きなので「台座に乗せればそれは彫刻か? 」ということで、いろんなフルーツを台座に乗っけて、写真を撮って、大きく引き伸ばしてエディションを5つくらいつくったんです。これで食っていけたら、めちゃ幸せなんですよ(笑)。だって自分が「これどうよ!」って出したものが「いいね!」と言われるんです。個人的にビジネスはこれからも続けていきますが、ひとりのアーティストとしても食べていけたら幸せだなと思っています。

高:その気持ち、わかりますね。僕は編集の仕事をしているので、将来的には自分の文章で食って生きたいです。

遠:誰だってクリエイティブで生きていく可能性がありうるんですよ。私だって、写真はiPhoneで撮っているし、言っちゃえば何の技術もない。要は腹の据わり方ですよね。自分がどうありたくて、これからどうするかを自分で決めて、ただ先を掘っていくだけなんです。アーティストではない方でも、そういう選択肢が増えるといいですよね。

来年60歳なので、これからのビジネスやアーティスト活動をひっくるめて「あたらしい老人」とかいい言葉をつけて発信する妄想もしています。

高:そういう考え方自体が、アートになる可能性もありますよね。アイデアとか考えを、作品化する場所として「ArtSticker」が位置づけられるとめちゃくちゃおもしろいじゃないですか。「まだかたちになっていないけど、こういうふうに思っているんだ! 」というものに対してスティッカーが貼られる。

そもそもアートって思考そのものでもあるので、それが認められるようになったら、ぐんと現代アートのハードルが下がるというか。「究極の普通の生活をする私を見てくれ、これが私のアートだ! 」と公開する人が出てくるかもしれません。極端な話、全人類アート化計画みたいになりそうです。

遠:なんでもOKにしちゃうと難しいんですが、たしかにそうですね。ビジネスマンもそれぞれ自分の立場をうまく活用したり、そこで体感したことを織り交ぜたり。

高:自分のやりたいことを突き詰めて掘ってく作業、その深度がアートであるかどうかの基準になるんじゃないですかね。

遠:わかりやすい基準は技術ですけど、「これはできない」と思わせる何かとか「もし技術がないなら何で戦う? 」みたいなところを考えなくちゃいけません。何でもいいわけではなくて、知的興奮が求められるはずなので。

高:そこはアートもビジネスも似てるところで、人に刺さらないものは両方になり得ないですもんね。

遠:極端な話、アートじゃないものを世の中に出したとき、ちゃんと「あいつはダサい」と言われるような状況であればいいのかもしれない。やっぱり「全員で手を繋ごう」じゃなくてそこで頭ひとつぐんと出てくる人がいるからおもしろいから。民主化の厳しいところというか。

高:民主化って厳しいんですよね。世の中に評価されるので。

厳しく評価されるからこそ、本当におもしろいものが残っていく世界!

世界の都市に文化が溜まっていく場所をつくる

高:先ほどおっしゃっていたように、昔のアートはパトロンありきの頼まれ仕事で、日本でいうと江戸時代までほとんどがそういうパターン。そもそもその頃はまだ「アート」という概念がなかったので「工芸」だったんですけど。

遠:工芸の可能性ってすごくあると思っていて。なぜかと言うと、現代アートは「よくわからない」とか「俺でも描けるよ」ってみんなに思われがち(笑)。一方で、工芸にはそういうイメージがない。なんとなく漂う「昔のもの」「格式高いもの」というイメージを上手く払拭できれば、可能性が開けるんじゃないでしょうか。それこそ、現代アートが持っているような「いい意味の小難しさ」を纏いながら、見せ方を変えるだけで市場価値もぐんと上がるかもしれない。

高:おっしゃっていることに全く同感で、工芸をヨーロッパのアートの文脈上に乗せることができたら、それは違った評価がされるだろうなと考えています。杉本博さんにしても村上隆さんにしても、ヨーロッパの文脈を恐ろしいほど学ばれていて「自分はこの位置のここに置かれる」と想定して作品を制作されていますよね。そういう戦略がないと、工芸のマーケットが小さくなっちゃうような気がするんです。

工芸ってすごく日本的な技法というか用の美というちょっとしたアートへの反抗みたいなものがあって、そのふたつを持ったまま現代アートの文脈に乗せるって作業を、誰かやってくれないかなーって期待しているんですよ(笑)。

遠:ビジネスも稟議書を上に通すためには「イケてる」だけじゃ通らないので(笑)。そういう意味では、工芸はアピールできることがたくさんあるのでやりやすいですよね。

高:そう。あとはどう文脈に乗せるか、だけなんです。

遠:海外の文脈をどうやって学んで、どこに合わせていくか。

高:あとは先ほどの民主化の話と同じなんですが評価を厳しくイケてる人と突き進まないと工芸全体がダメになっちゃう可能性があります。まだアートの概念が日本に入ってきてから160年くらいしか経っていないので、日本のアートの歴史は浅いじゃないですか。我々の時の美術教育って点描だとか技法しかなくて、見方や需要の仕方に関してはこれからの段階なので、それは「ArtSticker」が可能性を秘めている領域だと思うんです。

遠:そうですね。現代アートの場合は、それにまつわるコミュニケーションのハードルが高いし、大衆に言葉が流通してないんですよね。なのでまずは「ArtSticker」の中でコミュニケーションが活発になるといいなと思っています。

高:では最後に、遠山さんが「ArtSticker」を通じて目指すものは?

遠:もっともっとアーティストと直接通じあえる場所を目指したいです。具体的なアクションとして、2021年7月2日(金)から丸の内のKITTEで3カ月にわたって「REAL by ArtSticker」というイベントを開催しています。これと並行してずっと「場所」を探そうと思っていて。

文化が溜まっていくような庭があったり、アーティストがたむろしたり、ちょっとお酒を飲んだりできるような場所。それが東京と京都、ベルリンとかパリにもある。海外はそれぞれの地域のイケてる人と組んでフランチャイズで展開したいな、と。いつか「REAL by ArtSticker @パリ」みたいなイベントを開いて、さらにそれをArtSticker上でも見られて、オンライン上で台湾の人が作品を購入する、みたいな未来を実現したいですね。

REAL by ArtSticker イベント情報

会期:2021年7月2日(金)〜9月29日(水)
時間:11:00〜20:00
入場料:無料
会場:KITTE丸の内 4F 〒100-0005 東京都千代田区丸の内2丁目7-2
詳細ページ:https://artsticker.app/share/events/detail/590

写真:篠原宏明