クルマはつくらない。クルマのある人生をつくっている――。この印象的なスローガンを掲げているのが、輸入車のディーラーとして2015年に創業100周年を迎えたヤナセです。生活をより快適に、より豊かにする、数々の個性的なラグジュアリーカー。そんなクルマを走らせ、美術館をめぐる旅へ出かけませんか。連載第1回は、江戸時代に港町として栄えた面影が残る、山形県酒田市の土門拳記念館。作家の野地秩嘉さんに、美術館の楽しみ方や郷土グルメなどもご案内いただきます。
山や池の景色に調和する
フォトジェニックな写真美術館
美術作品と〝距離を保つ〟ということ
適正な距離というものがある。絵を見る場合なら、作品の対角線の1・5倍がそれだ。画家が絵を見直す場合、それくらいの位置に立って全体をチェックするかららしい。ただし、大勢の人が詰めかける展覧会となると、適正な距離を保って眺めるのは難しい。たとえば、絵の対角線の長さが1メートルだとする。「それでは1・5メートルの距離から見ればいいんだな」と絵の前から離れたとたんに、他の人の頭が5つも6つも割り込んでくる。あわてて、絵に近寄ろうとしても、もう遅い。ゆっくり、絵を見るなんてことはとてもできない。
人を集めている展覧会の場合、わたしはどうしているか。雨の日の朝、車を運転して出かけていく。そうして朝一番の空いている時間に適正な距離から絵を眺める。芸術の鑑賞とは絵と自分自身の対話だ。芋の子を洗うような混雑のなかに身を置くのではなく、静かな空間で落ち着いて見なくてはならない。車を使うには、もうひとつ理由がある。美術館のなかには「車でないと行きにくい」ところがある。日本でも世界でも、市街地から外れたところにすばらしい美術館があったりする。そういうところへ行く時、唯一の公共交通機関であるバスが、日に2本しか来ない、といったケースがある。そうなると、時間が気になって、絵を見ている余裕はなくなる。やはり、芸術作品はゆったりした空間で、時間を忘れて楽しむものだ。
土門拳がとらえた〝肖像〟を味わいに酒田へ
山形県酒田市にある土門拳記念館は、市街地から離れた飯森山公園のなかにある。公園の入り口から記念館のほうへ進んでいくと、背景に鳥海山が浮かびあがる。空、山、風といったものが美術館を包む空間になっている。記念館の建物は人工池(白鳥池)に面していて、池の周りには桜、藤棚といった緑が植えられている。池は白鳥、シラサギが泳ぎ、風が吹くと、水面に波が立つ。いつ出かけていっても、記念館とそれを取り巻く景色はフォトジェニックだ。飯森山公園と記念館はまさしく調和している。開設は1983年。ひとりの作家をテーマにした写真専門美術館の草分けだ。土門は酒田の名誉市民第1号になった時(1974年)、全作品7万点を郷土に贈った。市はそれをもとにして記念館を作った。公園を整備したのもまた同じ年である。
土門拳記念館のモダンな建築には、周囲の自然景観を内外から楽しむ工夫が。晴れた日には「出羽富士」とも呼ばれる鳥海山を望む。
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土門拳は報道写真、ポートレート、仏像、風景など、さまざまなジャンルで仕事をしている。戦後日本を代表する写真家と言っていい。彼の口癖は「写真は気力で撮る」。言葉にある通り、土門は対象に挑みかかる姿勢でシャッターを押した。
土門はこんなことを言い残している。「写される人に押されては、ろくな写真は出来ない。写される人が『あなた任せ』の心境になるまで押し切らなければ駄目だ。気力第一である」気力、気力とつぶやきながら相手を見つめ、粘りに粘って写真を撮ったのだろう。画家の梅原龍三郎は土門がなかなか撮影をやめないので、しびれを切らして、腰掛けていた籐椅子を振り上げ、床にたたきつけたという。それでも、土門は少しもあわてず、「もう1枚」と、怒っている梅原の表情を撮った。記念館にはその時の梅原のポートレートもある。
酒田のシンボル、山居倉庫。明治26(1893)年建造の土蔵造りの米蔵が12棟連なり、現在も農業倉庫として活用。二重構造の屋根、日よけや風よけになる欅並木など、自然を利用した低温管理の工夫が。一部はカフェや土産物店として営業。
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土門には「古寺巡礼」「筑豊のこどもたち」「風貌」「文楽」といった作品があるが、見逃してはならないものはポートレートの数々だろう。そこには土門が放った気力の気配が写っている。赤痢菌を発見した志賀潔、作家の谷崎潤一郎、川端康成、幸田文、評論家の小林秀雄、画家の藤田嗣治…。いずれもニコニコと笑っている姿ではない。放心していたり、レンズをにらみつけたり、不機嫌な顔をしていたり…。現在、雑誌で見かける名士と違い、当時の人たちはサービス精神を持ち合わせていなかったのだろう。それぞれが勝手気ままにふるまっている。プロのカメラマンが写真を撮ってくれるからといってありがたがる人種ではなかった。土門はひと癖もふた癖もある人々と勝負をして写真を撮った。険悪なムードを乗り越えて、作品に仕立て上げたのである。そうして、写真ができあがると、不機嫌だった文化人たちは態度を変えた。彼らが見たのは、程度のいいスナップ写真ではなく、人間の内面を写した肖像画だったからだ。
土門拳記念館の居心地
水に浮かぶかのように設計された記念館。30年以上前のものとは思えない現代的な建築が、秀峰・鳥海山を眺望する自然とも調和。
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土門拳記念館の魅力は写真作品だけではない。土門の友人でもある芸術家たちやその子らがドリームチームを組んで、記念館を作り上げている。設計、館内インテリアは谷口吉生、彫刻はイサム・ノグチ、銘板や入館チケット等のデザインは亀倉雄策、庭園設計は勅使河原宏。わたしは亀倉、勅使河原両氏にインタビューしたことがあるけれど、よほど相手を認めない限り共同作業なんてやろうとしない人たちだった。そんな巨匠が土門拳のためにひと肌脱いだのである。また、これとは別に、土門が使っていた筆箱、硯箱など文房具が展示されることがあるが、愛用した筆箱の作者は人間国宝の黒田辰秋だ。日常生活でも、一級の芸術品を使っていたのである。
華道草月流三代家元の勅使河原宏による庭を望むスペース。愛用のカメラなどの展示も。
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展示は時々、変わる。ポートレート写真の他にも大作「古寺巡礼」「室生寺」が特集されたり、昭和の息づかいを伝える「筑豊のこどもたち」が展示されることもある。どれであっても、作品を細部まで見つめていると、いつの間にか時間が経ってしまう。土門拳記念館は時間を忘れる美術館だ。最後にもうひとつ付け加えると、館内のソファ、椅子はいずれも居心地が良すぎる。一度、座ったら、なかなか立ち上がることができない。写真を見る時間の他に、ソファで休憩する時間も想定しておかなくてはならない。
メルセデス・ベンツ
GLC 250 4MATIC Sports
庄内をドライブしたのはこのクルマ!
街乗りもロングドライブも快適!
今回の旅のお伴は、快適な走行性と乗り心地だけでなく、さまざまな知的安全装備を宿したGLC。人気のスポーツユーティリティ車(SUV)で、車間距離や自動停止をアシストしたり、運転席が高いため視認性に優れるなど、安全・安心な設計はドライバーの疲労を軽減します。広く利便性の高いラゲッジも、旅行時に活躍!
●メルセデス・ベンツ GLC250 4MATIC Sports(本革仕様) 右ハンドル 9速A/T 四輪駆動 総排気量1991㏄ 全長 4670㎜ 全幅1890㎜ 全高1645㎜ 車両本体価格7,350,000円(税込)
問い合わせ先/ヤナセ http://www.yanase.co.jp
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–撮影/永田忠彦 構成/小竹智子 文/野地秩嘉-