茶屋街や城下町風情と楽しむ武家美術の最高峰にほれぼれ
加賀百万石藩主・前田利家の入城に始まる金沢の文化。統治約300年の長きにわたり、さまざまな美術工芸に研鑽をつみ、茶の湯や庭園、料亭など趣味文化を花開かせました。日本美に出合う美術館への旅、金沢はアートゾーン・広坂地区を中心に巡ります。
町中が屋外美術館のような金沢。生活の息遣いにさえ美意識が
旅の初日の美術館巡りは「石川県立美術館」にとどめて「兼六園」へ。日本三名園のひとつ「兼六園」は、スケールの大きい前田家の庭。広大な敷地、相反する3つの要素を六勝として配した構成力、そして180年という年月をかけて造園した懐の深さに(もちろん本人は完成を見ていません!)、日本人の〝美〟への憧れや執着を感じます。
江戸時代の林泉回遊式大名庭園を残す「兼六園」。宏大・幽邃、人力・蒼古、水泉・眺望の六勝が備わる。
そして向かいには「金沢城公園」。ここでは2019年3月に開園した公園内の「玉泉院丸庭園」へもぜひ。見どころが凝縮された池泉回遊式庭園です。歴代の加賀藩主の居城跡を開放した「金沢城公園」。五十間長屋や橋爪門続櫓などが残る。
そろそろ夕暮れ迫る時間。もうひと歩きするためにタクシーを拾って「ひがし茶屋街」へ。出格子や弁柄塗りの板塀、瓦をのせたひさしに揺れる暖簾。この〝ザ・美しきニッポンの町並み〟は、やはり見逃せません。さて、今夜は捕れたての魚と伝統野菜で一献、といきましょうか。
写真左/建物だけでなく、江戸時代の生活が残っているかのような佇まいの茶屋街。
写真右/街中の台所、近江町市場。
翌朝は、前田利家を祀る尾山神社から。1日を神社参りで始めるのは、なんともすがすがしいものです。尾山神社からぶらぶら歩いて再び広坂エリアへ。「金沢市立中村記念美術館」で茶の湯の世界などを堪能したら、「金沢21世紀美術館」周辺に点在する骨董店や雑貨店などを覗いても。金沢美術旅行を締めくくるような、素敵なものが見つかるかもしれません。
国産の材で本漆を使用している「喜八工房」。写真は拭き漆で仕上げた糸筋椀(小)
加賀藩主・前田家の膨大な名宝にあちこちで出合える金沢
前田家は政治経済のみならず、芸術や芸能など文化の発展にも尽くしました。特に蒔絵や金工、九谷焼や加賀友禅などの工芸品は、加賀藩が手厚く保護育成を図ったため、素晴しい美術品と技術が残ったのです。
それらを観賞するためまず出かけたいのが、金沢の名士・中村栄俊が収集した美術品を所蔵する「金沢市立中村記念美術館」。
写真左/抹茶席から茶室「耕雲庵」への眺め。美術品鑑賞のあとは庭園もひと巡り。隣接する「鈴木大拙館」まで小道が続く。写真右/茶会や花展などに利用可能な旧中村邸。ほかに宗旦好みの小間をもつ「耕雲庵」や、裏千家の「寒雲亭」の様式を取り入れた「梅庵」と、ふたつの茶室も。
茶人でもあった氏のコレクションは、古九谷や加賀蒔絵など見応えのある茶道具が多数。敷地内には旧邸宅や茶室もあり、金沢の茶の湯の世界に浸ることができます。
所蔵品を中心に、年間4~6回企画展を開催。
そして辰巳用水の水音が響く本多の森に抱かれるようにして立つ「石川県立美術館」へも。前田家の美術品をはじめ、美術工芸に秀でた土地ならではのお宝が勢揃い。名品・野々村仁清の『色絵雉香炉』(国宝)は、いつでも観賞できる国宝です。
写真左/野々村仁清作、国宝『色絵雉香炉』(写真)と重要文化財『色絵雌雉香炉』は、専用の展示室にて観賞。写真右/久隅守景の『四季耕作図』。農事の様子から漁師、横になってくつろぐ人、年貢を取り立てる役人まで、当時の農村の風俗を描写。
写真左/展示室が6つと加賀藩前田家に伝わった文化財を展示する前田育徳会尊經閣分館が。写真右/美術館の裏手には本多の森が広がる。
武家文化が育てた金沢に伝わる〝美〟を堪能する旅へ、ぜひ。