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2021.08.06

人にやさしい建築は、猫に限りなく近い「日本人」を体現している。隈研吾「ネコの5原則」とは

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クマさんはネコが好きだった?! 

えっ、うそぉ〜!

いや、ホントなんです。建築家の隈研吾さんは、ネコに建築の極意を学んでいるらしいことが、東京国立近代美術館で開かれている『隈研吾展』で明らかになったのです。これには、ネコ好きのつあおとイヌ派のまいこもびっくりしました。

ネコ派の鳩もびっくりです!

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。本日のトークは、まいこが実際に訪れた隈建築の感激体験から始まります。

雲の上に突然天上の世界が現れた

つあお:隈研吾さんの建築は今国内外で大人気らしいですよ!

まいこ:コロナ禍の前の話ですが、旅行に行くと先々に何かしら隈研吾さんの建物がある。それくらい隈さんの作品にはよく遭遇します!

つあお:ほぉ! たとえば、どこで?

まいこ:一番最近行ったのは、富山市ガラス美術館です。建物全体がガラスのアート作品のようでした。『TOYAMAキラリ』​​という施設の中に入っていて、隈さんが全体を手掛けているのだとか。図書館なんかも入っていて、素敵です。

『TOYAMAキラリ』(2015年、富山市)模型/『隈研吾展』(東京国立近代美術館)会場風景
美術館、図書館、銀行、店舗、カフェが併設されている。

つあお:へぇ。大きな施設なんだ。すごそう! ほかには?

まいこ:3年ほど前に行った高知県梼原町がとても印象に残っています。

つあお:「町」全体? この展覧会に模型が出品されている『木橋ミュージアム』がそれですか?

まいこ:そうです。『木橋ミュージアム』は『雲の上のギャラリー』とも呼ばれていて、梼原の隈さんのプロジェクトのシンボル的な存在なんです。私はまさに、それを目指して行ったんですよ!


『梼原 木橋ミュージアム』(2010年、高知県高岡郡梼原町)模型/『隈研吾展』(東京国立近代美術館)会場風景

梼原町の『雲の上のホテル』(1994年)と温泉施設『雲の上の温泉』をつなぐ木製の橋。同展の図録によると「木の耐久性を高めるために橋の上に屋根を架けることで、通行だけでなく、展示やイベントにも使える複合機能の橋となった」という。なお、『雲の上のホテル』は10月から建替え工事が始まる。『木橋ミュージアム(雲の上のギャラリー)』も工事中は立ち入りができず、外から眺めることになるとのことだ。

つあお:「雲の上」ですか! 天上の世界! 高い場所にあるんですね。

まいこ:そう。だから「木橋」が重要な役割を果たすんです。

つあお:なんだか「木橋」の模型を見ていると積み木を複雑に組み合わせてる感じですが、実際はどうなっているんですか?

まいこ:実物は巨大なので、逆に積み木のような感覚とは違うかもしれません。真ん中で支えてる一本の柱の下に立つと、上に巨大なきのこの裏みたいな屋根が広がってる感じなんですよ!

つあお:この橋の足元辺りに立てるんだ! すごい。模型を見ながら、どんどん想像したくなっちゃう。

まいこ:私も、写真で見たときにすごそうだなと思って、実際に訪れてみたんです。

つあお:もう一つ質問。模型を見ていると木の迫力に圧倒される感じですけれども、実際はどうですか?

まいこ:雲の上に突然天上の世界が現れたような感覚です! 島根県にある古代の出雲大社。確か昔はすごい高さの階段があったと聞いてます。そんな感じの階段で空に昇っていくみたいな感覚でした。

私も雲の上のホテル、泊まったことあります!

下から見上げた『木橋ミュージアム(雲の上のギャラリー)』  撮影:まいこ
※本写真は、『隈研吾展』(東京国立近代美術館)では展示されていません。

つあお:Wow。ホントに「雲の上」みたい!

まいこ:ずいぶん見上げるところにある長い屋根付きの廊下も歩くことができるのです。『木橋ミュージアム(雲の上のギャラリー)』の先には、ホテルもあるんですよ!

つあお:へぇ。隠れ家ホテルみたいで、楽しそう!

まいこ:ですよね! まずは、廊下があまりにもフォトジェニックだったので、一番端から向こうに立って撮影したり。ホントにいっぱい写真を撮ったんですよ!

『木橋ミュージアム(雲の上のギャラリー)』に立つまいこ
絵になるまいこさん!

つあお:やっぱり、木の建築だからこそ雲の上にあるって感じなんですかね?

まいこ:周りも木と土に囲まれていますし! とにかく現実の世界からは離れて、ナチュラルに神聖な気分にもなります。

気がつくと3階にいる図書館

つあお:天上の世界をつくってしまうなんて、隈さんすごい! この町のほかの建築はどうだったんですか?

まいこ:どれも素晴らしかったですよ! 実は町なかに隈さんの建築物がたくさんあって、中でも図書館が楽しかったですね。

つあお:をを、『雲の上の図書館』って呼ばれてるんだ。

まいこ:この建築も、ただものではないんですよ!

つあお:どんなふうに?

まいこ:積み木みたいな感じで建物が段々状になってるんですけど、階の区別が分からないようにゆるやかにつながっているんです。

つあお:建物は、先ほどの木橋とつながっていたりするんですか? それとも全然離れた場所にあるのですか?

まいこ:離れた場所にあります。ほかにも、隈さんが設計した道の駅とか町役場とかが点在してるんです。

つあお:それはすごい。隈さんの町っていう感じですね。

まいこ:そうなのです! 町に着いたときには、まずそこに驚きました。町まるごと隈さんだったから。

つあお:図書館や道の駅も雲の上みたいな感じなんですか?

まいこ:図書館には、『雲の上のギャラリー』とは違った意味で雲の上の浮遊感を感じました。


『雲の上の図書館』(2018年、高知県高岡郡梼原町)の外観と内部 撮影=まいこ
※本写真は、『隈研吾展』(東京国立近代美術館)では展示されていません。

つあお:へぇ。そんなところで勉強してると、何か新しい発見とかしそうだなぁ。

まいこ:つあおさん、出かけたら発見しまくりですよ! まず靴を脱いで上がる。そんなところからして、発想が急に開かれちゃうかも!

つあお:それはいい。靴を脱ぐ日本の文化って、結構ばかにできないなぁとかねがね思っていたんです。でも普通、図書館ではそういう例はあまりないと思う。

まいこ:貴重な日本文化ですよね。自由に動き回るのにも適してます。子どもたちと一緒に縦横無尽に動き回って、気がつくとゆるやかにつながっている3階のほうにいたりするんですよ。

つあお:それだけ、自然に動き回れるんですね。多分足の裏で木の床を感じるっていうのも、実は、大人にも子どもにも自然で楽しいことなんじゃないかなぁ?

ネコは縦横無尽

まいこ:きっとそうです! それで、変わったものが目に入ると迷わずそっちに向かって行っちゃったりします。ひょっとしたら、つあおさんの好きなネコもそんな感じなのかな?

つあお:ふふふ。ネコはそもそも縦横無尽ですからね。

まいこ:この展覧会では、隈さんはネコからいろいろなことを教えてもらったと言ってますよね。

つあお:まず展覧会のタイトルに並んだ文言がすごいですよね。「新しい公共性をつくるためのネコの5原則」ですから。

ネコの5原則??

『隈研吾展』(東京国立近代美術館)会場入口

まいこ:ここからは、ネコの気持ちがわかるつあおさんにいろいろ教えてもらわないと!

つあお:いや、実はネコの気持ちはよく分かりません。でも、勝手気ままなところにいつも憧れています。

『隈研吾展』(東京国立近代美術館)で上映されている映像作品より

まいこ:隈さん建築は、その憧れを実現させてくれるような場所なのかな〜?

つあお:何せ、ネコの動きを丹念に観察して、CGで軌跡を描いたり、その軌跡の立体模型を作って展示したりしてますもんね。画期的な建築展だと思いますよ!

『隈研吾展』(東京国立近代美術館)で上映されている映像作品より

映像展示の近くには、軌跡の立体模型があった。

まいこ:軌跡をたどっているのは、神楽坂(東京・新宿区)で散歩するネコたちですよね?

つあお:そうみたい。たわくしの家の近くでもよくネコが散歩してますけど、まさに神出鬼没なんですよね。

まいこ:穴や隙間などいろんなところに入っちゃうからでしょうかね?

つあお:確かに箱があったら入っちゃうし、よくこんな細いところから出てこれるなぁというようなところからでもいきなり出現したりしますし。びっくりぽんですね!

まいこ:そう聞くと、今まで入った隈さんの建物で私は、意識しないでそんな動きをしてたような気もします!

つあお:ハハハ。ブラボーです。ネコになることができましたね!

まいこ:あと、隈さん建築の中では、上からも下からもみんなが見えるっていうのも楽しかったですよ。ネコも意外と私たちをいろんなところから見てるのかもですね!

つあお:確かに、ネコって高いところも低いところも動き回っているから、すごく多様な視点を持っているといえそうだにゃあ。

まいこ:それにしても「ネコの5原則」って何なんでしょうね!

つあお:それが建築の原則なんですもんね。きっと隈さんの本質なんです。「屋上庭園」「自由なファサード」などル・コルビジュエの提唱した「近代建築の5原則」になぞらえるような形で唱えているのですが、もちろんまるっきり違う内容。「やわらかい」とかがあって楽しいです。

新しい公共性をつくるためのネコの5原則

孔 HOLE
粒子 PARTICLES
やらわかい SOFTNESS
斜め OBLIQUE
時間 TIME

テキスト 隈研吾
(引用元:『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』図録)

「近代建築の5原則」=近代建築の発達に大きな影響を与えた、ル・コルビュジエが設定した近代建築の5つの原則。1927年、アルフレッド・ロートの『Zwei Wohnhäuser von Le Corbusier und Pierre Jeanneret』の序文にて初めて発表された。20年代から30年代にかけて、ル・コルビュジエはこの5つの要素、「ピロティ」「自由な平面」「自由な立面」「独立骨組みによる水平連続窓」「屋上庭園」を発展させていくことになる。(引用元:artscape『アートワード』より「近代建築の5原則」

まいこ:四角くて硬い西洋 VS ジャパンオリジナルネコ仕立てって感じ?

つあお:ネコのモフモフ万歳!

まいこ:日本人がネコに似てるっていうのは本当ですか?

つあお:ちょっと不思議ですよね? まぁ、今はコロナ禍で殺伐としてますけど、日本人って意外と勝手気ままに生きてきた部分があるんじゃないかなぁと思ってます。隈さんはそこの本質を捉えているのでしょう。

まいこ:さっき出てきた「神出鬼没」とか、自由自在な動きが、結構コロナ時代の救いだったりするのかも!

つあお:やっぱりネコには共感するところが多いなぁ。歌川国芳とか藤田嗣治(レオナール・フジタ)とか、みんな「ネコ命」で絵を描いてますし。

まいこ:私はイヌ派なので、その辺の気持ちがよくわからなかったんですけど、この展覧会を見てから、自転車で街を気ままに走り回ったり、気になった場所にフラりと立寄ったりしてると、実は自分がネコっぽい動き押してるような気もしてびっくりしました。

つあお:をを! まいこさんもやっぱり日本人だったんだ。

まいこ:よかった~!

まいこセレクト

『V&A ダンディー』(2018年、英国)模型/『隈研吾展』(東京国立近代美術館)会場風景

目が覚めるような美形と、テイ川とのコントラストに一目ぼれ!
コロナ明けにいち早く訪ねてみたい場所!

つあおセレクト

『アオーレ長岡』(2012年、新潟県長岡市)模型/『隈研吾展』(東京国立近代美術館)会場風景

屋根付きの中庭が市民の交流を図る広場として機能する「交流型市役所」なのだそうだ。長岡駅にほど近く、街の中心部にある。役所が単に手続き等のために訪れる場所ではなく住民が集える場所になっている点が素晴らしい。

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。

Gyoemon『ネコの建築』

やはり理想はネコの建築でしょう! 足元には大きな孔があって原子という粒子でできていてもふもふにやわらかくて斜めのしっぽはすべり台になっていて、住んでいると時間から解き放たれます!

展覧会基本情報

展覧会名:隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則
会場:東京国立近代美術館(東京・竹橋)
会期:2021年6月18日〜9月26日
公式ウェブサイト:https://kumakengo2020.jp/

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

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我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。