日本刀には鐔(つば)がついています。といっても、実はついていないものもあったりするのですが(このへんは結構ややこしいので割愛)、時代劇や漫画などで見る日本刀は、だいたいついているイメージではないでしょうか。
あ、「鐔って何?」というかたはこちらの記事にて。
刀剣のおしゃれはこれで演出!刀装具ってな~んだ?【誰でもミュージアム】
ところで、2020年にこんな商品が発売されていました(現在は販売終了)。
こっこれで鬼殺隊の一員に!?「鬼滅の刃」炭治郎、善逸、義勇の「日輪刀」の鐔が発売!
販売終了、してしまっているんですけれどね……。でも、『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編が放送されている今、やっぱりちょっと触れたいじゃないですか。
ということで、今回のテーマは「炭治郎たちが持っている刀の鐔ってどんな形?」です!
鐔にはいろいろな形がある
日本刀の鐔には、本当にいろいろな形があります。そりゃあもう、覚えるのが大変で混乱してしまうくらい。加えて、同じ形のものの別名なんかもあったりするので、常日頃からHD容量いっぱいいっぱい&熱暴走しがちな旧型の頭にはたまったものじゃない。
と、ポンコツの愚痴はこのあたりにしておいて。
ともかく、刀の鐔には様々な形のものがあり、あのキャラクターの愛刀についているのはどのタイプ? なんて考えるのもけっこう楽しいものですよ!
ではさっそく探っていきましょう。
炭治郎・栗花落カナヲ・伊黒小芭内の鐔は「丸形」!
竈門炭治郎(かまどたんじろう)・栗花落カナヲ(つゆりかなを)・伊黒小芭内(いぐろおばない)の刀についているのは「丸形(まるがた)」。丸いので丸形。そのまんま。
とはいえ、丸形の中にも様々なバリエーションがあります。
やや縦長の「竪丸形(たてまるがた)」が最も多く見られます。
不死川玄弥の鐔は「なまこ透かし形」!
不死川玄弥(しなずがわげんや)の鐔は「なまこ透かし形」。
実物のパブリックドメイン画像がなかったため、モチーフの原形である「なまこ」のほうの画像で説明しますね。
これがなまこ。酢醬油で食べるとコリッとしていて大変に美味。生きているのを触るとふにふにしている。
で、この子がむにっ、と縦長に立ち上がって2匹向かい合ったような姿をしているのが、「なまこ透かし形」となります。姿としたら「イモムシ」でもあまり変わらないんじゃないかと思ったりするのですが、まあ、なまこ。
なまこは古くから食材・漢方薬・縁起物として日本人の身近にあり、「なまこ壁」の名称も残るなど、けっこう愛されてきたようです。
ちなみに、エリック・サティの作品に『なまこの胎児』という愉快な曲があるので、関係ないけれどぜひご一聴あれ。
我妻善逸・宇髄天元の鐔は「木瓜形」!
我妻善逸(あがつまぜんいつ)・宇髄天元(うずいてんげん)の鐔は「木瓜形(もっこうがた)」。木瓜とはうりを輪切りにしたような形のこと。家紋にもなっていて、織田信長や沖田総司らの家紋も木瓜紋です。
木瓜形は、ザ・鐔というイメージが最もある形かもしれません。
冨岡義勇の鐔は「角形」!
冨岡義勇(とみおかぎゆう)の鐔は「角形(かくがた)」。
角部分があるデザイン全般をこう呼び、冨岡義勇のものは六角ですが、四角や八角が比較的多く見られます。
角形にも様々なバリエーションがあります。
甘露寺密璃・時透無一郎・煉獄杏寿郎・胡蝶しのぶ・不死川実弥の鐔は「変わり形」!
特に決まった名称の付けられていない形を「変わり形」と呼びます。唯一無二のオリジナルの形もここに入ります。
甘露寺密璃(かんろじみつり)はハートに似た「猪目(いのめ)」形を4つ繋いだもの、煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)は炎の形、胡蝶しのぶ(こちょうしのぶ)は蝶をかたどったものでしょうか。不死川実弥(しなずがわさねみ)は風車? どれも、それぞれのキャラクターの特性が反映されていますね!
時透無一郎(ときとうむいちろう)は四角形を5つ繋いだもの。モチーフをいくつも繋ぐデザインは鐔にけっこう多く見られます。
嘴平伊之助の刀には鐔がない!
さて、冒頭では「ややこしいから触れない」と言った、鐔なしの刀。
が、作中にしっかりいましたね、例外が……。
嘴平伊之助(はしびらいのすけ)の刀には鐔がついていません。
鐔は手を保護したり、バランスを整えたりする役割を担っていますが、何がなんでもなければいけないということでもありません。
戦国武将の上杉謙信も、鐔のない「上杉拵(うえすぎごしらえ)」というスタイルを好みました。
また、短刀も鐔がないのが基本となっています。
今回ご紹介した以外にも、鐔にはいろいろな形があります。江戸時代以降には刀に付けることを前提とせず、独立した鑑賞品ともなった鐔、ぜひ楽しんでみては。
主要参考文献:
・福士繁雄『刀装・刀装具初学教室』「刀剣美術」452号、日本美術刀剣保存協会
・『図解日本刀事典』歴史群像編集部・学研
・『デジタル大辞泉』小学館
記事中画像:メトロポリタン美術館より