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読み物
Gourmet
2022.02.02

鮒寿しでビール造っちゃいました!?滋賀・近江麦酒の「おもしろ美味しいクラフトビール」が自由すぎる【連載VOL.4 】

この記事を書いた人

滋賀県大津市堅田駅から車で10分ほど、琵琶湖に近い住宅街の狭い路地を進んでいくと、突如現れるウッディな小屋が、クラフトビールの取材で辿り着いた極小ブルワリー「近江麦酒」の本拠地です。

この小さなスペースから造り出されるビールのコンセプトはズバリ「おもしろ美味しい」。兵庫県出身の山下友大(ともひろ)さんと滋賀県出身の奥様、静香さんが生み出す、笑っちゃうようなネーミングのビールが今、地元を中心に大きなうねりを見せています。

発酵好きが転じて、おもしろ美味しいビールを造り、地元に話題をふりまく

プログラマーの仕事をしながら、長年、味噌、納豆、漬物、ヨーグルトなど、菌を育てて発酵食品づくりにいそしんできた友大さんは、結婚してからさらにその発酵熱に拍車がかかり、ぬか床の菌にいたっては50年もののタネをあちこちで集めてくるなど、自宅は実験室さながらの様相になっていったそうです。そんな中、奥様の買ってきたクラフトビールの美味しさにはまり、クラフトビール醸造に目覚めた友大さんは、遂にプログラマーからビール醸造家へと転身を遂げたのです。

とかっこよく紹介しようとしたら、「いえいえ、もともとフリーランスのプログラマーだったんで、収入も不安定だし、ビール醸造の方がまだましや、ぐらいのものだったんですわ(笑)。奥さんも『好きなことをやったらええやん』というタイプだったんで~」と、なんともゆる~いムード。そんな簡単にビール醸造家に? さすが、関西人!! 人生何でもありや!

笑えるネーミングだが、ビールの味は本格派

何でもおもしろがり夫婦の生み出すビールの特徴の一つが、地元素材を使ったおもしろビール。クラフトビールのラベルを見ると、目を疑うようなものが! 「鮒寿しで造ってみました」や「ヨウナシになった桃エール」、さらには「すももももエール すもももももももものうち」など、これが商品名? といったネーミングが並んでいます。しかしこれらすべてが本気の商品。その味わいの深さで、あっという間にソールドアウトになってしまうほど。さらに驚くのは、これらが自治体や地元の農家、商店街の方々から持ち込まれたネタであるというのです。

地域の資源を活かしたモノづくりを目指し、地域の良さを再発見する

――現在、近江麦酒では、滋賀の特産品を使ったビールを数多く造っていますね。中でもこの「鮒寿しでビール造っちゃいました」はどうやって誕生したのですか。

山下:野洲市役所の方から地元の名産の「鮒ずしでビールを造ってはどうか?」と提案があったんです。話題性を期待されていて、イベント用に樽で作りました。試飲会では、市役所の人や議員の方が「何飲まんすんや!」となったのですが、改良を加えていったら、どんどん美味しくなって。今では評判が良いので、受注生産で毎月作っています(笑)。

――まさかあの臭いがキツい~といわれている「鮒寿し」がビールの材料になるとは思いつきませんよね。そこもクラフトビールの面白さですね。他にはどんなものがあるのですか。

山下:郷土料理にも使われる蓼(たで)で、苦味の風味を活かしたビールができました。京都市山科区で栽培している「京山科なす」を使った「なすエール」は、麦芽にホップを入れる際、なすも投入するんですが、ビールなのに紫がかっています。クラフトビールは、いろいろな素材を組み合わせられるのが面白いところで、地域の食材を使用できるのがいいんです。

――まさにクラフトビールで地域興しですね! それが近江麦酒の特色にもなっているんですね。

山下:「鮒寿し」や「なす」がビールになるの?というように、ちょっと考えられないものを美味しくしちゃうのがうちのスタイルに合っているんだと思います。地元でしか捕れないセタシジミを煮込んだ後のスープを料亭に卸している企業から「これで造ったら美味しいで~」と売り込みがありました(笑)。確かにシジミは肝臓に良いんだから、シジミをビールに入れちゃえば、「身体にも良いビール」となるんじゃないかと(笑)。そこから、ウコンのビールを造ろうという発想にも繋がっていったり。

――本当に無限ですね! 今までに何種類ぐらい造られたんですか?

山下:60種類は越えています。地元の食材を使って、まだまだ新しい商品を開発中です。

――地域の強みを活かすことができるし、知らなかった町の魅力にも気づけそうです。その他、OEMもいろいろ請け負っているんですよね。

山下:今は20社ほど請け負っています。面白いクラフトビールを造るところがあると聞いて、売り込みに来てくれるんです。今、うちの人気商品となった「糀エール」も、最初はアメリカのビール会社に営業に行きたいから、サンプルを造ってほしいという依頼だったんです。それでいろいろ試作していったら、すごく美味しいビールが出来上がって、うちでも販売することにしたんです。

――今や主力商品となっているんですよね。あらかじめこんな味のビールを造ろうというよりは、この素材でどんなビールができるのかな? というイメージなんでしょうか。

山下:この20㎡ぐらいの狭い場所で、醸造を私とスタッフ(義弟)と二人でやっているんですが、その分、自由度が高く、いろいろ実験しながら造れるんです。失敗もあるんですが、時間が経つとそれがめちゃめちゃ美味しくなったりというように、いろいろと未知数の面白さがあります。

醸造スペースの小ささからナノブルワリーと呼ばれています。ステンレスのタンクの代わりに冷蔵庫を改造。秘密基地さながらです

――失敗作というのが気になりますが、どんなものがダメだったんですか。

山下:桃味で造ったエールが最初あまり美味しくなくて。うちは不合格となった時点で、全部廃棄するんですが、この時は少しだけ残しておいた桃エールに洋ナシを足してみたんです。そうしたらすごく美味しくなって。それで一度は用なしになった桃エールが復活したので、「ヨウナシになった 桃エール」という名前で売り出しました(笑)。

――本当に面白い! 失敗も成功の元になるという……。

山下:いや、本当に失敗作もありますよ(笑)。振って飲むジュースが人気なので、あれをビールでやってみようと、ゼラチン入れて作ってみたんですが、不味かった~。「よく振ってお飲みくださいビール」とネーミングも考えていたんですが(笑)。

――現在どのくらいの量を造っているんですか?

山下:年間で1万2千ℓぐらいですね。流行っている居酒屋さんが年間6千ℓなので、だいたい2件分ぐらいのビール量です。

併設したテラスでは、めちゃうまの唐揚げなど、ビールを使ったアイディア料理も楽しめる!

テラスではビールを使った料理を出そうと静香さんがお店を切り盛りしています。最近のヒットは、近江麦酒の「糀エール」に鶏肉を漬け込んで揚げる「からあげ」。外見がサクサク、中はジューシーで取材陣一同、食べた瞬間に唸ってしまいました。

山下:これもスーパーで買う普通の鶏肉を使って、こんなにも美味しいからあげができるという挑戦です。これは「糀エール」を使うのがポイントで、結局、自社商品を売るための戦略です(笑)。旗まで作って近江麦酒の主力商品として売り出し中です! 

山下:オニオンリングは、無水でスタウト(黒ビール)で練った小麦粉を衣にして揚げています。これもいろいろなビールで試したんですが、スタウトが一番美味しかったんです。

――確かに食べ応えも十分ですね。味も濃厚になって、玉ねぎの甘さとベストマッチでビールが進みます。アイスクリームとビールもめちゃくちゃ合いますね! 甘いものが苦手な人もこれなら食べられるし、味わい深いスイーツといった感じです。

アイスクリームにアフォガード代わりのスタウト(黒ビール)をかけるのがとってもおしゃれ

――最後に滋賀でビール造りをしていてよかったな~と思うことは何でしょうか。

山下:滋賀県は、鮒ずしをはじめ、セタシジミ、日吉茶、政所茶、桃、梨、キュウリ、ベリー、ブラックバス…と美味しくておもしろい食材がいっぱいあります。文化も歴史もまだまだ日々発見で、その都度商品化を考えてしまいます。そしてやっぱり「水」がいいのがありがたいです。あと、滋賀だからというわけではありませんが、関わってくださる方々に本当に恵まれていて、いいなー、ツイてるなー、楽しーなーと感じています。

地域の資源を活かしながら新たなブランドや特産品を生み出すことは市場開拓であり、観光促進にも繋がり、地域のPRにもなります。現在は、麦酒講座もスタートし、本格的に麦酒醸造を伝えていくことにも挑戦。参加する方たちからのアイディアで柿渋を使ったビールを醸造したとか。花花のミュージックビデオに出演したり、自分たちでyoutubeも始めたり、アイディアとチャレンジ精神の塊の近江麦酒は、まだまだおもしろいことを生み出してくれそうです。

近江麦酒

住所:滋賀県大津市本堅田3-24-37
公式ホームページ

併設ビアテラス

 
営業日:火水金日 12~18時  第1日曜日はビアサンデー開催
土曜日11~16時は、OSANPOカフェ @osanpo_smoothie

連載 滋賀県クラフトビール巡り

第1回 クラフトビール、今なぜ人気?滋賀・長濱浪漫ビールの若き醸造家に魅力を聞いてみた
第2回 「井伊の赤備え」をイメージしたレッドエールも!荒神山の麓でサステナブルなビール造り『彦根麦酒』とは
第3回 祭りをビールで表現!?滋賀県日野町の伝統を守るため、現代の三銃士がクラフトビールに挑む!

書いた人

旅行業から編集プロダクションへ転職。その後フリーランスとなり、旅、カルチャー、食などをフィールドに。最近では家庭菜園と城巡りにはまっている。寅さんのように旅をしながら生きられたら最高だと思う、根っからの自由人。