北海道・札幌市にあるモエレ沼公園。東京ドーム40個分の広大な公園は、四季折々のさまざまな美しい景色を見せてくれます。モエレ沼公園を、もっと楽しみたい…! そんな方に、公園全体がアートのモエレ沼公園の魅力や見逃せないポイントを、学芸員・宮井和美さんのお話を交えながらお伝えします。
もともとはごみの埋立地だったモエレ沼公園
モエレ沼公園の美しい景色とはどう考えても結びつかない、ごみという言葉。
もちろん、ごみの埋立地「だった」だけなので、言われなければ足元に270万トンものごみが埋め立てられているとは誰も気づきません。公園には、美しい景色が広がり、爽やかな空気が流れています。けれど、そんなことも、ほんの少し知っているだけで、見えてくる景色が変わってくるから不思議です。
20世紀を代表する彫刻家イサム・ノグチ
この公園の設計は、幼少期を日本で過ごし、アメリカ、フランスなどで彫刻を学んだのち、世界で活躍した彫刻家イサム・ノグチ。歴史ある国際美術展覧会であるヴェネチア・ビエンナーレのアメリカ代表として選出され、日本では京都賞を、アメリカでは国民芸術勲章を受賞するなど、世界でも名高い彫刻家のひとりです。
ノグチは、昭和63(1988)年、83歳の最晩年にこの地を訪れ、「人間が傷つけた土地をアートで再生する。それは僕の仕事です」と、モエレ沼公園の設計に取り組みます。
モエレ沼公園の中を歩いていると、次々と現れてくる美しいシルエット。アートというと日常とかけ離れている気がしてしまいがちですが、この公園の中にいるとアートは日々の暮らしの中の一部で身近な存在。美しい景色が、自然と身体に溶け込んできます。
観光客にも市民にも愛されるモエレ沼公園
年間約80万人が利用しているうち、約半分が観光客、残りが地元市民というモエレ沼公園。観光ではイサム・ノグチが好きな方、アート、建築、デザインが好きな方が多いそう。
海外では特にアジアからの方が多く、美しく、広々とした近代的な空間を楽しみにはるばる訪れています。また、冬は雪のある景色を楽しみにしている方も多いとか。
美しいガラスのピラミッド“HIDAMARI”は、鉄筋コンクリートと鉄筋造の3階建て。東側から見ると三角形ですが、回り込んでモエレ山側から見ると、四角形が組み合わされています。冬は、太陽の光を取り込みぽかぽかと「ひだまり」のようになりますが、夏は中が温室のようになるそう。
その全てを電気やガスなどの冷房でまかなうことは環境に負荷をかけることになるので、豊かな自然環境を守るために、冬の間に降り積もった公園の雪を貯蔵し冷房として利用しているのが、このピラミッドの隠されたすごいところ。ほら、きっとまた公園の見方が変わったはずです!
また、市民の方たちは、アート観賞の目的のほか、夏の水遊び場として利用するファミリー層も多いそうです。モエレ沼公園は、実はスポーツ施設も充実していて、テニス・野球・陸上競技などの大会をとおして公園に親しみをもっている方も少なくありません。取材をした日は、野球場で軟式野球の試合が行われていました。
野球場のベンチやスタンドもコンクリート造りでおしゃれ! 観ている方も楽しくなってしまいます。
学芸員さんおすすめの「モエレ沼公園の歩き方」
どこを歩いても美しいモエレ沼公園。そんなモエレ沼公園ですが、公園を知り尽くした学芸員・宮井さんに、公園内で特におすすめの楽しみ方を教えてもらいました。
プレイマウンテンの頂上から公園内を見下ろす
まず宮井さんがおすすめしてくれたのは、プレイマウンテンの頂上からの景色。
軽く息切れをしながらプレイマウンテンの頂上に登り、登ってきた道を振り返ると、美しい公園のアート作品や、訪れている人たちが楽しそうに遊んでいる姿がぐるりと見渡せます。遠くには、札幌の街の景色と連なる山々も。つい、ぼんやりと時間を過ごしたくなります。
テトラマウンドからガラスのピラミッドへ歩く
次に宮井さんが、教えてくれたのが、テトラマウンドからガラスのピラミッドまでを歩く道。
写真提供:モエレ沼公園
実際に歩いてみると、テトラマウンドに始まり、プレイマウンテンのピラミッドのように積み上げられた石、深い緑の森、アクアプラザの敷地、ガラスのピラミッドまで、さまざまな美しい三角形が私たちを楽しませてくれます。
海の噴水のロングバージョンを最初から最後まで観る
「海の噴水」は、直径48mの大きな噴水が、高さ25mまで水を噴きあげる水のアートです。
宮井さんがすすめてくれたのは、40分間のロングプログラムでしか見られない「ビッグウェーブ」。まるで海のような波が噴水全体で表現されるシーンは、ここが公園であることを忘れさせてくれます。この日は、風で靡いた水しぶきを、子供たちが嬉しそうに追いかけていました。
通常の公園としても機能するモエレ沼公園の魅力
「公園全体が彫刻作品だ、というイサム・ノグチのコンセプト・造形はもちろん最大の魅力ですが、それだけでなく通常の公園としても機能しているところも魅力」と、学芸員さんがモエレ沼公園の魅力を教えてくれました。
様々な人生の背景にあるモエレ沼公園
「様々な人が集って活動をしているので、たくさんの人生のシーンの背景、思い出の中にこの公園がある」のが、モエレ沼公園の魅力。空間全体が彫刻作品であるモエレ沼公園は、アートとして楽しむだけでなく、毎日の散歩で使用する人も、遠足で来る子ども達も、スポーツの大会で年に1度だけ来るという人などもいて、利用の目的は様々です。
それぞれの素晴らしい余暇に、公園の美しい風景が思い出として重なります。
公園だから気兼ねなくみんなが楽しめる
写真提供:モエレ沼公園
公園は美術館などとは違って、だれもが気軽に行けて楽しめる場所。普段アートに興味がないと思っている方でも、知らず知らずのうちにアートに親しめます。
北海道を訪れた際はぜひ、自然とアートが楽しめるモエレ沼公園を訪れてみてくださいね。
モエレ沼公園 基本情報
住所:北海道札幌市東区モエレ沼公園1-1
アクセス:札幌市街地から車で約30分
地下鉄東豊線環状通東駅からバスで25分
営業時間:7:00~22:00
休業日:なし(園内各施設はそれぞれ休業日あり)
webサイト:https://moerenumapark.jp
※時間等は変更になることもあります
※アイキャッチ写真提供:モエレ沼公園