Culture
2020.11.17

環境問題は糞尿問題だった!糞尿リサイクルシステムを生んだ江戸の知恵に学ぶ

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最近、よく耳にする『SDGs』。これってスマホの新しい機種かと思いきや、国連が推奨している世界的な取り組みのことなんです!

えすでぃーじーず?

『SDGs』は『SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOAL』の略で、『持続可能な開発目標』という意味になります。人口増加における食糧危機、貧困問題や地球温暖化など今、世界で起きている問題をそれぞれの国で考え、持続可能な社会へと転換していこうという取り組みです。なんだかとても壮大で、難しいことのように感じますが、実は、日本は昔からそういった考え方が根付いていて、江戸時代には合理的循環システムを生み出していたのです!

糞尿を活用する「糞尿リサイクルシステム」とは!

昭和40年代までに生まれた人は、汲み取り式便所の記憶があるのではないでしょうか。かくいう私も小学校の低学年ぐらいまでは、「ぼっとん便所」と呼ばれた汲み取り式便所でした。今となると、あのトイレに落ちそうな恐怖を乗り越えて用を足していた日本人の脚力ってすごいな~と思います。あの体勢はスクワットなど比ではありませんでした!

今でもたま〜に、田舎のぼっとん便所でぷるぷるしながら臨むことがある。

そして家庭の便所にたまった糞尿は月に何回か来るバキュームカーが汲み取り、持ち去ってくれていました。それがどこでどう処理されているかは知らずにいましたが、肥料となって田畑に撒かれていたことも地域によってはあったそうです。

この糞尿利用をシステムとして成立させたのが江戸時代です。糞尿を商品として扱い、回収に価値を持たせ、ビジネスとして成り立たせました。これは世界でも画期的な取り組みであり、環境問題にいち早く取り組んでいたと言えるのではないでしょうか。

江戸ってエコな都市だったんだ〜。

江戸時代は、幕府や藩にとって新田開発や田畑の生産能力を上げることは重要な政策の一つでした。そのため、江戸時代の代表的な農業書『農業全書』(1696年、宮崎安貞著)の中には、「やせ地に糞尿を施すことが急務である。農家は糞屋を整えて人糞尿を貯えておかなければならない(攻略)」といったことまで書かれていました。

さらに農民は、米を年貢として納めることが義務づけられていたため、江戸で販売することのできる野菜は確実な現金収入。良い野菜を作るためにも肥料となる下肥(糞尿を熟成して肥やしにしたもの)は資源であり、江戸の庶民から出る大量の糞尿は大切な肥料の元でした。

糞尿商品が巨大ビジネス化へと発展

『江戸の糞尿学』(永井義男著)には、『江戸は食糧の消費者であり、糞尿の生産者。近郊の農村は野菜の生産者であり、糞尿の消費者』という考え方が書かれています。

需要と供給に目を付けた農家が、専業の汲み取り人として仕事を請け負うようになりました。これがビジネス化の第一歩! そこに仲買人、売捌き人、問屋などの流通が生まれ、糞尿が商品として幅広く、近郊農家に流れ、市場が形成されていったのです。

糞尿マーケットだ!

遠くまで大量に運ぶためには輸送が重要です。下肥ビジネスで潤った豪農は、舟を所有し、大量の糞尿商品を頻繁に運送するようになり、巨大ビジネスへと発展していきました。

前出の書には、日本に滞在した数少ない外国人がこれにひどく驚嘆していたことが書かれています。

スウェーデン人医師であり植物学者のツンベルクは、「世界中にこの国ほど、より丹念に肥料を集めている国はない。(中略)ヨーロッパの畑ではめったに使用しない尿さえも、ここでは大きな壺に丹念に集められる」と下肥の利用について書いていますし、ドイツ人の医師シーボルトも、田舎での農業と肥料の関係に関心を示していたそうです。

同時代の海外には糞尿のリサイクルシステムが確立されていなかったのか!

不要なものと要なものをうまく組み合わせて、そこにビジネスが生まれるのは、今のリサイクルシステムの原型とも言えます。命を育む食事と排泄は人間にとって大切な行い。「糞尿、汚い~~」と拒絶するのではなく、生きることの原点を教えてくれる江戸の優れたシステムでだったと言えるのではないでしょうか。

参考資料: 平成20年版環境・循環型社会白書「循環型社会の歴史」
永井義男著『江戸の糞尿学』 作品社 
     
アイキャッチ画像:『画解五十余箇条』国会図書館デジタルコレクション

書いた人

旅行業から編集プロダクションへ転職。その後フリーランスとなり、旅、カルチャー、食などをフィールドに。最近では家庭菜園と城巡りにはまっている。寅さんのように旅をしながら生きられたら最高だと思う、根っからの自由人。

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我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。