熱燗が美味しい季節となりました。
温めて美味しいお酒はやはり日本酒が一番。この熱燗のお供として外せないのが、小魚をじっくり煮炊きした佃煮です。醤油と砂糖で煮炊くシンプルな調理法で、常備食として家庭でも作られてきました。昔、祖父の家に行くと、毎晩のように熱燗と祖母の作った佃煮を美味しそうに食べている姿を見て、私もホカホカの白いごはんに佃煮をのせて食べるのが大好きになりました。あまりに美味しいので、食べ過ぎて怒られることも(笑)。それ以来、ずーっと大好物のままです。日本酒と佃煮には「あ~日本人で良かった」と思わせる何かがあります。
琵琶湖で獲れる特徴のある湖魚を8種選定し、名付けられた「琵琶湖八珍」。1年を通して旬の湖魚を素朴な味で楽しめるのが琵琶湖八珍の佃煮なのです。
生命の泉・琵琶湖には約1,000種の生物が存在する!
日本一の大きさを誇る琵琶湖は、約400万年の歴史を持つ古代湖であり、今も1,000種以上の生物が生息しているといわれています。さらに琵琶湖だけに存在する固有種も60種類以上といわれ、その中で湖魚が16種類も存在するそうです。多種多様な生物が育まれる生命の泉は、深い山々に囲まれた人々にとって、生活の糧であり、湖魚は重要なたんぱく源でもありました。
琵琶湖の湖魚を味わい尽くす。滋賀県民の推し! 琵琶湖八珍!
ここ滋賀では、琵琶湖で獲れる8種の湖魚を「琵琶湖八珍」と呼んでいますが、みなさんはいくつ言えますか?
琵琶湖八珍には5種の固有種が含まれていて、ここでしか味わえないのも魅力の一つです。よく知られているのは、この地の特産物としても名高い「鮒(ふな)ずし」に使われるニゴロブナ。鮒をごはんと塩で寝かせ、乳酸菌発酵させた鮒ずしは、クセのあるチーズ同様、独特の味わいが通好みで、日本酒のアテにも最適です。
ビワマスはサケの仲間に属し、琵琶湖周辺の川で孵化し、琵琶湖で成長していきます。旬は初夏で、身は美しいサーモンピンクとなり、刺身にしても美味。もちろん天ぷらや煮魚にしても絶品です。
琵琶湖のアユは大きくならないことからコアユと呼ばれ、骨も柔らかく、丸ごと食べられるのでカルシウムもたっぷり摂れるのがうれしい湖魚。琵琶湖では小さいままですが、ここから全国へと運ばれ、川に放流され、コケなどを食べてあの立派な鮎になります。コアユが食べられるのも琵琶湖ならでは。これも貴重な食文化の一つといえます。
琵琶湖の王様といえば、歯ごたえのあるもちもちした食感が美味のモロコ。種類もいくつかありますが、絶品なのはホンモロコです。正月前に京都の錦市場でも見られ、ここではおせちなどに使われる高級魚となります。ところ変われば、魚も変わる? でしょうか。ここ琵琶湖では佃煮はもちろん、天ぷらや素揚げでも美味しく味わうことができます。
滋賀のソウルフード。えび豆はおふくろの味!!
滋賀の人々のソウルフードといえば、スジエビと大豆を炊いたえび豆。農業の盛んな地域ならではの畑のお肉とのコラボは栄養価も最強です! 春から秋にかけては浅い場所にいるためカゴ漁で、冬は深い場所にいるので底引き網で漁獲します。柔らかく、醤油が染み込みやすく、これもまた郷土食といえる味わい深い一品。
そして、8月~10月に獲れるちりめんじゃこのようなちいさなハゼ科の魚ゴリと、初冬から春先まで寒い時期に獲れるハゼ科のイザサ、コイ科の魚ハスは、夏に獲れる大型のものを塩焼きにして食すのが絶品です。
近江八景の一つ満月寺浮御堂前にある。佃煮専門店「魚富商店」
歌川広重が描いた「堅田の落雁」で有名な近江八景の一つ、満月寺浮御堂の目の前に、昭和5年に創業した「魚富商店」があります。ここの売りは、なんといっても車で5分のところに堅田漁港があり、水揚げされた旬の魚を新鮮なうちに佃煮にできること。その美味しさは地元のみならず、県外の方々からも高く評価されています。
曾祖父の時代から4代目となる竹端尚さん。琵琶湖の佃煮の美味しさをもっと多くの人に伝えたいと脱サラして、家業を継いだ竹端さんに琵琶湖八珍の美味しさの理由や滋賀県の魅力について語ってもらいました。
――魚富商店のInstagramに定期的に、新鮮な琵琶湖八珍と佃煮が上がっていて、見ているだけで白いごはんが食べたくなりますが、滋賀県の人にとって琵琶湖八珍ってどういうものでしょうか。
竹端:滋賀県の人にとっては琵琶湖は生活そのもの。昔の人は、食べる選択肢が少なかったこともあり、琵琶湖で獲れた魚でたんぱく源を補っていましたが、今は食材が豊富で、佃煮を食べる機会が減ってきています。しかし琵琶湖八珍は貴重なうえ、美味しいということを佃煮屋を継いで改めて感じました。昔はどこの家でも市場で買ってきた魚を自分の家で煮炊きしていたけど、今は家で佃煮を作る人はほとんどいません。だからこそ、この美味しい味を伝え続けたいと思って、店を継ぐことにしたんです。
――琵琶湖八珍の魅力はなんでしょう。
竹端:四季折々の旬が楽しめるのがまず一番。季節ごとに魚の旬があり、その美味しさをじっくり味わえるのが佃煮の良さ。ここの場所は堅田漁港から車で5分なので、買い付けてきたら、すぐに洗浄して、炊き上げます。魚は鮮度が命、時間との勝負。それができるので、ここの佃煮は、ふっくら柔らかいとお客さんに喜んでもらえているんです。
――琵琶湖に外来種が増え、環境破壊も心配されましたが、今はどうですか。
竹端:鮒が子を蓄えて、葦に卵を産み付けたものをブラックバスが食べてしまい、一時激減したんです。県が外来種駆除の対策をするようになり、その成果もあって、外来種はかなり少なくなりました。
――県民の意識で琵琶湖の環境も守られているんですね。これからの時期、おすすめはどんな魚になりますか。
竹端:これからはモロコとエビです。ホンモロコは佃煮にしておせちなどにも使われますが、3月~4月に子を蓄えた子持ちのホンモロコを素焼きして、1対1の酢醤油て食べるのも絶品です。えび豆は湖で捕れるものと畑で採れるものを組み合わせたのが面白いなと思います。エビの旨みが醤油に染み出し、それが大豆に染み込むので二重の美味しさになります。昔はどこの家でもおばあちゃんが炊いてくれていた滋賀県民のソウルフードです。
――佃煮を作る難しさはどこにありますか。
竹端:それぞれの魚で炊き上げ時間が違うんです。誰に習ったわけでもなく、祖母とかが炊いているのを見て覚えたんですが、店によっても炊き上げ時間が違う。柔らかく味の染み込んだ佃煮を作るために日々、時間と戦っています。
――湖魚の漁師さんは今、どのくらいいるのでしょうか。
竹端:今は漁師も10軒ぐらいになってしまいました。昔はそれこそ大漁に水あげされて売り先もあったのですが、今は食生活が変わり、佃煮自体を食べる人が少なくなってしまい、廃業する人も増えています。でも小魚は栄養価も高く、保存食でもあるので、この美味しさを若い人たちにも知ってもらいたいし、日本の食文化として残していきたいと日々奮闘しています。
滋賀県は近年、平均寿命が男性1位、女性4位と長寿県として、全国に名を馳せました。もしかすると、琵琶湖の湖魚も健康に一役買っているのもかもしれません。また、最近話題の琵琶湖のおさかな博士・中学生の黒川琉伊(るい)君のように、琵琶湖の湖魚を研究・調査するなど、琵琶湖の魚に魅せられた人たちもいます! 琵琶湖にしか生存しない固有種が数多くいるなど、神秘の生態系についても注目されています。湖のほとりに立つと、どこか懐かしく、心がホッとする琵琶湖の美しさと味わい深い琵琶湖八珍に癒やされた時間となりました。
魚富商店 情報
住所:滋賀県大津市堅田1-16-14
公式サイト:http://www.biwa-uotomi.com