はじめての人にとって、茶の湯の作法はわからないことだらけ。茶の湯初心者の私(とま子)ときむらにとって、茶の湯になかなか手が出せない原因は、難しそうな作法にあるのではないかと思います。
そんな中、「一連の作法にはちゃんと意味があるんですよ」と茶人の近藤俊太郎さんから意外な言葉を聞いた私たち。今回、近藤さんが普段お稽古をされている茶室に突撃取材してきました!
茶の湯の一連の作法を、茶室の入り方編、お菓子のいただき方編、お茶のいただき方編、茶碗の拝見編の4本立てでお届け。ノーレクチャーのままやってしまった、とま子ときむらの失敗例もどうぞ!(苦笑)
近藤俊太郎さん。若い世代が茶道に親しむための「茶団法人アバンギャルド茶会」主宰。百貨店やギャラリーでの企画展プロデュースでも、熱い注目を集めている。
※こちらの記事は、茶の湯初心者のきむらととま子が、茶人・近藤俊太郎さんに教えていただいた茶の湯のイロハをお届けする連載です。
茶室の入り方・座り方編
茶会本番、まず最初に悩ませるのが「茶室のどこに座ればいいの」問題! まずは、入り方からレクチャーしていただきましょう!
近藤 茶室には、お客さんが入ってくる専用の入り口と亭主が入る専用の入り口があります。亭主の方は、茶器を洗ったり、お茶会の準備や片付けをする水屋につながっている、つまりお客さんと亭主が裏口で会わないよう設定されています。お客さん側の扉が少し開いたら入っていいよという合図です。閉まっていたら、まだ準備中ということ。だいたい手がかけられるくらいの幅に開きます。
近藤 ここで大事なのが最後に入った人はピシッと音を立てて襖を閉めること。その理由は、全員入りましたよ、というのを音で亭主に知らせるためです。襖の向こうで亭主は座って耳をそばだてているので、この合図によって亭主は茶会を始めるタイミングがわかります。このようにお茶は五感でやるものなのです。
なるほど! お客さん側もそのように亭主へ知らせる気配りが必要なのですね。
近藤 では、とま子さん。こちらの茶室に4人入るとしたら、どの位置にどの向きで座りますか?
突然、近藤さんに問題を出された私…。えっと釜に向かって…1、2、3、4人目は…そこです! と何もわからず直感で答えてみました。
近藤 4人目がここに座るのは間違いではありません。でもこの茶室で4人座るなら、1番良い席があります。
近藤 それはお釜が1番近いこちらの席です。ここに、その会の中心となる主賓、正客が座ります。実は、ほかの人が座る席はこの正客の差配によります。大人数の会は茶室を広く使い、少人数の会はコンパクトに座るといったことも含めて正客が誘導してくれるので、茶室に1番最初に入るのも正客。正客は茶会を上手に進行できる方がやるので、はじめての方がなることはないので安心してください。
それを聞いて安心しました! では、はじめての方は後ろの方に座ればいいのでしょうか?
近藤 もう1つ避けたいのが最後の席、はじめての方は避けたほうがいいと思います。茶会の進行に大事なのは正客ともう1人、席を詰める“お詰めさん”。お菓子をとったお皿、回ってきた濃茶、それらのあと始末をするのが、このお詰めさんです。そのため、はじめての方は最初と最後を避けて真ん中あたりに座るのが良いと思います。
どこに座ればいいのか、初歩的なことからわからなかったけれど、お釜から少し離れた真ん中あたりに座ればいいのですね! 本番前に大事なことを知っておいてよかったです!
お菓子の取り方・いただき方・懐紙のしまい方編
近藤 では、お茶の前に出されるお菓子。ノーレクチャーでまずは召し上がってみてください。
茶の湯初心者の私たちに無理難題を突きつけてきた近藤さん。菓子器に盛られたお菓子を目の前に、とま子ときむらはどうすればいいのかあわあわ…。
はい、のせてみました!
近藤 とま子さん、さっそく菓子器を持ち上げてしまいましたね。きむらさん、お箸の使い方要注意です。菓子器とお箸はみんなで使う“共有物”。そう考えると、お菓子の取り方の作法がグッとわかりやすくなると思いますよ。
それではお菓子の取り方からレクチャーです!
お菓子もお箸も共有物。お菓子の取り方の作法
近藤 流派によって考えが異なるのですが、裏千家では、縁の外側が共有エリア、内側は自分のエリア。お菓子は共有物なので共有エリアを回っていきます。次の人が使うということも、頭の中に入れておきましょう。
経由地に置かれたお菓子を自分の前で受け取ります。「いただきます」と心の中で感謝します。用意ができたらここで懐紙を取り出します。
近藤 お箸を持つとき、片手で取って持ち直すと雑になってしまいます。普段の生活でも、このように持つと美しい所作になります。
お箸は、右手で取って左で受けて持ち直します。(お箸の扱い方は流派によって異なる)。お菓子を取るときは菓子器に手を添えて、懐紙にのせます。
近藤 お箸は共有物。黒文字の皮がないところは、ほかの人の口に触れる可能性がある場所なので触れずに、皮のある部分だけを手に取ります。次に使う人のためにお箸を戻す前に懐紙で清めます。みんなで使うものなので「お先に使わせていただきました。どうぞお次に」という心使いです。
お菓子をとったら、懐紙の角を折りその間にお箸をはさんでキュキュッと綺麗にします。お箸をもどすときも、左で受け右手で持ち直して置き、次の人の経由地にお菓子を置きます。この時、菓子器が空になったときは180度逆方向にして置くと「どうぞ下げていただけますか」という合図になります。
お菓子を安全に食べるためのいただき方の作法
近藤 では、食べてみましょうか。とま子さんからどうぞ。
生菓子はちまちまと食べると崩てしまうので豪快に切る! と以前学んだので、スッと懐紙から楊枝を出して豪快に切って食べてみました。
お菓子の食べ方を学んだのはこんな記事▼
生菓子はケーキのように食べたい!「とらや 赤坂店」ではじめての和菓子選び
近藤 とま子さん、お菓子から、口までの距離って結構ありますよね。もし口に運ぶまでの間に落ちてしまったらどうしますか?
ハッとしました。もし、本番で落としてしまっていたら…呆然とするだけでしょう。
近藤 お菓子をいただくときは、手に懐紙をのせて手をお盆にのようにします。それを安定させるために懐紙は1枚でなく束で使います。懐紙を1枚で使うとこのようにたわんでしまうのです。
確かにこんなにたわんでいたら、お菓子が転がり落ちてしまいそうです。
近藤 手盆を安定させたら、懐紙の中からケースは抜かずに楊枝だけを出し、懐紙の上でお菓子を切っていただきます。ちなみによくあるお茶会失敗例が、切った瞬間にお菓子を落としてしまう事故です。懐紙1枚で手にしっかりのせずに切ってしまう…すると、ポロっと…。
……これはショックです。
近藤 手盆でお菓子と口までの距離を近づける。これが、お菓子を安全に食べるための作法です。
ポロポロとこぼさずスムーズに。懐紙のしまい方
近藤 では、食べ終わった懐紙と楊枝をしまってみましょう。
しまうだけなら、適当に懐紙をクシュっと折って、袱紗挟みの中に隠します…!(お茶会に必要なものはこちら)
近藤 とま子さん、それはブッブー×です。それでは、レクチャーしますね。
まず、紙を下から手前に持ってきて汚れている面をサンドイッチするように折ります。懐紙の束は下に置いて、楊枝を挟んだままさらに縦に紙を半分に折ってみてください。すると、挟んだ状態で楊枝をキュキュッと拭って汚れを落とすことができます。そして楊枝を元のケースに戻して、紙も楊枝と一緒に懐紙の間に挟みます。
なんと! こんなにスムーズに懐紙をしまえるとは…。
近藤 上から紙を折ってしまうとパラパラとお菓子のかすが落ちてしまいます。なので、下から折ることが重要です。最後に懐紙を袱紗の中にしまいますが、この時もお菓子のかすが袱紗挟みの中でこぼれないように、懐紙の閉じている方を下に向けてしまいます。
やっとお菓子を食べられました。これだけで一苦労…。次こそ、お茶をいただきます!
お茶のいただき方編
近藤 では、お茶のいただき方をレクチャーしますね。その前に、お茶を今から点てるのでとま子さんからいただいてみてください。
またまた、ノーレクチャーではじまります。
近藤さんがサササッと点てて、ふわふわな泡立ちのお茶が目の前に。あれ、茶碗をまわすのってどの方向? 何回まわすんだっけ? いざ茶碗を持ってみると答えがわからずクルクル…。もう近藤さん、正解がほしいです!
近藤 お茶碗をまわす回数や方向は流派によって異なるので、正解はありません。回数や回す方向が大事ではなく、なぜ正面をはずすのかに本質があります。
正解がない! じゃあどうすればいいのよ…と心の中で思う私たち。
近藤 では先に私がお手本を見せますね。まず、お茶をいただく前に縁の内側に取り込こみます。菓子器も、同じように共有エリアを回ってきましたよね、茶碗も同じで共有物。ですが、こちらのお茶碗、飲むときには一瞬自分のものになるので、縁の内側に置きます(流派によって考え方は異なる)。
次の人がいたら、茶碗を左に置き手をついて「お先に」、前に飲んだ人がいたら、右に茶碗を置いて手をついて「お相伴させていただきます」。相伴は相手に伴奏する、ご一緒させていただきますという意味です。
今度は正面を向いて、点てていただいた亭主に感謝を込めて「お点前頂戴します」。
お茶碗を右手でとって左手にのせてお茶に対して「いただきます」。右手を縦にして茶碗を持って、時計回りに2回茶碗をまわします(流派によって異なる)。右手を茶碗の横に戻して、お茶をいただきます。この時、少量でちびちびと飲むより、1口ずつしっかりと飲んで味わった方が所作が美しいです。飲みおわったら茶碗の正面を戻し、共有エリアに戻します。
正面をはずして飲む意味
お茶をいただく作法を学んだら、その正面をはずす本質を知りたい! 近藤さん教えてください!
近藤 茶碗も、どんな道具にも必ず正面があります。こちらの茶碗をみてみると、1番絵柄がしっかり入っていて、内側の柄も見えるところ…ここが正面になります。
近藤 亭主は、お客さんに対して正面が見えるように出します。つまり、茶碗の正面は1番亭主が大事だと思って出してくれたところ。お茶をいただく時には、いきなり正面に口をつけるのは出してくれた亭主にちょっと失礼だから、亭主に対して敬意を払うために正面をはずします。なので、いろんな流派がありますが、大事なのは回数や方向ではなく、この正面をはずすことに意味があります。
近藤 日本人はなんとなく、茶碗を回すことを知っていますが、海外の方に今のように意味を説明すると、『でも、1番良いところを見ながら飲みたいのになぜ?』と聞くのです。そういう時には、私はこう説明します。『飲む時は飲む、飲み終わったら見るという、茶碗を拝見する時間があります。お茶を飲むときには飲むことに集中し、見るときには見ることに集中する。この2つの所作が分かれているからこそ、あえてここで正面をはずして飲んでも私は良いかなと思います』すると、『I see.』って納得してくれるのです。
なるほど! 海外の人が納得した言葉だけれど、私たちもそれを聞いて腑に落ちました!
茶碗の拝見編
最後に、見ることに集中する時間、茶碗の拝見について教えていただきました。
近藤 茶碗の拝見をするときは、茶碗は縁の外側に出し、手をついてまずは形、“なり”というのですが全体を俯瞰して見ます。その後に現物に手を取って、茶碗を見るのですがこのときに、なるべく低い位置で見ます。
近藤 このように高い位置で見るのは危険! 仮に粗相があって落としてしまったり、大人数の茶会でもし隣の人の肩が当たって落としてしまったら大変なことになります。茶碗も自分のものではないので、器物に対して敬意を評してなるべく安全に拝見することが大切です。
近藤さんには今回、茶の湯の作法だけでなく、なぜそれをする必要があるのか、その理屈を説明していただきました。
近藤 はじめての方や海外の方にこのように説明する理由は、あえてそれを知ることで腑に落ちると思うからです。茶碗を回すことも、回数や方向ではなく亭主に敬意を払うためと、その本質を知ると、茶の湯を難しく感じることがなくなるのではないかと思います。
茶の湯の難しそうな作法につい身構えてしまっていました私たちですが、今回その意味を知ることで茶の湯のお堅いイメージも少しやわらくなった気がします。まずは、日常にも使えるお箸の取り方から練習しようと思います!
撮影/篠原宏明
教えて近藤さんシリーズ
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