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2021.03.11

え?そんな昔からあったんだ!「あいうえお五十音図」意外と知らない歴史に迫る

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日本人なら誰しも使う、「あいうえお」に始まる日本語。それらをまとめた五十音図は、幼稚園や小学校などの国語の授業に使われるし、私たちにとって馴染み深いものだ。

うんうん、国語の授業はじめの一歩、みたいな感じ。

ところで、2020年秋に仕事の関係で、石川県加賀市の山代温泉(やましろおんせん)を訪れた。この地で平安時代後期に明覚上人(みょうがくしょうにん)という天台宗の学僧が、現代の「あいうえお五十音図」の原型を作った人物の一人と言われていることを知った。

え? あいうえお、ってそんなに前からあるんだ!

そういえば、どうして五十音図は作られたのだろう?そんな疑問がふつふつと湧き上がってきた。日本人なら誰もが知る五十音図の知られざる裏ストーリーに迫る。

気になる!

書き言葉が整備された歴史的背景

五十音図の話に入る前に、まずは奈良時代から平安時代にかけての歴史的背景について触れておく必要がある。この時代は鎮護国家思想とともに仏教が日本全国に普及したこともあり、仏教とは何かを中国(唐)に渡ったり、文献を読んだりして学ぶことも盛んに行われた。例えば、中国(唐)で仏教を学んだ人物の一人として、真言宗を広め高野山金剛峰寺を開いた空海(774年-835年)がいる。空海は仏教経典をサンスクリット語の原本まで遡り学んだ上で、その教えを日本人が理解しやすいように再構築を試みた。

サンスクリット語の原本! 読める日本人も少なかっただろうし、今の私たちが英語を勉強するより大変そう。

このような過程において、言語を研究し日本人が理解しやすい書き言葉を整備していく必要があったと言えるだろう。

サンスクリット語(子音字母)の解説(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)

一方で、遣唐使の廃止(894年)などの政治的な要因もあり、日本がこれまで唐から学んできたことを昇華して新しい時代の流れを作らねばならないという機運は高まっていた。文学の世界では、『古今和歌集』や『源氏物語』、『枕草子』などの日本文化の形成に大きな影響を及ぼす作品も生まれた。

古典の授業で必ず習う作品たちですね!

このように、様々な歴史的背景の元で、書き言葉は整備されていったのだ。

ひらがなやカタカナの成立

それではなぜ、日本独自の文字である「ひらがな」や「カタカナ」が成立したのかという話である。大陸から漢字が伝来して以来、それを書き言葉として整備していく中で、日本人の話し言葉をそのまま表現できない場合も多かった。そこで、漢字の意味とは別に音だけ借りてできたのが「万葉仮名」という当て字である。ただ、「万葉仮名」は種類が多くて複雑だったので、もう少し簡単に書き表すために、平安時代初期に生まれたのが「ひらがな」と「カタカナ」だった。

仮名さんたち、いつもお世話になっています。

まず「ひらがな」は、漢字の草書体をデフォルメして作られた。例えば、「安」が「あ」、「以」が「い」などと変換されたのだ。これらは和歌や日記、物語を書くときなどに、女性が好んで用いたとも言われる。

そういえば、形がちょっと似てる。

一方で「カタカナ」は、その多くが漢字の一部を抜き出す形で作られた。例えば、「ア」という音に対応する文字を書くために、「阿」という漢字のこざとへんの部分を抜き出して「ア」と書き表した。これらは男性が仏教の経典や漢文を読むときに注を付けるようにして用いたとも言われる。

そうだったのか!

あいうえお五十音図の成立

これらの書き言葉が整備されていく中で、学僧たちが「カタカナ」を主に用いて作ったのが五十音図である。江戸時代までは「五音」または「五音図」などと呼ばれていた。ここでは平安時代に作られたものの一部をご紹介する。

ん? 1つじゃなかったってこと?

『孔雀経音義』に掲載された五十音図の原型

まずは、五十音図の原型として、11世紀初めに成立した醍醐寺蔵『孔雀経音義(くじゃくきょうおんぎ)』に掲載されたものがある。ただし、この時には四十音しかなかったようで、それを抜き出すと以下のようになる。

キコカケク,シソサセス,チトタテツ,イヨヤエユ,ミモマメム,ヒホハヘフ・ヰヲワヱウ,リロラレル

へええ! 今と全然違う!

これを見る限りでは、今日私たちが使っている「あいうえお」の「あ」の文字などが見られず、あくまでも原型という理解が正しいだろう。

『金光明最勝王経音義』に掲載された五十音図の原型

その後、奈良の西大寺で1079年に書かれた『金光明最勝王経音義(こんこうみょうさいしょうおうきょうおんぎ)』にも五十音図の原型が示されており、そこにはきちんと五十音が出揃ったものが2パターン掲載されている。

2パータンも!

1つ目

ラレロルリ ナネノヌニ マメモムミ アエオウイ ワヱヲフヰ ヤエヨユイ ハへホフヒ タテトツチ カケコクキ サセソスシ

2つ目

ラリルレロ ワヰフヱヲ ヤイユエヨ アイウエオ マミムメモ ナニヌネノ ハヒフヘホ タチツテト カキクケコ サシスセソ

2つ目のパターンは、アカサタナ…の順番ではないものの、アイウエオ等それぞれの5音の並びは、今の五十音図にもかなり近いことがわかる。

本当だ!

『反音作法』に掲載された五十音図の原型

その後、1093年に明覚上人が著した『反音作法(はんおんさほう)』には、さらに今日の五十音図に近いものが掲載されている。

(引用記号省略, 「山口 謠司, 『日本語の奇跡』, 新潮社, 2007年」を元に本記事の筆者が作成)

初めのアイウエオの5文字は同じ行のなかで共通する音の響きを共有している。例えば「カ」という発音を分解すると「k+a」となるし、「ヤ」を分解すると「y+a」となる。つまり、「ア(a)」の行は全て「ア(a)」の音の響きを共有しているというわけだ。

一番上を横に読んでいくと……ぜんぶ「あ」の響きが入ってる!

なぜ、僧侶たちはこの子音と母音(kとaなど)の組み合わせによる音韻体系を発見できたのだろうか。中国には漢字の読み方を漢字で示す「反切(はんせつ)」という考え方があり、それを利用したとも言われている。例えば、「東」という漢字の反切は「徳紅」だった。

全然わからない~……。

しかし、日本人はこれを読むことができないので、反切を片仮名で表した。例えば「カ」という発音は上記のように「k+a」という響きになるわけで、この頭音と韻とをそれぞれ列と行として、グラフの縦横の交点を求めるように配置していったというわけだ。

む、難しい! けど、反切よりずっと分かりやすい!

五十音図ゆかりの地で歴史を辿る

ところで、五十音図の原型を作った一人ともいわれる明覚上人ゆかりの地が、今の石川県加賀市山代温泉という場所。明覚上人は比叡山で天台教学を学んだのち、この地にある薬王院温泉寺の住職となった。

現在の薬王院温泉寺の入り口

冒頭でも述べたように、私が五十音図に興味を持った理由は、2020年秋に山代温泉に滞在した時に、たまたま明覚上人が作ったと伝わる五十音図について知ったからだった。ちょうどその時は紅葉のシーズンで、薬王院温泉寺の木々は鮮やかに色づき、静かでゆったりとした空気感が漂っていた。

紅葉を眺めて、ゆったり温泉。まさに極楽ですね~。

一方で、山代温泉の総湯に入ると、地域の方々が和気あいあいと世間話をしていて、自分も番台のおばちゃんに話しかけられた。明覚上人が生きた時代のことを正確に知ることは難しいが、このような環境の中で、仏教を広めることによる暮らしの平穏と、言語研究の必要性を肌で感じ取っていたのかもしれない。

石川県加賀市・山代温泉の景観

今では、明覚上人の功績を観光促進に活かそうという動きもある。薬王院温泉寺の裏手には、アイウエオの小径という五十音の文字がはめ込まれた階段があり、その先には明覚上人供養塔が整備されている。

アイウエオの階段のぼり、楽しそう!

また、山代温泉観光協会の主導で五十音図や明覚上人をテーマにしたまち歩きツアーや、あいうえおに関する謎解きイベントなども開催されるようになった。観光などを通して、まだ広くは認知されていない五十音図の歴史を辿ることは、とても奥深くて発見に満ち溢れている。

五十音図の歴史と温泉を楽しみに、ぜひ行ってみたい!

・参考文献
山口 謠司, 『日本語の奇跡』, 新潮社, 2007年
馬淵 和夫, 『五十音図の話』, 大修館書店, 1993年

・参考リンク
https://yamashiro-spa.or.jp/aiueo1/(山代温泉観光協会 HP)

書いた人

千葉県在住。国内外問わず旅に出て、その土地の伝統文化にまつわる記事などを書いている。得意分野は「獅子舞」と「古民家」。獅子舞の鼻を撮影しまくって記事を書いたり、写真集を作ったりしている。古民家鑑定士の資格を取得し全国の古民家を100軒取材、論文を書いた経験がある。長距離徒歩を好み、エネルギーを注入するために1食3合の玄米を食べていた事もあった。

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人生の総ては必然と信じる不動明王ファン。経歴に節操がなさすぎて不思議がられることがよくあるが、一期は夢よ、ただ狂へ。熱しやすく冷めにくく、息切れするよ、と周囲が呆れるような劫火の情熱を平気で10年単位で保てる高性能魔法瓶。日本刀剣は永遠の恋人。愛ハムスターに日々齧られるのが本業。