面白い趣向を凝らした企画展やコレクション展、あるいは海外からの来日展覧会など、美術館や博物館には知的好奇心を満たすさまざまなお楽しみが待っています。美術ブームのいま、アートめぐりを目的とした旅も人気!夢と感動あふれるクルマのある人生を提案するヤナセが扱う一台で美術館を訪れる連載企画の3回目は、4年前に開館した岡田美術館です。広重が描いた東海道五十三次を鑑賞しに、メルセデス・ベンツのコンフォートセダンで箱根の峠を爽快にドライブ!
文・野地秩嘉
旅人の気持ちで見たい秘密基地の東海道五十三次
コンテクストが大事
「コンテクスト(文脈)が大事だな」美術館へ行こうと思い立ってから、わたしが考えるのはコンテクストだ。たとえば、南青山にある根津美術館へ行くとする。目的は尾形光琳(おがたこうりん)の「燕子花図(かきつばたず)」(国宝)を見ること。その絵が展観されるのは例年、4月の終わりから5月だ。ちょうど燕子花、花菖蒲(はなしょうぶ)、あやめが咲く時期でもある。コンテクストが大事だから、わたしは根津美術館を訪ねる前に明治神宮へ赴(おもむ)く。園内の御苑(菖蒲園)に入場して、花菖蒲を堪能してから、その足で根津美術館へ急ぐ。そうすると、本物の花菖蒲と絵の燕子花の両方を味わうことができて、すごく得をした気分になる。見る側にとってのコンテクストとは美術館の使いこなしだ。洋服に着こなしがあるように、美術鑑賞だって、楽しみ方はさまざま考えることができる。では、箱根の岡田美術館へ行く場合はどうするか。この美術館にもまた周囲の環境とぴったり合ったコンテクストの作品がある。
歌川広重の東海道五十三次
岡田美術館は2013年のオープンだ。収蔵品は日本画、陶磁器(東アジア)、工芸品、彫刻。日本画の作家としては雪村、狩野探幽、俵屋宗達、尾形光琳、喜多川歌麿、葛飾北斎、横山大観…加えて伊藤若冲。日本美術史のビッグネームが並んでいる。なかでも、この美術館で見るといいのが歌川広重(1797〜1858年)の浮世絵版画「東海道五十三次」だろう。同館が収蔵するのは保永堂(ほうえいどう)という版元が出したもので、55枚の完全セットである。55枚とは宿場(しゅくば)が53、加えて出発地の日本橋、到着地の三条大橋が取り上げられているからである。東海道五十三次のなかには、箱根を描いた一作がある。東海道最大の難所と呼ばれた箱根の険(けわ)しさを切り立った崖として描いたものだ。箱根の曲がりくねった坂道を運転していくと、版画にあるように、富士山の姿が視界に入ることがある。コンテクストを大切にするならば、自らが旅人になることだ。日本橋を出発して品川、川崎、神奈川と東海道を箱根までドライブしていく。本来はそれが望ましいのだが、まあ、箱根の急坂を味わうだけでもいい。旅をテーマとした版画は、旅人の気持ちになって見つめるだけで気持ちが高揚する。
箱根の景観にも溶け込むモダン建築の岡田美術館。濃淡のあるベージュの外壁にはめ込まれたガラス越しに見えるのは、12×30mの巨大な風神雷神図(福井江太郎作「風・刻」)。
美術館の中で…
岡田美術館の展示室は5つのフロアに分かれる。展示面積は5000平方メートル。広いなという印象の根津美術館の展示面積が1288平方メートルだから、ここは相当広い。エントランスには「携帯電話、カメラ等は持ち込み禁止。筆記具は鉛筆かシャープペンシルだけにしてください」と書いてある。入館前には空港の保安検査場のようなX線装置もある。貴重な収蔵品を守る気持ちのあらわれで、いずれ、どこの美術館でもこうした設備が当たり前になっていくだろう。
各階のホールからは自動扉を経て展示室へ。照明はもちろん、天井や床まで、作品に行きつくまでのアプローチがドラマチックに仕立てられている。特別展「美術館で巡る 東海道五十三次の旅−広重の版画を中心に−」は、4月2日(日)まで。
エントランスを抜け、いよいよ展示室なのだが、入り口部分がユニークだ。通常、美術館の展示室には扉などない。ところが、同館は自動扉だ。一歩、足を進めると扉が左右にスーッと開く。秘密基地に入っていく気分だ。館内の照度は落としてある。床面は紺色になっており、天井、壁面も暗色だ。闇のなかに照明を当てられた作品がぼわっと浮かぶ趣向で、従来の美術館にはない視覚体験だ。確かに周りが暗いため芸術作品に没入できる。一対一で対話することが可能になる。ただ、自分と作品の世界に入り込んでしまうから、ひとつひとつを見る時間が長くなってしまう。岡田美術館へ行く時には十分な時間を取った方がいいだろう。館内の空気は清浄でどこにもチリひとつ落ちていない。完璧な館内環境で作品を見せるという美術館側の心意気を感じる。
岡田美術館のミュージアムショップには、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)の「孔雀鳳凰図(くじゃくほうおうず)」をデザインしたチョコレートや、若冲や酒井抱一の絵柄の手ぬぐいなどが。
〝広重〟を旅する
特別展「美術館で巡る 東海道五十三次の旅」が展観されているのは4階だ。55枚の版画がすべて展示されているにとどまらず、東海道の各宿場に関連する収蔵作品も加えてある。たとえば北斎の版画「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」、前田青邨(まえだせいそん)の日本画「真鶴之浜」、広重の肉筆画「箱根温泉場ノ図・箱根湖上ノ不二」…。どれも、その絵だけを見に行きたいと思わせる名画ばかり。なんとも贅沢な展示なのである。往時に東海道は日本列島の大動脈だった。そのなかでも多かったのは、実は伊勢参りに出かける人々である。宝永年間(1704〜1711年)にあった「宝永のおかげ参り」には、約50日間に360万の人々が伊勢神宮に参拝している。当時の人口は約2600万人。広重が活躍していた時代よりも少し前でさえ、数多くの人々が東海道を利用していたのである。
関東一のパワースポットといわれる箱根神社。平安時代初期に箱根路が開通すると旅人は道中安全を祈願し、東海道が整備され箱根宿や関所が設けられるとますます参拝者でにぎわった。
大勢の人が歩いて、風景を実体験したこともあって、「東海道五十三次」は大ヒットシリーズになった。広重の版画は美の表現ではあるが、同時に、見た人々に旅情を感じさせる情報ツールでもあった。旅へ行った人はこの版画を見て、「もう一度、行きたい」と思う。行ったことのない人は「生きているうちに一度は富士をこの目で見たい」と呟く。かつては、そういう意味を持っていた。55枚は旅の風景だ。広重は人物をアップにしたり、祭りの風景を描いたり、旅の物語を封じ込めたりと、見る人が飽きないように構成に工夫を凝らしている。
広重が描いた箱根の峠。
そのなかで、わたしが「いいなあ」と思ったのは抒情的な表現の4枚だ。「大礒(おおいそ)」は雨の旅だ。暗くなってきたなかを馬と旅人が先を急ぐ。画面を走る直線は雨の表現だ。それも強い雨なのだろう。こういうところにわたしは広重の技量を感じる。「箱根」は峻険(しゅんけん)な山を緑、青、茶、黄色のパッチワークで表わしている。山塊を青色に塗るのは前衛的だ。ジャポニスムにあこがれたフランス人画家にとっては鮮烈な1枚だったと思える。一転して、「蒲原(かんばら)」の図は白と黒からなる。白、黒、灰色。3色で夜の静けさを表してしまう。55枚のなかでいちばんの傑作と評されることに納得する。「庄野(しょうの)」の図もまた大礒と同じ雨の描写だ。ただし、庄野は大礒のような強い雨ではない。細い斜線が表わすように降り始めの弱い雨なのだろう。突然の雨に駕籠(かご)かきがあわてて走り出す様子が描かれている。丁寧に見ていると疲れてしまうから、時々は休憩を入れた方がいいだろう。個々の画面は大きくはないけれど、東海道五十三次は構想力のあるクリエイターだけが描くことのできる大作だ。
メルセデス・ベンツ
E 200 AVANTGARDE
箱根をドライブしたのはこのクルマ!
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アップダウンと蛇行をくり返す箱根の峠を走ったのは、最先端テクノロジーを搭載したメルセデス・ベンツEクラス。高性能のステレオカメラやセンサーがキャッチする交通状況から、最適な車間距離をキープしたり車線変更をアシストしたり。安全で快適なドライブのための機能が満載です。内外装のデザインも洗練の極み!
●メルセデス・ベンツ E 200 アバンギャルド 右ハンドル
9速A/T 総排気量1991㏄ 全長4930㎜ 全幅1850㎜ 全高1455㎜ 車両本体価格6,750,000円(税込)
問い合わせ先/ヤナセ www.yanase.co.jp/
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–撮影/永田忠彦 構成/小竹智子-