「千尋の元気が出るようにまじないをかけて作ったんだ。お食べ」
これは、映画『千と千尋の神隠し』の名シーンのひとつ。
こう言って、登場人物のハクは落ち込んでいる千に竹の皮で包まれたおにぎりを渡します。おにぎりを食べた千は、それまで張りつめていたものが切れてしまったかのように、涙をぽろぽろとこぼしてしまいます。
このおにぎりは「ハクのおにぎり」とも呼ばれ、SNSや飲食店などでも話題になりました。映画を観た方のなかには「感動した」「印象に残っている」という方も多いのではないでしょうか。
ハクのおにぎりが人を惹きつける理由のひとつは「やさしい想いがこもっている」こと。それは言うまでもありませんが、「竹の皮」という昔ながらの自然素材で包まれていることもぜひ注目したいポイントです。
お弁当を、もっと楽しもう
米を主食とする日本では、竹の皮だけでなくわっぱや経木などもおにぎりやごはんを包むのによく利用されてきました。食欲をそそる見た目だけでなく、機能面でもとても優れています。
4月に入って家庭や仕事などで新しい環境がスタートし、「お弁当を作り始めた」という方もいらっしゃるかもしれません。また、新型コロナウィウルスの影響もあり、留守番をしている子どもや家族のために「置き弁」を作っているという方も多いかもしれません。
私自身はお弁当を作り続けてもうすぐ15年になりますが、お弁当は中身だけでなく、包むものや箱の種類によっても、その味わいは大きく変わるなぁと日々実感しています。
そこで今回は、竹の皮やわっぱ、経木などで包むと美味しい理由やその活用法などをお伝えしたいと思います。
皆さまのお弁当ライフが、作る人にとっても食べる人にとっても、より楽しく美味しいものになりますように!そんな想いで、今回の記事を進めていきますね。
竹の皮が使われてきた理由とは?
竹の皮で包まれたおにぎりを食べるシーンは、千と千尋の神隠しだけでなく昔話や時代劇などでもよく見かけます。サランラップやアルミホイルなどで包まれたものに比べて、中身は同じものでも「とても美味しそう!」と感じますよね。
実際に、竹の皮には「防腐性」があるため、食材の美味しさが長持ちしやすいという特徴があります。また「吸湿性」もあるため、時間が経過してもおにぎりの米粒が硬くならずにモチモチとした状態を保つことができます。
それだけではありません。竹の皮はとても軽量なので持ち運びにも便利ですし、食べ終わった後は折りたためばコンパクトに収納できます。つまり、使い勝手が抜群なんです!
竹の皮でおにぎりを包んでみよう!
ではさっそく、竹の皮でおにぎりを包んでみましょう。
まず竹の皮の入手方法について。大手スーパーやホームセンターなどの「キッチン用品コーナー」や「お弁当用品コーナー」、通販サイトなどで購入できます。通常は、乾燥して折りたたまれた状態で売られていることが多いです。
もちろん竹の皮を干して自分で手作りすることもできます。マダケ・モウソウチク・ハチクなど竹の種類によって大きさや色味なども異なるので、よく確認してから使うようにしたいですね。
竹の皮が用意できたら、まず下準備から始めましょう。
下準備1
そのままだと破けやすいので、水に浸して柔らかくします。すぐに水を吸って扱いやすくなりますが、30分~1時間ほど浸しておくのが理想です。全体が水に浸かるように、重石になるようなものを上に乗せておくといいですね。
水に浸した後は、表面に付いた水分をしっかりと拭き取っておきます。
下準備2
竹の皮で包んだ後に結ぶための「竹の紐」として、竹の皮を端から1㎝ほどを割いておきます。輪ゴムや麻の紐などで代用することもできますが、竹の紐を使う方が雰囲気がぐっと良くなります。
はさみなどは使わずに、手で割くことができます。割いた後は、自然と丸まって紐らしくなります。
この2つの下準備を終えたら、あとは包むだけ。おにぎりを中央付近に置いて、隙間ができないように竹の皮を折り込み、最後に竹の紐で結びます。
これで完成!意外と簡単ですよね。
おにぎりだけでなく、サンドイッチやおやつなどを包むのもおすすめです。竹の皮というと和のイメ―ジですが、洋風やエスニックの料理などもよく合います。
新型コロナウィルスの影響などで、外出を控えている方や自宅でごはんを食べる機会も増えていると思います。気持ちが沈んでしまう時もあるかもしれませんが、竹の皮でおにぎりを包むだけでも、食事の気分が盛り上がります。
「こんな時だからこそ、おうちごはんを楽しみたい!」という方は、ぜひ竹の皮を使ってみてはいかがでしょうか。
わっぱ弁当はやっぱり美味!
スギやヒノキなどの自然素材でできた曲げわっぱのお弁当箱は、和の雰囲気が人気を集めていますが、機能面でもとても優れています。曲げわっぱと一口に言っても、いくつかの種類があります。
・白木(無塗装)…木の香りがほのかに漂い、美しい木目が楽しめる。油を含む料理はNGだが、ごはんを入れるのには最適。おひつとしても使用できる。調湿作用があるので、時間が経ってもごはんのモチモチ感が保てる。長く使うためには「洗剤を使わずにぬるま湯で洗う」「しっかり乾燥させる」ことが大切。
・漆(うるし)塗り…耐久性に優れており、油物なども詰めることができる。白木ほどではないが調湿作用もあり、ごはんの美味しさがキープできる。また、漆には抗菌作用もある。食材の洗剤を使って洗うこともでき、手入れがしやすいのが特徴。
・ウレタン塗装…木の表面に樹脂を塗ったもので、使いやすさが特徴。美しい木目を楽しむこともでき、初心者の方にもおすすめ。
わっぱの弁当箱があれば、お弁当の定番「焼き鮭」などシンプルなおかずとごはんを詰めるだけでOK。食欲をそそるお弁当が完成します。
おかずにこだわるのもですが、お弁当箱にこだわるのもアリ!「時間がなくて手抜きになっちゃいそう」という時にも、「今日はがんばって作ろう!」という時にも、わっぱの弁当箱は役に立つこと間違いなしです。
シンプルに、経木で包む
経木とは、スギやヒノキなどの材木を薄く削ったもののこと。古くはお経を書くものとして使われたことから「経木」と呼ぶようになったそうです。
竹の皮やわっぱのお弁当箱と同じく、調湿作用や殺菌作用があり、昔は肉や魚などを包むのによく使われていました。プラスチックなどの普及により、経木を見かけることは減りつつありますが、その機能性やエコの視点などから最近再び注目を集めています。
そして何と言っても、経木で包まれたおにぎりは、とても美味しい!
乾燥していて破けやすい場合は、濡らした布巾などでさっと拭いてから使用します。食べ終わった後は、可燃ごみとして出せますし、庭に埋めて土にもどすこともできます。
また、木目が美しく、木のよい香りがするのも魅力です。小さく切ってお弁当の仕切りに使ったり、蒸し料理の下に敷いたりするなど、アイデア次第でいろいろと活用できそうです。
ノスタルジーだけではない「温もり」を
竹の皮やわっぱ、経木などで包まれたお弁当の大きな魅力は、ノスタルジックな雰囲気だけでなく、そこに何とも言えない「温もり」が感じられること。
「自然の素材で料理を包む」という行為はそれだけで美しいものですが、ぜひ真心を込めて包んでみたいですね。
ハクのおにぎりで魅力に感じたエッセンスを、ぜひ皆さまの食卓で再現してみませんか。