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Culture
2021.01.31

絵本『えんとつ町のプペル』の世界をエンターテイメントに!地元、川西市民が見た挑戦の軌跡

この記事を書いた人

漫才コンビ『キングコング』のツッコミ役として知られる西野亮廣(にしのあきひろ)さんは、2009年から絵本作家としても活動しています。2016年に刊行した『えんとつ町のプペル』は、絵本としては異例の55万部を超えるベストセラーになりました。

2020年12月には、絵本を元にした映画が公開されて話題になっています。炎上芸人という異名を持つ西野さんに対して苦手意識を持つ人も、まだまだいるかもしれません。西野さんの出身地である兵庫県川西市在住者ならではの目線で、映画化までの課程を紹介してみたいと思います。

清和源氏発祥の地・多田神社で光る絵本展開催

私が絵本『えんとつ町のプペル』と出合ったのは、2018年に市内の多田神社で開催された展覧会がきっかけでした。清和天皇のひ孫で、清和源氏の祖となった源満仲が、神社の前身である多田院を建立したと伝えられている歴史ある神社です。展示場所は、普段入ることができない政所殿が使われていて、苔むした庭を通って会場に入るという趣を感じるものでした。

薄暗くした会場内に絵本の原画を展示して、後ろからLEDの光を当てて幻想的なムードを醸し出す演出です。神社と絵本展はミスマッチなのではと見るまでは思いましたが、実際に見学すると、純和風の建物と調和していました。主催した実行委員会のスタッフの温かみのある対応も好印象で、長蛇の列の順番待ちでも文句を言う人もなく、なごやかな雰囲気でした。

川西市内を走る能勢電鉄では絵本のシーンを施したラッピング電車が運行し、1万5000人以上もの来場者で賑わったと言います。静かな地方都市での、予想を上回る盛り上がりを感じた出来事でした。

JR川西池田駅前にある源満仲像

絵本とリンクした満願寺の個展

多田神社の展示の1年後には、同じく市内の満願寺で新作絵本の個展が開催されます。絵本『チックタック~約束の時計台~』の舞台に描かれた満願寺を会場にすることで、来場者に絵本とリンクした世界観に浸ってもらう試みでした。この個展は西野さんが関わり、照明デザイナーなどプロスタッフや、ボランティアスタッフが協力して手がけました。

屋外に設置した絵本の原画が光るだけでなく寺や周囲の森林も光る演出で、寺全体を会場に見立てたユニークなものでした。町中ではなく高台の場所にも関わらず、3万人以上もの人が来場して話題を集めました。今も伝説の催しと言われています。

クラウドファンディングで叩かれる作者と遭遇

多田神社や満願寺の個展開催には、クラウドファンディングのシステムが利用されていました。クラウドファンディングとは、クラウド(群衆)とファンディング(資金調達)を組み合わせた造語です。起案者はネット上で「プロジェクト」を立ち上げて「支援者」を募集します。そして出資してもらった対価として支援者へリターンを渡すという仕組みです。コロナ禍の現在、利用する人や団体が増えていますが、当時はまだこのやり方が認知されていませんでした。

売れっ子お笑い芸人から独学で絵本作家を目指した西野さんは、2013年にニューヨークで個展を開催する時に、いち早くクラウドファンディングを利用しています。今では信じられませんが、そのために激しいバッシングを浴びていました。よくわからないやり方で事業を展開する、うさんくさい人という見方をされていたように思います。

私は絵本の絵の美しさとストレートな内容に惹かれていましたが、あまりに世間の風当たりが強いので、きっと本人はアクの強い人なのだろうと勝手に想像していました。そんなことを思っていた頃、能勢電鉄の車内で偶然に西野さんを見かけたのです。

乗客はまばらで、のんびりとした空気が流れる平日の昼下がり。入り口近くに立って、下を向いて携帯をいじっている物静かそうな男性が、絵本の作者だとは気づきませんでした。降車する時に、「あっ、そうだったんだ!」とわかるほどの自然体の佇まい。私以外に気づいた人はいなかったようでした。特に変装する訳でもなく、肩すかしをくうほどに普通の印象。何だかめちゃくちゃ叩かれているイメージと合わないなぁと思ったのを覚えています。

絵本の世界観をコンセプトにした「Candyえんとつ町店」

西野さんの絵本作家活動と縁の深い川西市ですが、市内には絵本ファンが訪ねたくなるお店があります。能勢電鉄滝山駅から徒歩すぐの「Candyえんとつ町店」は、絵本『えんとつ町のプペル』の世界観をコンセプトにしたcafe&barです。2021年1月にはオープンして2年を迎えました。「私達夫婦は、多田神社の個展開催のスタッフで川西市に来たのが縁で、この場所で店をやることになりました」と、店主の三浦秀明さん。

店主の三浦秀明さんと陽子さん

西野さんのイベントや自宅のリフォームも担う空間デザイナーで建築家の只石快歩(ただいしかいほ)さんが手がけた、外観のえんとつや提灯。そして店内の照明やディスプレイの1つ1つにも、こだわりが感じられます。「サラリーマンだったのですが、早期退職をして、退職金を使ってこの店を始めました」。近所の子ども達が学校の帰りに覗いたり、顔馴染みの年配の女性が立ち寄ったりと、地域の人達の憩いの場所として親しまれています。

アンチに対しても寄り添う映画『えんとつ町のプペル』

映画『えんとつ町のプペル』は、絵本を元にした内容ですが、「絵本制作の段階から映画化を考えていた」と、西野さんはインタビューで語っています。

絵本作家のスタートは、1人で0.03ミリのボールペンで描いた白黒の作品『Dr.インクの星空キネマ』でした。4作目の絵本『えんとつ町のプペル』からは、分業制で制作されています。自分が思い描くカラー作品を作るのにはその方が良い作品になるからという、画期的な手法だったのです。しかし、このやり方に対しても、反発が大きかったように思います。

絵本では、煙に覆われて人々が見上げることを忘れたえんとつ町に暮らす少年と、ゴミから生まれたゴミ人間の友情が物語の中心でした。映画では絵本には登場していなかった父親と、少年ルビッチの絆がより明確に描かれています。またルビッチや、ゴミ人間・プペルに対して辛く当たる人物の心の動きも、丁寧に描写しているのが印象的です。

「西野さんは人から叩かれたことで強くなった気がします。叩かれることで、叩く人の気持ちもわかるようになったんじゃないでしょうか」と三浦さん。人に馬鹿にされても、煙に覆われた町の向こうには星があると信じるルビッチ少年は、西野さんの分身なのでしょう。

地方の町を生かす美術館の構想

西野さんは地元川西市で、2022年春に『えんとつ町のプペル美術館』完成を目指して動いています。今までの常識を覆してきた作家らしく、絵本や映画のイラストが展示されただけの美術館ではないようです。「飾ってある絵を”ただただ”歩いて観てまわるだけでなく、『体感できる美術館』にするつもり」と、西野さんはインタビューで語っています。美術館を作ることで雇用が生まれ、地元が継続して活性化することを視野に入れた、新たな挑戦です。

Candyえんとつ町店基本情報

住所:兵庫県川西市滝山町5-11
バータイム:17時~22時
バー定休日:不定休
◎2021年2月7日まで、兵庫県緊急事態宣言発令に基づく時短営業を行っています。
バータイムは20時まで(アルコール飲料の提供は19時まで)
※2月8日以降の詳細は、公式ウェブサイトで確認下さい。

公式ウェブサイト

『映画えんとつ町のプペル』公式サイト

参考文献:『えんとつ町のプペル』にしのあきひろ著 株式会社幻冬舎発行 『別冊カドカワ』向井知大編集 株式会社KADOKAWA発行

記事内写真:撮影協力・Candyえんとつ町店
アイキャッチ:『映画えんとつ町のプペル』ポスターより

書いた人

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。十五代目片岡仁左衛門ラブ。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。