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2020.12.15

ガムを買うと「高級婦人カーデガン」が当たる?昭和30年代フルーツ系板ガムのデザインが面白い!

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井村屋といえば夏の「あずきバー」と冬の「肉まん・あんまん」、仁丹といえば生薬配合の銀の粒、カンロといえば琥珀(こはく)色をした甘じょっぱい飴やのど飴を思い浮かべる人が多いだろう。どれも、それぞれの企業の看板商品である。

当然のことながら、3社は成り立ちも社風も主力商品も異なる。しかし、それらの違いを軽々と超えた共通点がある。いずれも、昭和30年代後半にスティック状の板ガムを手がけていたことだ。この時期はロッテやハリス(現クラシエフーズの前身)といった専業メーカーばかりでなく、菓子メーカーの多くがガム市場に参入していた。

参入するメーカーが増えれば、当然のことながら競い合いが始まる。競争に打ち勝つには類似商品内での差別化を図ることが有効だ。こうして、各社はガム本体で特徴を出すことはもちろん、包み紙で自社らしさを表すことにも努めた。

そこで、当時の花形シリーズであったフルーツ(ジューシー)系板ガムの包み紙をグラフィックデザインの観点から眺めてみた。以下の画像はいずれも個人的なコレクションの一部である。これらは長い年月をかけて必死に集めたのではなく、捨てずに取っておいたのを実家の押し入れから引っ張り出してきただけである。

相次ぐ大手菓子メーカーや異業種の参入

コレクションを披露する前に、昭和30年代後半のガム(正しくはチューインガム)をめぐる国内業界のあらましを見ておこう。日本では1960(昭和35)年以降、大手菓子メーカーや異業種からの参入が相次いだ。例えば、この年だけでも、江崎グリコが4月に初めてガムを発売。6月には明治チューインガムが設立されている。8月にはカンロ飴本舗(現カンロ)がガム市場に名乗りを上げた。

1961(昭和36)年になるとさらに加速。5月にサンスターと不二家が加わり、8月に外資系の名糖アダムスが設立された。ワーナー・ランバードが日本初の粒ガムを発売したのもこの年だ。1964(昭和39)年4月には鐘淵紡績(カネボウ)がハリスを吸収しカネボウハリスを設立。前述のようにこれが現在のクラシエフーズになる。

需要を追いかけて各社が競い合う

菓子業界専門紙『菓子飴新聞』の近田大輔社長によると、食品会社がこぞってガムに着目したのは手持ちぶさたを解消する手っ取り早いアイテムとして重宝されたからだ。

「とりあえずガムのベースとなる植物性樹脂に甘味料と香料と着色料を加えればできる。この手軽さが参入社を増やしたのでしょう。当時の商品開発はミント、コーヒー、フルーツの3系統。まさに高度経済成長“前夜”の時期だったので、供給が需要を追いかけていたという構図です」

「需要を追いかける」企業活動として各社は供給に力を注いだわけだ。設備さえあれば、比較的たやすくできる製品であることも新規参入を後押しした。近田社長のいう3系統のうちでも特に各社が重視したのはフルーツ系の商品展開だ。ミント系、コーヒー系に比べて性別を問わず、幅広い年代から受け入れられたことが大きい。

「ガムは紙に包んで捨てましょう」は還暦

今回のコレクションはおおむね1963(昭和38)年~1968(昭和43)年ごろにかけて流通していた商品である。

取り上げるメーカーは12社。すでに廃業した企業や撤退した企業もある。デザイン面では、コスト低減策として、写真よりもイラストを使うケースが多い。品名は一まとめに「フルーツ」もしくは「ジューシー」と表記したものと「オレンジ」や「バナナ」のように、単品名を訴えたものとがある。

詳しくは次章で触れるが、高度経済成長期はその勢いを裏付けるように「懸賞」がブームとなった。その流れは当然、ガムにも及び、複数社が包み紙で懸賞への応募を呼び掛けている。しかし、1971(昭和46)年2月には加熱する懸賞ブームを抑えるため「景品類の提供の制限に関する公正競争規約」が施行された。

また、今日も続いている、マナーに対する注意喚起策「ガムは紙に包んで捨てましょう」という表示は1961(昭和36)年に始まった業界の主体的な取り組みである。人間に例えるなら「還暦」超えの歴史を重ねているわけだ。今回のコレクションでも国産のすべての包み紙で確認することができる。その表現は各社各様だ。

各社の代表的商品22選

フルーツ系もしくはジューシー系を謳(うた)う各社の代表的商品の包み紙を紹介する。スペースの関係で1社2製品までとした(社名の五十音順。社名は発売当時のもの)。

井村屋製菓「みかんガム」「アプリコットガム」

「みかん」はテキストのみのシンプルさ。商品名、発売元、注意書きで構成する。ベース色にオレンジを使い、白抜きで「みかん」を強調。「アプリコット」(杏=あんず)は全面的に当の果物の色を敷き、線画をあしらった。「酸味と香気を楽しむ若人のガム」というコピーが泣かせる。若人と書いて「わこうど」と読む。要するに、ヤング。包んだ時、裏面となる画面上部には姉妹品の案内も。

江崎グリコ「オレンジガム」「レモンスカッシュガム」

「オレンジ」は他社も揃えていた当時のテッパンアイテム。素材の写真を大きく取り入れた。裏面には細かな字で商品説明が躍る。「レモンスカッシュ」は「オレンジ」に比べるとロゴの存在感を前面に打ち出したデザインで写真の扱いが控えめ。デザインをめぐるなんらかの駆け引きが社内で起きたのだろうか。シリーズ商品に「●●サワーガム」や「ジューシィアソートガム●●」がある(●●は果物名)。

カンロ「バナナガム」「イチゴガム」

誤解を恐れずに書けば、非常に素人っぽいデザイン。言葉が過ぎるのであれば、手作り感覚にあふれている。「バナナ」も「イチゴ」も商品名のロゴは明らかに手書き。業界っぽく言えばレタリングですか。素材は写真ではなくイラスト。とりわけ「バナナ」は余白が多いように思われる。包んだ時、イラストの一部が裏面に回り込むのは計算の上か、設計ミスか分からない。でも、味わいはある。

キングトリス「ばななGUM」「パインジューシーガム」

「ばなな」の「文字合せ」に応募すると「純毛スカート地」や「高級婦人カーデガン」が当たる。当時流行していた懸賞ブームの具体例だ。憧れの品々を手に入れるために当時のご婦人はせっせと購入したのだろう。「パイン」は商品名のロゴとイラストとのバランスや配色などが「ばなな」に比べて洗練されているように思う。注意書きの「つゝんで」「くづかご」にレトロな雰囲気がにじむ。

日本生命「フルーツニッセイガム」

今回のコレクションの中で最も謎に満ちた物件である。第一に手がかりとなる素材名もイラストも表示されていないので、どんな味かが分からない。第二になぜ日生がガムを出したのか。「生活設計のプランナ日生」「年金のある生活 夢いっぱい」「保険のある生活 豊かな暮し」などの文言から察するに、OEMによる一種の販促物として使われたのではないかと思うのだが……。

バークレイズ「FRUITMINT」

目指すところは井村屋のみかんガムと同じだと思う。写真もイラストもなく、社名ロゴとタイポグラフィのみで構成。60年代の米国テイストが漂う。包んだ状態で見ると、ロゴと商品名と商品情報がよい塩梅(あんばい)で並ぶ。フルーツミントとしか書かれていないので、どんな味だったかは不明。黄色や橙(だいだい)色から想像すると、バナナとパイナップルとオレンジのミックス系か。

ハリス「チュチージュースガム」「ハイ・フルーツガム」

往年の国内ガム業界で人気、実力、商品力のいずれの面でもロッテと首位の座を争った名門、ハリスのフルーツ系アイテム。「チュチー~」の表面はタイポグラフィ主体のシンプルなデザイン。配色から風味はオレンジだろうと察せられる。「ハイ・フルーツ」は「南国の高級果実の果肉がタップリ入った」というコピー通り“南系”のフルーツのイラストがタップリ描かれている。ベースの爽やかなブルーが効いている。

明治「ジューシーガム」「パイナップルガム」

明治の製品は伝統的に縦位置レイアウトが多い。これもビジュアル面での差別化の一種であろう。「ジューシー」は滴(したた)るしずくのような図案で瑞々(みずみず)しさを演出。どのような風味であったか、記憶にない。「パイナップル」は非常に緻密な鉛筆画を採用。「フルーツガムア・ラ・モード」というシリーズの一つで、オレンジ、バナナ、グレープもラインアップされている。

森下仁丹「干しブドウガム」「レモンガム」

そう来たか!仁丹、という商品。圧が強い。単なるグレープでなく「干しブドウ」で“隙間”を攻めた。他社に類似商品はない。注目すべきは裏面の告知。ゴールドラッキー券が出たら御木本真珠ペンダント、シルバー券が出たらライターなどが当たる。「レモン」は切り口を見せた素材画像と商品ロゴというオーソドックスな組み合わせ。シンボルマークと相まって生真面目な企業イメージを感じる。

森永製菓「オレンジガム」「フレッシュフルーツガム」

「オレンジ」は断面から果汁の滴(したた)るイラストに商品名をかぶせるという典型的な構成。キングトリスと左右は異なるが濃色の帯で構図を引き締めている。シンボルマークを配することで「森永製品」であることを強く訴えている。「フルーツ」が何味かは分からぬが、フレッシュを添えたのが老舗の技か。「町を美しく…」で始まる注意書きはここだけ。

リリー「夏みかんガム」「ジューシイガム」

みかんやオレンジではなく「夏みかん」をぶつけてきた。この案の採用を決めた営業会議はさぞ盛り上がったのではないか。裏面の告知によると「幸運券サービス」で銀ラベルが出ると爪切りやコイン入れ、金ラベルだと18金ネックレスが当たる。「ジューシー」でなく「ジューシイ」の表記に格別の思いがあるのだろう。画面構成はシンプル。配色から推すとオレンジかバナナの風味ではないか。

ロッテ「オレンジガム」「ジューシイミントガム」

「オレンジ」はイラストと英文商品名の組み合わせによる爽やかなデザイン。単品でありながら合計3個の大盤振る舞い。しかし、コピーに謳われている「さっぱりしたタッチ」のニュアンスがやや伝わりにくい。「ジューシイミント」はリリーと同様の表記を採用。業界の好敵手、ハリス製品を意識したのか代表的なアイテムがずらりと並ぶ。「●●ミント」という命名も当時の流行であった。

その後のフルーツ系板ガム

高度経済成長の波に乗って、文字通り一気に市場を広げた板ガム。しかし、現在、板ガムの世界では時として戦国時代に例えられることもあった、かつての勢いはない。前出・近田社長によると理由は3つある。

第一に手持ちぶさたの解消策がスマホいじりに移ったことで板ガムを噛むという習慣そのものが廃(すた)れた。第二に食品衛生法をはじめとする法規制の強化で人工甘味料や着色料、香料などの使用が厳しくなった。第三に本物志向や機能性を求める消費者の要望を満たすことが難しくなった……。

スマホの登場、厳しい法規制、本物志向ーー。いずれも、かつて板ガムの市場拡大を飛躍的に促した高度経済成長がもたらした「負」の側面とは言えまいか。高度経済成長は大量生産ー大量消費の循環に支えられていた。そのメカニズムが「正」の向きに働いていれば成長は続く。しかし、ひとたび「負」の方向に向かうとどうなるか……。板ガムの盛衰は時代の大きな流れに潜む世の中の仕組みの厳しさを垣間見せてくれたようにも思える。

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書いた人

「新聞記者、雑誌編集者を経て小さな編プロを営む。医療、製造業、経営分野を長く担当。『難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを愉快に、愉快なことを真面目に』(©井上ひさし)書くことを心がける。東京五輪64、大阪万博70のリアルな体験者。人生で大抵のことはしてきた。愛知県生まれ。日々是高血圧。」

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大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。

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