2018年和樂12・1月号「日本酒のお供全日本選手権」と連動企画、「ウェブではお酒の全日本選手権」の第1回を開催いたします。選手権といっても、なにかを評価するわけではありません。本誌企画の編集を担当した藤田と、撮影を担当してくださったカメラマンの石井宏明さん、そして編集部デスクの本多という3人が誌面で紹介した9本の日本酒を語りあうという企画です。
9本の日本酒を3本ずつ、3回に分けてご紹介していきます。巻末には蔵元への共通質問が入ります。合わせてお楽しみください。一合どうぞといいながら結構飲んじゃいました!
第1回 純米大吟醸3本そろい踏み!
【目次】
・登場人物の紹介
・プレミアム日本酒3本を深堀り!
・1本目:黒龍酒造「石田屋」
・2本目:新政酒造「No.6 X-type」
・3本目:灘菊酒造「MISAプレミアム33」
・入手困難なお酒はどこで買う?
・9つの蔵元へ共通質問、その回答
└黒龍酒造 編
└新政酒造 編
└灘菊酒造 編
【登場人物の紹介】
石井宏明:和樂12・1月号「お酒のおとも」の撮影を担当したカメラマン。3人の中では日本酒事典のようなポジション。
本多知己:本誌デスク。日本酒は限りなく雑味のないものが好み。味の好みはけっこうウルサイ。
藤田 優:座談会の進行も務めるフリー編集者。派手さは求めず、骨格のある味の酒を求む。
プレミアム日本酒3本を深堀り!
藤田 石井さん、撮影おつかれさまでした(この座談会は撮影直後に開催)。撮影が終わったばかりなので、私と本多さんは自分の一合用の酒器を持っているけれど、石井さんはご自分の酒器持ってきました?
石井 持ってこれませんでした。
本多 僕のグラスふたつあるので、これでどうですか(とリーデルの純米酒専用グラスを差し出す)。
石井 撮影したときから一度これで飲んでみたかったの。お借りします。
藤田 乾杯しましょう、どのお酒にします?
本多 ここは黒龍酒造の「黒龍 石田屋」で始めませんか?
藤田 自分の推薦したお酒からなんですね(笑)。「黒龍 石田屋」(以下、石田屋と省略)は黒龍酒造の最高級ブランドのひとつである熟成純米大吟醸酒。本多さんの「石田屋」へのあふれる愛は本誌175ページで読めますので、ウェブでは省略して進めますよー。
石井 まぁ、本多さんを前にしたら「石田屋」から始めないわけにはいかないよね。
本多 (自ら率先して注ぎながら)色がきれい!
藤田 飲む前からうっとりしている!
石井 (笑)。それではカンパーイ。
シャッターを押しながら乾杯もしてくれたカメラマン石井さん(中央)。左の黒龍グラスを持つのはデスク本多、右が藤田
黒龍酒造「石田屋」は、飲むまでの準備も楽しい!
本多 んまい! 箱に入った「石田屋」を手にするのはこれで2度目です。毎年11月から限定で販売されますが、自分で買えたことはなくって。
石井 これまではどうやって飲んできたの?
本多 日本酒を飲みに行く店で、「石田屋」が入荷したらみんなで飲むイベントがありまして。そこに呼んでもらっていました。
藤田 数量限定で販売されるお酒は1本買うのが難しくても、お店なら飲める確率は上がりますよね。私は今回初めて「石田屋」と対面しましたが、箱を開けてから本体にたどり着くまでに演出がいっぱいあるんですよー。このプレミアム感も手にしたくなる理由ですよね。箱を開けてから瓶とご対面するまでをお見せしましょう。
石井 四合瓶で1万円だもの、これぐらい仕掛けがないとね。
藤田 本多さん、この漆塗りの箱を平安貴族みたいに枕にしたら? いい夢見れそう(笑)。
本多 いやいや、床に飾って眺めますよ(笑)。
これ、水みたいに飲めますね
藤田 ところで味は? みんな無言になってます。
本多 いやー、今年も「石田屋」が飲めたと思うと感無量で、、、(感極まって無言)
石井 (口の中で分析中につき無言)すごい吟醸香だな。メロンみたいな香りがするね。
藤田 お酒には違いないのだけれど、水みたい。コクがあって、口あたりがまろやか。裏ラベルをご覧ください。
本多 「十四代」(山形・高木酒造)を最初に飲んだときも感動ましたけれど、「石田屋」のほうがほのかな香りが立つというか。適度な甘みもあって、さらっとしているのが僕の好みなのかな、と。
藤田 同じ金額のお酒を飲んだことがないので、これが1万円相応の味なのか比べられないのですが、美味しいことは確か。すべてのバランスがいい。
石井 うん、上手につくってありますね。
本多 ちょっと褒め過ぎなところもあるとは自覚しているのですが、、、。飲んで感動した初めてのお酒なので。僕にとっては“思い出込み”の特別なお酒になっちゃっているんだと思います。
石井 そっか、「石田屋」が本多さんにとっては最初の女性(一合)だったのね(笑)。
本多 うわー、それには言葉が出てこない(笑)。
石井 そういう食べ物って誰しもひとつはあると思うよ。美味しさとかを超越して特別なもの。それがあるっていいじゃない。
まるで白ワイン!? 新政酒造「No.6」のX-type はこんなお酒です
藤田 酒かな?水かな? みたいなスッとした味わいが「石田屋」だとしたら、酒かな? 白ワインかな? というふくらみがあるのが新政酒造の「NO.6」。6が意味するものは新政酒造が開発した「六号酵母」で、こちらは現存する日本最古の酵母だそう。この酵母を全面に活かした生酒が「NO.6」で、紹介するX-typeはその中でも純米大吟醸格の最上級ライン。既存の日本酒にはないスタイルで、こちらも入手困難の人気のお酒です。
石井 撮影したときはもっと発泡してたよね?
藤田 はい。もうちょっと泡が元気でした。
石井 しっかり酸味があって、白ワインみたいな味がするね。こんな日本酒があるんだ。
藤田 撮影現場で開栓した直後にひと口いただいちゃいましたが、そのときのフレッシュな味わいには驚きました。飲み口のインパクトもあり、奥行きもあって。
本多 この酸味は僕だったら和食よりもイタリアンに合わせたいかも?
藤田 カルパッチョとか合いそうです。このお酒はラベルも個性的で、一般的には製造年が貼ってあったりしますが「No.6」は原料米の収穫年度が目立つところにあります。そんなところもワインっぽい。
老舗居酒屋でもNo.6は人気です
石井 説明を読んだら、昔ながらの生酛(きもと)づくりのお酒なんだね。
藤田 生酛づくりとは? 石井さん、説明をお願いします。
石井 江戸から明治にかけて行われていた伝統的な手法で天然の乳酸菌や酵母菌などを醸してつくられた酒のこと。この酒はきれいな酸があって、しっかりとした旨みがあるね。見た目は新しさがあるけれど、製造法に実があっていいじゃない。
本多 香りも強く、甘みもしっかりあって、日本酒を飲み慣れていない人にもこれは入りやすい。新政酒造のお酒は今、いろんなところで見ますよ。当代の佐藤祐輔さんが蔵元杜氏になってから、イメージが刷新されて新しい酒づくりが注目されています。
藤田 石井さんに教えてもらった、大阪の渋い名物居酒屋にも「No.6」ありましたもん。若い人たちがうれしそうに注文していましたよ。気軽に出合えないと思うと飲みたくなるもので、もちろん私もオーダーしちゃいました。
石井 そうかー。置いてあるのは知ってたけど、僕はあそこで樽酒の燗酒しか飲まないからなぁ。
藤田 このお酒がそれほど流通していないのは、6度以下の冷蔵庫保存をメーカー側が推奨していて、保管を任せられる店にしか卸さないという理由もあるようです。家で飲むなら、開栓したら一気に開けるのが美味しく飲むコツかと思います。年末年始の会合にこのお酒があったら楽しいですね。
女性杜氏がつくる限定生酒。灘菊酒造の「純米大吟醸 MISAプレミアム33」
藤田 締めの3本目は、灘菊酒造の「純米大吟醸 MISAプレミアム33」です。和樂の服飾・ジュエリー担当の福田詞子さんが推薦する日本酒ですが、福田さんが推すものはおしなべて“プレミアム”なんです(笑)。前号の「ごはんのおとも」に続いて今回もレアな情報を教えてもらいました。このお酒は本来は3月から5月だけ、500本限定で販売される無濾過の生酒です。
本多 おー、キャラが立ってるわー。
藤田 それはお酒に対して? 推薦者に対して? どっち(笑)?
本多 両方かな(笑)。これ、美味しい。
石井 しっかり甘みが残るけれどね。
藤田 宝塚歌劇をこよなく愛する推薦者の好みが伝わってきますよね。お酒にとても華があります。食後酒にもおすすめと蔵元当主から聞きました。私としては贅沢にもフラッペにしてシャリシャリいただきたいと思ってしまいました。
石井 それ、わかる。
貴腐ワインみたいな濃厚さがありますね
藤田 春まで待てない読者のために、通年販売されているお酒を紹介しますね。同じく無濾過・生酒のMISAシリーズの中から、特別純米です。
本多 特別純米は後口に酸が残るけれど、大吟醸と同じくしっかりした甘みがありますね。
藤田 MISAとは蔵元杜氏の川石光佐さんの名前からきてます。私はお酒を説明するときに女性杜氏であることをアピールしなくても、と思うほうなのですが、このふたつのお酒を飲むと女性の心をつかむ味を心得ていらっしゃる、と思いますね。
石井 それを聞いたら納得しちゃった。このこっくりした甘みは女性にアプローチしやすいと思うよ。
本多 貴腐ワインにチョコレートを合わせるみたいな、どっちも負けない組み合わせでこのお酒は楽しめそうです。さて和樂のスタッフがこのお酒にどんなつまみを合わせたのかは、本誌178ページをご覧ください。ちょっと予想外かも?
藤田 川石さんにお会いしたときにおすすめいただいて求めた灘菊の純米が私は好みでした。MISAシリーズとはまた違う古典的な味わいで。重みがあって燗酒にもおすすめですよ。この蔵は手づくり、小仕込みにこだわっているとか。7割が地元の直売所で売れてしまい、卸しはしていないという点で希少なんですね。ただし今回紹介する3本のお酒の中では唯一、ネット上でも販売をされています。
入手困難な酒はどこで買う?
石井 ネットショップを持っている蔵元はいいけれど、それすらしていなくて入手困難と言われる酒はどこで買えばいいのかな?
本多 僕は一度「石田屋」の購入権の抽選を申し込みするために、福井にある黒龍酒造まで行ったことがあるんです。
藤田・石井 えぇー!
本多 そのときはハズレて。買う前にその権利も手にできませんでした。
石井 どこまでも“石田屋愛”があるんだね。
藤田 蔵元に問い合わせをすると特約店を教えてくれるというのが通常ですよね。私は現在進行中の和樂の取材で秋田に行くことがあったので、新政酒造に寄ってみたところ、そこで秋田県内の特約店の地図をいただきました。地図がもらえただけでも、何かに近づいたようでうれしい(笑)。そこから入手できるかは、あとは酒屋さんとの付き合い次第なんでしょうね。「お酒のおとも」の取材中は、冷やおろしの発売時期と重なってデパートの催事で日本酒のイベントがどこかしらで行われていたんです。そこで蔵元の方々とご挨拶ができたし、お酒を買うこともできました。イベントは気軽に当主の方や営業さんと話しができるのでおすすめです。
さて第1回の話はこのへんで。残り6本のお酒はこれから2回に分けてご紹介します。3人のおしゃべりもまだまだ続きますよー。
蔵元のことをもっと知りたい! 蔵元に共通質問とその回答
「お酒のおとも全日本選手権」に協力いただいた9つの蔵元に共通質問を投げさせていただきました。各蔵元の個性あふれる回答をお楽しみください。
質問1 蔵元のある風土を知る手がかりとして、酒の仕込みに使う水を教えてください。
質問2 自社の酒を歴史上の人物にたとえるなら、だれですか?
質問3 おすすめのお酒のおともは? それに合わせるならどのお酒?
※手描き地図は藤田作
黒龍酒造 編
回答者:黒龍酒造株式会社 経営企画部企画営業課 前田伊穂
回答1 黒龍酒造のある永平寺町松岡は、霊峰白山山系の雪解け水が長い年月を掛け、山の滋養という濾過を経て、再び良水として湧き出る地域です。蔵の近くを流れる福井県最大の河川「九頭竜川」は、清澄な水を象徴するように、立派な鮎やサクラマスが育ち、全国から太公望が集まります。山から大地へと、自然のフィルターを通って澄みきった九頭竜川の伏流水を、地下75メートルから汲み上げ、酒造りに使用しています。軟水質の軽くしなやかな口あたりが、「黒龍」「九頭龍」の綺麗でふくらみのある柔らかな酒質を生み出します。
回答2 紫式部/「黒龍」「九頭龍」共にどこか上品で奥ゆかしい、女性的な雰囲気があるから。
回答3 越前ガニをはじめとする、淡白で上品な甘みのある日本海の幸の刺身。おすすめは、透き通るような綺麗な味わいと、すっきりとキレのある「黒龍 大吟醸」。
※「黒龍 石田屋」10,000円(720ml)は毎年11月から販売。
◆黒龍酒造
住所 福井県吉田郡永平寺町松岡春日1-38
TEL 0776-61-6110
公式サイト
新政酒造 編
回答者:新政酒造株式会社 代表取締役 佐藤祐輔
回答1 日本海沿岸近くのミネラル豊富な地層から採取されるため、生酛に適した良水として知られています。
回答2 織田信長/大きな変革を行なった人物なので。
回答3 酒単体でお楽しみいただきたのですが、ビワや柿などの和フルーツとも相性が良いです。合わせるなら「No.6 X-type」。
※「No.6 X-type」2,778円(740ml)
◆新政酒造
住所 秋田県秋田市大町6-2-35
TEL 0188-23-6407
公式サイト
灘菊酒造 編
回答者:灘菊酒造株式会社 杜氏 川石光佐
回答1 中国山脈からの市川水系の伏流水。蔵の敷地内には2つの井戸があり、地下100メートルを掘り下げ使用しています。資質はやや軟水です。
回答2 千姫/姫路に縁がある女性ということ、そして波乱万丈の生涯を送ったことに興味と親近感がわきます。灘菊のお酒は「お酒と食文化のハーモニー」をモットーとし、食事に寄り添うお酒を目指しています。酒の肴を引き立て・包み込むという意味で、千姫の生き様と共感出るのかなと感じました。
回答3 いかなごの釘煮。おすすめは純米「灘菊」。
※「純米大吟醸MISA33プレミアム」(500ml)2,130円*次回出荷分から2,300円に変更 は3月から5月の限定販売。「特別純米MISA33」(500ml)1,160円。
◆灘菊酒造
住所 兵庫県姫路市手柄1-121
TEL 0792-85-3111
公式サイト
【ウェブではお酒の全日本選手権 記事一覧】
・第1回 純米大吟醸3本そろい踏み!
・第2回 暑いところ寒いところで飲むお酒
・第3回 燗酒にしても美味しい純米酒
構成/藤田 優、本多知己(本誌)