「初めてフランスに来た日本アニメ」、「日本アニメの火付け役」、「ジャパンポップカルチャーの伝道師」。なんのアニメかわかりますか? フランス名は「ゴールドラック(Goldorak)」、日本では「UFOロボ グレンダイザー」と呼ばれています。
それでも、ピンと来ない方は「マジンガーZ」の3シリーズ目と聞いたら、少しイメージが湧くでしょうか。日本ではあまり馴染みがないけれど、フランスでは誰でも知っていて、今もなお絶大な人気を誇っています。日本でロボットアニメといえば「鉄腕アトム」、「鉄人28号」が先駆けとなり、「マジンガーZ」で更に飛躍したといわれています。そんな「マジンガーZ」の3シリーズ目が、製作45周年という節目にパリで続々とイベントが企画されています。なぜフランスでそこまで人気なのか、その秘密に迫ります。
フランス人が半世紀近く愛する「ゴールドラック」とは
2021年9月15日(水)から10月30日(土)まで、パリ日本文化会館で開催されている「Goldorak-XperienZ」展。いつもは雅な日本文化を紹介している落ち着いた館内とは打って変わり、熱気で賑わっていました。
この展覧会の主催者のジェレミー・セロン(Jeremy CERRONE)さんと、監修者のオリビエ・ファレー(Olivier FALLAIX)さんに、その魅力について伺いました。ジェレミーさんは日本の漫画やアニメを主としたイベント会社「PRIME PROD」を経営、オリビエさんはその運営に関わりつつ、アニメと漫画専門のジャーナリストもしています。この番組が放映され始めた1975年、ジェレミーさんは3歳、オリビエさんは9歳でした。ふたりともリアルタイムで番組を見て育ちました。当時から今までずっと「ゴールドラック」が好きで、そのアニメ愛から今の職業に就いたとも。
驚くことに、当時の年齢別視聴率では若者部門において70%という驚異的な数値を記録したそう。興味深いのが、当時の配給会社は放映権を購入したものの、それまでのアニメと一線を画すものであったため、放映を躊躇。そのため、夏のバカンス期間中、子どもが遊ぶのに忙しくあまりテレビを見ない時期に、ひっそりと放映されたのでした。ですが、その思惑とは裏腹に、たくさんの子どもたちを釘付けにし、人気が爆発。夏が終わっても人気は衰えず、追加放送を余儀なくされました。あまりの突然の大ヒットにグッズ生産が間に合わず、既にイタリアで生産されていたもので取り急ぎ対応したといいます。
日本では第1作目である「マジンガーZ」が有名ですが、なぜその3作目がフランスで人気かというと、フランスで初めて公開された日本アニメがたまたま「ゴールドラック」だったから。「マジンガーZ」も数年後に放映されましたが、既に「ゴールドラック」に慣れ親しんでいた人たちにとっては新鮮味がなく、そこまでのヒットにはなりませんでした。
親が見せたくないアニメだった
主催者のおふたりに「ゴールドラック」の魅力は何かと質問すると、「初めての教育的ではないアニメだったから! 親ウケは悪かったけれど、子どもからの支持は絶大だった」と口を揃えます。この熱狂的な人気は社会的な議論をも巻き起こしました。それは、子どもに見せるには暴力的すぎるのではないか、という意見。今回の展覧会では、当時の批判記事も展示されていました。
オリビエさんは「『Goldorak』の凄いところは、カッコいいロボットで子どもたちを惹きつけながら、愛、家族、環境問題などについても語られている点。そして、武士道に通じる礼節も」と話します。そんな彼の好きなキャラクターは、悪役の「ミノス(Minos、 日本名:ガンダル司令)」。正々堂々と闘い、必ずしも勧善懲悪ではなく、悪には悪の事情があるという点が好きな理由。
一方で、ジェレミーさんのお気に入りのキャラクターは、主人公の「アクトラス(Actarus 、日本語名:宇門 大介)」。その理由は、自らヒーローになりたくてなったわけではない、という点。出しゃばるのではなく、仕方なく引き受けたという控えめさが好きだといいます。そういわれてみると、日本的なヒーローですね。
この展覧会の中で、私が一番、面白いと思ったものは、実物大の操縦席モデル。これは、以前、イタリアのカーニバル用に作られたもののデータを、ジェレミーさんたちが交渉の末に取得し、再現できたものです。仏伊という欧州2カ国のファンたちの熱意の賜物!
フランス流「ゴールドラック」インテリアとファッション
展示をみていた方々に話を伺いましたが、ひとりに声をかけると横で聞いていた人たちが、次々と会話の輪に参加し熱い思いを語り合うという、今までに経験したことのない取材でした。そんな熱心なフランスのファンを紹介します。
フィギュアコレクションとインテリアの素敵な共存
まずは、「ゴールドラック」グッズコレクターのアレックスさんとエレーヌさんご夫妻。彼は自身のコレクションの一部を今回の展示に提供しています。奥様は、彼のたくさんのコレクショングッズに合わせて作った、素敵な飾り棚の写真を見せてくれました。「ゴールドラック」グッズが、オシャレに飾られていて、フランスならではのセンスを感じます。ロボットフィギュアとインテリアの共存という、日本ではあまり見られない発想です。
敬愛する父とオーダーメイドデニムジャケット
そして、会場でひと際目を引く、「ゴールドラック」のデニムジャケットを着ていたセゴレンさん。なんと、父であるブルーノ=レネ・ウシェ(Bruno-René HUCHEZ)氏は、日本で「ゴールドラック」を見つけて、フランスの放映権を取得された方でした。アニメは専門ではなく、全くの別件で日本出張していたところ、たまたま滞在中のホテルのテレビで見た「ゴールドラック」に釘付けに。あまりの衝撃に、すぐにフロントに通訳の派遣を頼んだところ、まさか子ども向けのテレビアニメを訳してくれと頼まれているとは思われず。タイトルと制作会社を知るためのやり取りに四苦八苦したという、ウシェ氏のエピソードを語ってくれました。彼女はフランス郵政公社勤務で、今回の企画のひとつ、記念切手の企画発起人でもあります。今は亡き父の「ゴールドラック」の切手を、ぜひ世に出したいと数年前から交渉されてきたそうです。
現代っ子も大好き「ゴールドラック」
また、親子連れもたくさん見かけたのですが、その中でも「ゴールドラック」の帽子が素敵だった8歳のポールくん。会場を何周もしている姿が印象的で声をかけました。「ロボットとか武器がカッコいいから大好き」だそう。展覧会で気に入ったものは、人型パネルと背景画。これはフランス人のイラストレーターによって描かれ、公式承認を得たものだそうです。当時のタッチや雰囲気はそのままに、フランス人の手によって高解像度で蘇った空間は圧巻でした。
「ゴールドラック」人気は現在進行形
なぜ今リバイバルなのか、という私の問いに、主催者のジェレミーさんは「『ゴールドラック』は過去のものではなく、現在進行形なのです。今までも定期的にグッズは販売され続けてきました」と言います。この展覧会では、当時の原画やセル画、グッズ以外にも、これから発売される関連商品のコーナーもありました。
まずは、2021年10月発売予定のフランス式漫画バンド・デシネ(Bande dessinée)。フランス人漫画家ザビエル・ドリソン(Xavier Dorison)氏とデニス・バジュラム(Denis Bajram)氏によって、シリーズ終了後の物語が描かれています。もちろん、原作者の永井豪氏も承認済み。その他にも、新作フィギュアの試作模型も展示されていました。そして、セゴレンさんが尽力した記念切手も。
10月28日には、本の発売を祝う大規模なイベントが、パリの歴史的コンサートホールGrand Rexで予定されており、フランス版主題歌のアニソンライブ、コスプレ大会なども企画されています。
この展覧会の中でフランスらしいと感じたのは、現代アーティストによるオマージュのアートコーナー。「ゴールドラック」の登場人物たちが、ポップな色使いで蘇ります。今でも、「ゴールドラック」を愛してやまない人たちがこんなにもいるのかと、驚きです。
私の周辺の、いわゆる一般的なフランス人たちに聞いても、「初めてみたときは衝撃だった」、「フランス人が初めて触れた日本文化」と、主に30-50代の人たちの間で幅広く支持されていました。また、自分が親になって子どもに見せている、という人たちも珍しくはなく、親子二代で楽しむ人たちも。フランス人の友人が、息子さんのお気に入りという「ゴールドラック」のぬいぐるみの写真を送ってくれました。
フランスには古いものを大事にする文化がありますが、アニメでさえ長い間、何回も何回も、繰り返し見続けるものなのでしょう。現代のフランスでのジャパンポップカルチャー人気の裏には、半世紀近くも前に「ゴールドラック」が影の立役者として存在していたのでした。日本アニメが世界進出した原点のひとつが、ここにありました。
施設名:パリ日本文化会館 (Maison de la Culture du Japon à Paris)
住所: 101 bis Quai Branly, 75015 Paris
営業時間:
日/月 休館
火-土 11:00-19:00
公式webサイト:https://www.mcjp.fr