Gourmet
2020.03.07

「この惑星の住人は、今でも山奥で鮫の刺身を食べている」仰天!鮫カレーのレシピ!

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宇宙人ジョーンズは言っている。この惑星の住人は、飲んだ後にラーメンを食べずにはいられないし、犬と呼ばれる奇妙な生き物と共同生活するし、歌と呼ばれる耳障りなわめき声を好むんだ、八代亜紀はマジ泣けるけど、と。

宇宙人の視点からは、地球に住む人間の生活が非常に興味あるものに映るだろう。これは文化の違いはおもしろいって根本的な考え方だと一緒だ。要は誰かの日常は、意外性に満ちた良質なコンテンツだったりするってことだ。それと、八代亜紀はすごいってことだ。

さて、最近、ひょんなことがキッカケで、鮫を使ったグリーンカレーを作った。鮫のカレーと言えば、東京・本駒込に「Spice Bar コザブロ」という大名店がある。プロレスラーのような体格で見た目は怖いけど、味に限ってはとっても繊細な菅原シェフがコブミカン香る極上の鮫のカレーを提供してくれる。

コザブロの「サメのカレー」

それを食べてからというもの一度は作ってみたいなーと思っていた。でも肝心の鮫が手に入らない。普通の人はどこで買うの?って感じだと思う。菅原さんから気仙沼産のアオザメということは聞いていたけど、ルートも無いし、あってもお店じゃないので大量に購入するわけにもいかない。鮫カレーは機会があったらと、夏休みの宿題が如く、いつしか忘却の彼方であった。

ところが、出会いは突然やってくる。台風被害の農家さんを支援するイベントで鮫料理をキッチンカーで販売しているSAMEYAの髙瀨(たかせ)さんという人に出会った。

聞けば気仙沼産の鮫を使っていて、卸売りも検討しているところだと言う。一気に鮫カレーがフラッシュバック !僕は月に一回くらい手作りカレーを振る舞うカレーイベントを開催しているのだが、ちょうどその日程が近く、提供するカレーが決まっていなかった。これはー !と早速鮫をわけていただいて調理したのが鮫のグリーンカレーというわけである。

イベントでも好評であっという間に売り切れた。物珍しさというよりは、そもそもの鮫のポテンシャルがすごいのだ。その辺は後述するとして、まずそのイベントでの奇妙な体験を共有したい。

イベントに来てくれた先輩が鮫のカレーを食べながら

「いやー、懐かしいね。臭くて嫌いだったけど、カレーならいいね」

とつぶやいた。んん?どういうこと?

その先輩は福島県の須賀川市出身で、小さい頃に鮫の煮付けをよく食べていた、否、食べさせられていたそうだ。匂いが独特で本当に嫌いだったらしい。でも、よく考えたら変だ。まず匂いだが、僕は調理してて鮫が臭いと一度も感じなかったのである。それに須賀川市って猪苗代湖(いなわしろこ)の近くだ。海からは距離があるし、湖に鮫はいない。さらにこの地域では鮫のことを「サガンボ」と呼ぶのだという。ほとんど怪獣の名前だ。すんごく変。面白くなってだんだんと聞いていくと全貌がわかってきた。

一週間経っても刺し身でOK!?鮫は山で食べる海の幸!

福島県須賀川市では、海から遠いのに鮫を食べる文化があった。どういう理屈かというと、普通の魚は輸送中に悪くなってしまうのに、鮫は日持ちが尋常じゃなくて全然傷まないから。昔は鮮魚として、とっても重宝したそうだ。

というのも鮫はエイと同じ軟骨魚類。全身の骨格が軟骨で構成されていて、体内に尿素が多く含まれている。捕獲後、鮮度が低下するとその尿素がアンモニアに変化して保存性がグッと増すらしい。だから先輩の記憶では「臭い魚」ってことになっていたのだった、とっても合点。

他の地域にも鮫食文化はあるのだろうかと調べてみた。日本における鮫の食用は古くて、なんと弥生時代。鳥取県にある弥生時代の遺跡から鮫の歯の出土が確認されている。伊勢神宮では現在でも神饌(しんせん)として鮫の干物が納められているそうだ。干した鮫は三重県の名物にもなっている。

現在でも鮫食の文化は思っていた以上に各地に分布しているが、特に東北地方の沿岸部と中国・四国地方の山間部に集まっていた。

食べ方には地域性があって、中でも広島・岡山の山間部がダントツで異色。今回は現地で水産業を営む三次水産の方にお話をお聞きした。凄まじく面白かった。


取材させていただいた池上弘一さんがお作りになったワニ刺身

まず、鮫のことをワニと呼び「正月にワニを食べないと正月が来ない」と言われるそうだ。田植え、お盆、秋祭りでもマストな食い物っていったらワニらしい。しかも、なんと刺し身。この地域では漁で獲ってから1週間〜2週間経った鮫を生の刺し身で食べていた。そんな魚聞いたことある ?腐らない鮫もすごいし、初めに食べた奴はもっとすごい。今は流通が発達したから水揚げされて5〜6時間で鮫は魚卸まで届く。だから、最近では日常食として普通にスーパーで「ワニ」と書かれて販売されている。でも、現地の人は「新鮮過ぎる!」とわざと1週間程度寝かせてアンモニア臭が発生してから食べる人もいるそうだ。おじいちゃんくらいの世代はワニの刺し身を食べ過ぎるとお腹が冷えるけど、それでも「腹が冷とうなるまで食べる!」って言葉が流行ったくらい好きらしい。

なんでこうなったかというと、江戸時代から明治時代初期にかけてフカヒレが中国に高く売れたものだから、島根とか鳥取の漁師達は、フカヒレ以外の鮫の身は廃棄してたそうな。明治時代も中頃になったあるとき、海側に住む行商人がそんな捨てられた鮫を見て、あることに気づく。

海側の行商人
「臭いはちょっとするけどさ、これ腐ってなくない?これ・・・めっちゃ日持ちするんじゃない?」

ここでビジネスの神様降臨。ひらめいた行商人は鮫を持ってトレイルラン!山奥で集落を見つけると鮫を売り込んだ。

海側の行商人
「Hey! 鮮魚だぜ!めでたい代物だ!しかも、このワニは、超日持ちするんだよ!これ刺し身で食えっからね!!ってことで米と交換しね?」

山の民
「え、なに?それ!わしら憧れの鮮魚じゃんー!!!?え、刺し身で食えるの!?マジ?いいの!?しかも日持ちするの??マジラッキーじゃん!」

てな具合で交渉成立。山奥では米はあっても魚が入手不可能だったもんで重宝された。その頃から山奥の鮫の刺し身文化が始まったらしい。

山奥のソウルフードが鮫の刺し身だなんて超不思議。誰かの日常って自分と違ってて飽きることがないものですね。ちなみに調理方法としては中国・四国地方の山間部では刺し身、湯引きが多くて、東北地方沿岸部は、焼き鮫、煮付け、煮物がメジャー。普通なら逆だ。これまた面白い。

栄養価がとっても高いのに、評価が妥当でない鮫ちゃん!

鮫のポテンシャルは、比較的手に入りやすいネズミザメ(モウカザメとも言われる)で触れたい。僕が最初に髙瀨さんに分けてもらった鮫もネズミザメだ。解凍したてのネズミザメは全く臭くなかった。食感はモチモチしてて力強さがあり、味わいは甘みがある。カジキマグロのようでもあるんだが、それよりも水分が多くて弾力を感じた。けっこう高温で焼いても大丈夫。最初に使いやすいように切り身にして冷凍しておこう。使うときはフライパンでも、レンジでも高温で一気に解凍する方が美味しくいただけるそうだ。

鮫を焼く。高温でも大丈夫。

ネズミザメの栄養価は素晴らしい。肉類や他の魚類よりも高タンパク質で低カロリーだ。鉄分も含まれるし、もう完全なるパワーフードなので、ダイエットや身体をつくりたいと思っている人には理想的な食事じゃないかと思われる。その他にも脳の発達に有用な「DHA」含有率も高くて「ビタミンB6 ビタミンB12」も豊富だそう。なんでしょう、もうこうなってくると非の打ち所なしだ。ミラクル食材だ。

でもね、でも妥当じゃないんだなー!鮫全般の評価がー!そもそもが捨てるような文化だったというのを引きずってて鮫の価格はとっても低い。

三次水産の代表も鮫の漁師が減っていて、すごく心配だとおっしゃっていた。全国的に漁師自体が稼げない職業になってきていて数も減っている。今回鮫を分けてくれた髙瀨さんは、そういった現状を変えたくて、鮫に正当な価値をつけて、漁師さんの収入を上げる取り組みをしているのだった。

僕も…. 何かしたい… 鮫ちゃんで何かしたいよー!

ということで鮫ちゃんのカレーを作ってみました。
そうです。いきなりレシピです。

南インド風ワニと梅干しのカレー

レシピの前に一応触れておこう。国際的な機運としては鮫漁はデリケートなものになってきている。高級中華ではド定番なフカヒレが、有名ホテルやレストランで少しずつメニューから姿を消している。
理由は絶滅の恐れのある鮫の乱獲と、鮫のフカヒレだけ切って海に捨てる残虐漁があるから。香港ペニンシュラホテルが最初に「うちは置きません!」となって世界に広まっている。

だから、漁獲は資源量が安定している鮫の品種を限定したり、漁獲量上限設定を設けたりすることがとても大事。日本ではネズミザメ、ヨシキリザメなんかを漁獲している。そうやって獲れた鮫の身は、かまぼこにしたり、おでんの練り物にしたり、鮫皮の製品にしたりと余すこと無く使うようにしているようだ。僕達も命あるものを、ちゃんと考えて、ちゃんと感謝していただくようにいたしましょう。

それでは、鮫が適正価格になって鮫需要が上がることを祈念してカレーレシピを紹介しよう。

もともと南インドではエイも鮫もカレーにする文化がある。でも、それをそのまんまレシピとして紹介するのは面白くない。なにか変えたくなっちゃう、そういう性格なんです、僕。なのでタマリンドという甘酸っぱい酸味を出す果実を使うところを、日本人に馴染みある練り梅に変更してトライである。鮫の軟骨を使う「梅水晶」って居酒屋定番メニューもあるし!美味いと思うわけ!

【材料4人前】
ネズミザメ 400g
玉ねぎ  1個
にんにく  すりおろし小さじ2
生姜   すりおろし小さじ2
青唐辛子 1本
ココナッツミルク200cc ※缶半分
トマト缶  半缶 ※ホールトマト
サラダ油 大さじ2
醤油   小さじ1
水    300cc

【ホールスパイス】
カルダモン 2つ
クローブ  3つ
レッドチリペッパー 1本
ブラウンマスタード 小さじ1

【パウダースパイス】
ターメリック    小さじ0.5
クミン       小さじ1
コリアンダー    小さじ2
レッドチリペッパー  小さじ1
ガラムマサラ    お好み
練り梅 大さじ1
ベイリーフ     1枚
塩 小さじ2

【作り方】
1, 鍋に油大さじ2杯を入れ、ホールスパイスを入れて香りを油に移す。マスタードが跳ね出したら、スライスした玉ねぎを入れて炒める。塩をひとつまみかけると、水分が出るので早く炒めることができる。少しくらい焦げても全然OK。玉ねぎがしんなりしたら、すりおろしたニンニク・生姜を入れ、青唐辛子を加えて更に炒める。

2, 鍋に缶詰のホールトマトを入れて、混ぜて水分を飛ばす。ターメリック・クミン・コリアンダー・レッドチリペッパー(辛いのが苦手な人はパプリカパウダー)のパウダースパイスを加えて弱火で炒める。

3 , 練り梅はカップ半分程度の水を使って伸ばしておく。練り梅が入った水とココナッツミルクを鍋に加え、好きな濃度にする。個人的には、しゃばしゃばするくらいがオススメである。

4, 鮫の身を鍋に加えて20分程度煮込んで完成!!!梅の酸味が鮫とよく合うカレー。少し辛いくらいがいいと思う。

気温が上がるとさらに美味しく感じられるんじゃないだろうか。そう言えば、この記事が出る3日後くらいに、1週間経った「ワニの刺し身」が食べられる予定だ。楽しみだけど、ちょっと怖い。

取材協力:
SAMEYA 髙瀬 拓海さま

三次水産株式会社 坂本 円さま

原田 昌一郎さま、 高見 祐介さま、池上 弘一さま、村越 豊さま、前田 民彦さま、河名 真寿斗さま、沖田 政幸さま、蔵人さま、杉浦 由佳さま

参考資料・協力:香川大学教育学部 畦 五月さま
近現代におけるサメの食習慣, 畦 五月, 日本調理科学会誌, 48(4),303-318,2015年
東北地方における近現代のサメの食習慣に関わる要因について 中国地方と対比して, 畦 五月, 『就実論叢』45,301-312,2016年

書いた人

カレー研究家、CHANCE THE CURRY代表です。ほぼ毎日カレーを食べています。最近は専ら日本的なカレーの模索にどっぷりで和食とスパイスの組み合わせを探求中です。執筆、レシピ開発やカレーイベントの主催、製品開発なども手がけてます。カレーから愛されたい。手がいつもカレー臭い。