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2019.06.27

浅草の夏の風物詩「四万六千日・ほおずき市」でご利益を【文月候】

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江戸ごよみ、東京ぶらり 文月候

“江戸”という切り口で東京という街をめぐる『江戸ごよみ、東京ぶらり』。江戸時代から脈々と続いてきた老舗や社寺仏閣、行事や文化など、いまの暦にあわせた江戸―東京案内。
梅雨明けするやいなや夏本番となる七月、ほおずき市で知られる浅草寺「四万六千日」を老舗浅草めぐりとともにご案内いたします。

ほおずき屋台をひやかし、風鈴の涼しい音色を楽しむ。吊りしのぶなどの屋台も出店。写真提供/浅草寺

江戸の夏に思いを馳せるご利益参り

毎年、7月9日、10日には浅草寺で「ほおずき市」が開催されます。100軒もの屋台が並ぶ、夏の風物詩として有名な「ほおずき市」は、「四万六千日(しまんろくせんにち)」という観音様の縁日とともに催されてきました。

この日に観音様に参拝すると、四万六千日分の功徳があるとされています。江戸時代は浅草寺をはじめとして、芝の魚籃観音や駒込光源寺の大観音など観音様を祀る寺社はひとびとで賑わったとか。なぜ四万六千日分の功徳なのかは諸説あるものの、米一升(いっしょう)分が4万6千粒だから(一生分のご利益があるということ)とも言われています。本来は10日だけだった縁日ですが、できるだけ早くお参りしようと江戸市民が前日からこぞって詰めかけたため9日、10日と両日が縁日になったとか。せっかち江戸っ子、ここに極めりですね。

浅草寺「四万六千日・ほおずき市」で江戸っ子を真似て夏のご準備を。写真提供/浅草寺

また四万六千日とともに開催される「ほおずき市」は、江戸は明和のころに芝の愛宕神社がはじめたと言われています。ほおずきの実を丸のみすれば大人は癪(しゃく)を切り、子どもは虫気が去ると言われ、体によいということから、愛宕神社で四万六千日の縁日にほおずきを売ったところ大層繁盛したとか。そこで浅草寺でも「四万六千日」の縁日に取り入れるようになりました。ちなみに観賞用ほおずきは、昔から解熱や咳止め、利尿作用をもたらす「酸漿(さんしょう)」という生薬として知られていて、発熱やむくみなどの症状に用いられていました。

江戸っ子の雷除けは赤とうもろこし?!

江戸の年中行事を記した天保9(1838)年刊『東都歳事記』には、「浅草寺 両日の間、昼夜参詣の老若引きもきらず。境内本堂の傍らにて赤き蜀黍〈とうきび〉を商う。諸人求めて雷難除けの守りとす…」とあり、境内の屋台では赤い玉蜀黍が雷除けのお守りとして売られていたことがわかります。赤とうもろこしを吊るしていた農家だけが、落雷の被害にあわなかったことからお守りとなったとか。信じるものは救われる的なお守りですが、雷が落ちれば家財一切を焼き尽くす火事へとつながった江戸時代。雷除守りを求めるひとは、多かったのです。

浅草寺の雷除け守りは四万六千日の縁日限定。写真提供/浅草寺

明治になってから不作のため赤とうもろこしが揃わない年があり、それから浅草寺では雷除のお札を授与するようになります。このお札は「四万六千日」の縁日限りですので、参詣するならばぜひいただいておきたいですね。

本堂のお参りは20時ごろまで、ほおずき市は21時ごろまで開催しているそうなので、仕事帰りにぶらりと立ち寄るのもよさそうです。

浅草らしい職人の店、「よのや櫛舗」

お詣りをすませたあとは、江戸情緒あふれたお店へ。浅草寺脇の伝法院通りには、江戸職人の技を受け継ぐ黄楊櫛の「よのや櫛舗」があります。手をかけて育てた薩摩つげを材とした、櫛や簪、また髪留めなどを商っています。江戸は享保2(1717)年創業の櫛細工処を継承し、大正初期に初代が浅草の地に店を構えました。現在は4代目店主であり櫛職人の斎藤悠さんと有都さん夫妻が店を切り盛りしています。

櫛の看板が目印、手馴染みのいい道具が揃う「よのや櫛舗」。

「黄楊の櫛で髪を梳かすと艶が宿りしっとりと潤ってきます。また静電気が起きないので、髪がまとまりやすいですよ」と女将の有都さん。よのやの黄楊櫛は使い勝手がいいだけではなく、丈夫なところも魅力。実際に親子二代、祖母から孫娘の三代で使っているお客様もいるそう。安いわけではないけれど、大事に使い継いでいける道具が見つかる江戸な名店です。ちなみに、店主夫妻もほおずき市は子供のころから親しんできた縁日です。「よのや櫛舗」の定休日は水曜日ですが、10日(水)は、営業するそうですよ。

本つげ一本脚扇型かんざし(青海波)/24,800円、本つげへら型かんざし(麻の葉)/19,800円、本つげとかし櫛(四寸五分)/16,800円

蕎麦や冷奴にあわせたい江戸なスパイス

また商店街のなかにある、七味唐辛子で有名な「やげん堀」は江戸寛永2(1625)年創業。日本橋薬研堀町という医者や薬問屋が集まる町でからし屋を営んでいた初代は、漢方薬の調合にアイデアを得て、唐辛子や山椒、麻の実などをあわせた七色唐辛子を作り上げます。

七味唐辛子だけではなく、七味を使った豆菓子なども販売。浅草には新仲見世本店とメトロ店と二店舗あります。

独特の香りやピリっとした辛みは、その当時流行り始めた蕎麦にあうと絶賛されて、瞬く間に江戸名物へ。浅草にある店舗では、好みに合わせて調合をしてくれるのでぜひお試しを。今からの季節、冷たい蕎麦やそうめん、冷奴などにぴったりな江戸のスパイスです。

私のお好みは「辛さは大辛。そして麻の実を多めに」です。辛さは大中小と三段階。麻の実や山椒多めなど味の好みを伝えて、オンリーワンなマイ七味を食卓へ!七味唐辛子/540円

門前の茶店からはじまった甘味処へ

歩き疲れたならば、甘味処「浅草梅園」でひとやすみ。参詣帰りで賑わう甘味処は、江戸時代に浅草寺の末社・梅園院(ばいおんいん)門前に開いた茶店がはじまり。安政元(1854)年創業の江戸の老舗です。明治期には、『東京自慢名物會(とうきょうじまんめいぶつえ)』という錦絵シリーズに、大正期には『東京食べ歩き四十八軒』にとりあげられるなど、いつの時代も浅草名店として愛されてきました。

梅の花のなかに園と染め抜いた暖簾が印象的な浅草梅園本店。

朝一番から粟餅を搗いて仕上げる「粟ぜんざい」が有名ですが、あんみつや氷などの甘味の冷たいお品書きも揃っています。朝一番や夕方は比較的すいているので、ゆっくりしたいならばそのお時間にどうぞ。

「浅草梅園」の粟ぜんざいは年中のお品書き。クーラーの効いたお店でほんのり温かな名物甘味を。

浅草寺で年に一度のご利益参りのあとは、江戸情緒が感じられる浅草の名店や老舗を楽しむ江戸・東京の七月です。

店舗情報

浅草寺
東京都台東区浅草2‐3‐1
「四万六千日・ほおずき市」
7月9日(火)・10日(水)
ほおずき市 8時~21時ごろまで(雨天催行・荒天中止)
浅草寺本堂 6時~20時ごろまで
http://www.senso-ji.jp/

浅草梅園
東京都台東区浅草1-31-12
電話:03-3841-7580
営業時間 10:00~20:00
休日 水曜(月2回のみ*HPや電話でご確認を)
http://www.asakusa-umezono.co.jp

やげん堀 新仲見世本店
東京都台東区浅草1-28-3
営業時間:10時~18時(*土・日・祝日~19時)
無休
https://yagenbori.jp/

よのや櫛舗
東京都台東区浅草1-37-10
TEL03-3844-1755
営業時間 10時30分-18時
休日 水曜(水・木 連休も)
*ほおずき市・四万六千日がある7月10日(水)は通常営業
http://yonoya.com/

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書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。