でもなぜ、蛇なのか?
専門家によると、これらの土器に表現されている蛇の種類は、おそらくマムシなのだそうです。それに対して山科さんは、「マムシには、他の蛇にはない特徴がある」と言います。まず、典型的な毒ヘビであるマムシは絶命必至の危険な生き物であったこと。それから、マムシの出産法がとても特殊であるということです。
「蛇体把手土器」蛇表現の把手部分拡大
蛇は爬虫類ですから、通常卵を産みそこから孵化していくものですが、マムシの場合、卵が母親のお腹の中で孵るのです。つまり、外目には哺乳類と同じように子供が生まれるということです。蛇の体内から大量の蛇がニョロニョロと出てくる様子には、きっと縄文人も言葉を失ったに違いありません。もしかしたら縄文人は、マムシの絶命必至の威力や、人間に似ていて、しかも多産であるという特徴にあやかろうと、願いを込めて文様を施したのかもしれません。
「石棒」も蛇の簡略化・・・?
蛇体把手土器や抽象文土器を見て、「え、なんかエロス・・」と感じた方、その感覚は決して間違いではありません。縄文人のマツリの道具として有名な石棒(男性器の象徴と言われる)や石皿(女性器の象徴と言われる)もまた、これら蛇をモチーフにした土器のすぐ後に出現し、大量に作られるようになるのです。
石棒(左)と石皿(右)(全て尖石縄文考古館蔵)館内には大きいものから小さな持ち運び用(?)のものまで、様々なスタイルの石棒と石皿が展示されています。
蛇は脱皮することから、再生のシンボルとして世界中様々な文化で特別な存在とされていますが、同時に、その外見から男性器のシンボルともされてきました。石棒はもしかしたら、蛇を簡略化した表現だったのかもしれません。縄文人が蛇に象徴させた願いの深さ、彼らの想像力の豊かさにあっぱれです。
「蛇体把手土器」や「抽象文土器」は、八ヶ岳を中心にして、やがて中部〜関東にまで広がる一大文化圏を築きます。この文化圏の縄文人は、みんな「再生」や「子宝」、「繁栄」また「霊力」の象徴として、八ヶ岳の蛇を信仰したのかもしれません。