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2021.12.16

クラフトビール、今なぜ人気?滋賀・長濱浪漫ビールの若き醸造家に魅力を聞いてみた【連載No.1】

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ビールには飲む楽しさだけでなく、造る楽しさがある! そんな夢とロマンに満ちたクラフトビールが、各地で賑わいをみせています。第3次クラフトビールブームといわれる今、全国に大小500を越える醸造所があります。今回取材で訪れた滋賀県にも、特色のあるクラフトビール醸造所が次々と誕生しています。今、なぜクラフトビールなのか? 新たな市場へと切り込む若武者のようなブルワーたちの熱い思いに迫りました。

私、瓦谷登貴子と、北本とま子さんも同行しました~

秀吉が築いた長浜城下町に建つ滋賀を代表するクラフトビール醸造所

長浜駅から徒歩10分、羽柴(豊臣)秀吉が初めて城持ちとなった長浜城。碁盤の目に沿って造られたその城下町は、タイムスリップしそうな昔ながらの街並みが今も続いています。長浜城の外濠とされた米川沿いの一角に、江戸時代の米蔵を改装して造られたのが、滋賀県を代表する長濱浪漫ビール醸造所です。

周囲の景色とマッチしていて、素敵!

1994年の酒税法改正により、ビール醸造に必要とされる年間2,000キロリットルの製造数量が、60キロリットルにまで引き下げられたことで第一次クラフトビールブームが起こりました。その先駆けとなったのが、1996年に創業した長濱浪漫ビールでした。地域活性の一旦を担うべく、地元の人々の応援を受け、たくさんの人たちの夢を乗せて長濱浪漫ビールはスタートしたのです。

パイオニアだったのですね!

主力商品となっている「長浜エール」「伊吹バイツェン」「淡海ピルスナー」は、創業当初からマイナーチェンジを重ね、現在でも滋賀県のクラフトビール界をけん引する美味しさで注目を集めています。米蔵を改装した店内には、醸造所ならではの巨大な発酵タンクや貯蔵タンクが設置され、目の前で出来立てのビールがグラスに注がれていきます。このビール醸造所に併設したレストランで、地元の食材を一緒に楽しむことができるのが長濱浪漫ビールの売りでもあり、今では多くの観光客が訪れる名所となっています。

店内は仕切りが無く天井高いので、開放感があって居心地最高♡

しっかりとした苦味と柑橘系のフルーティな香りで深い味わいが楽しめる長浜エール(右)、小麦麦芽によるやわらかい酸味がさわやかな味わいの伊吹バイツェン(中)、チェコ産のザーツホップを使用して、フローラルな香りで軽くて飲みやすい淡海ピルスナー(左)

盛り上がるクラフトビールの魅力とは? 初心者でもわかるクラフトビール入門

しかし、これほどまでにクラフトビールが急成長した背景って一体何なのか。そもそもクラフトビールと市販のビールって何が違うの? といったクラフトビール初心者の私は、入社4年目の若き醸造家として活躍する上村雄大さんにド直球の質問を投げかけながら、クラフトビールの魅力を探ってきました。

余談ですが、この上村さんが、今や全国民のアイドルである大谷翔平君を彷彿させるさわやかなルックスで、取材スタッフ一同、試飲したビールの影響もあり、舞い上がりながらの取材となりました。

おそらく、床から数センチは浮き上がっていたような(笑)。

――量販店などで市販されているビールとクラフトビールの違いって一言でいうと何なのでしょう。

上村:一般に市販されているビールは、味の均一化を目指し、安定した美味しさを造り続ける技術と徹底した管理のもとで製造されています。一方、クラフトビールは、クラフトという名前がつくように、小規模の醸造所で造られる手作り感のあるビールです。日本の地酒にも似ていて、味も均一ではなく、自分たちが表現したい個性的な味を楽しめるものとなっています。僕たちはレシピと呼んでいますが、素材の組み合わせによって、それこそ無限の味わいが楽しめるのがクラフトビールの魅力といえます。

――大手メーカーで造られるビールもクラフトビールも原材料は、麦、ホップ、水、酵母なのに、そんなにも味に違いが出るのはなぜですか。

上村:クラフトビールは、原材料の調整や温度、時間など、それぞれのビールに合わせて細かく変えていきます。その結果、違った味わいのビールがいくつも出来上がるのです。さらに、いろいろなフルーツの果汁やフレーバーやスパイスを足して、ビールの概念を大きく変えています。うちではイチゴのピューレやマロンのピューレを入れた限定ビールを造っていますが、本来、ビールには何を入れてもいいんです。海外では昆虫が入ったビールもあるぐらいです。素材の選択肢が幅広いのがクラフトビールの面白さであり、それぞれの醸造所の個性が打ち出せる良さだと思います。

――フルーティなビールというのはよく聞きますが、なんと昆虫まで! でもそれぐらい可能性がいろいろあるということなんですね。滋賀県長浜市は自然環境にも恵まれていますが、原料となる水も伊吹山の雪解け水を使用されるなど、美味しいビールを造れる環境にありますよね。

上村:はい、ただ伊吹山の水をそのまま使うのではなく、水の軟水度によってミネラルの量も変わるので、いろいろ調整しています。ミネラル分が多ければホップの味が際立って、すっきりした飲み口になるなど味わいに大きな影響を与えるので、どういう水を使うのかも重要なんです。

生物学を専攻した醸造家が綿密な設計で造り出すビールの味とは

――大手メーカーが造るビールもいろいろな味を生み出していますが、クラフトビールはさらに素材の細やかな調整で味わいの違いを出していくんですね。なんだか化学の実験のようですね。

上村:そうなんです。僕は大学で生物学を専攻していたんですが、ビール造りは、実験の連続です。例えば、酵母による発酵でも、温度管理や時間を変えるだけで全く違う味わいになります。同じ材料を使っても、時間や温度で味に大きく影響するので、どのように発酵し、熟成させるかという一連の流れを細かく設計していかないといけないんです。無限にある可能性に挑戦するには、選択する材料を知り尽くさないといけない。今は同業の方たちとも情報交換をして素材の知識を深めることに力を入れています。

――うーん、そんなに奥深い世界とは。では、ここで基本的なビールができるまでの流れを教えていただけますか。

上村:まずは、イギリス、ドイツ、アメリカ、カナダ、オーストラリアの麦芽(大麦)を粉砕していきます。最近では麦芽にもいろいろ種類が増え、燻製の香りがするようなものもあって、限定ビールなどには、そういったパンチのある麦芽を使用したりします。粉砕後は、お湯と一緒にタンクに入れ、60~70度で混ぜ、おかゆ状にしていきます。この時点では、まだ麦芽がデンプン状態で、酵母が食べられる糖ではないため、発酵が進みません。それで麦芽が持っているアミラーゼの働きを利用し、発酵できる糖に変えていきます。これが糖化という作業になります。この時間が約60分で、温度管理さえできていれば、自然に糖化されていきます。

――こういった作業の中でも味の違いが出るのですか?

上村:糖化するための60分間の温度を62度に設定した場合、軽くて飲みやすいドライなビールになりますし、67度で糖化すると深い味わいになります。長濱浪漫ビールでいうと、淡海ピルスナーは62度で糖化するので、すっきりのど越しが良く、長浜エールは66度で糖化しているので、深い味わいを楽しむビールになっています。

――この管理は何名ぐらいでやっているのですか。

上村:実質2名で、忙しい時は他部署に応援を頼むという形です。酒造りはみんなそうですが、生き物を扱っているので、出来上がるまではなかなか気が抜けない仕事なんです。ここで糖化されて出来た液体を別のタンクに移送して、サイクルウォートと呼ばれる天然のろ過装置で、透明になるまで循環させていきます。この繰り返しで、麦芽を取り除き、液体だけを残します。この液体が麦汁(ばくじゅう)と呼ばれるビールの元です。

そこからタンクに2,200リッターぐらい貯めて、殺菌しないと雑菌に酵母が負けてしまうため煮沸していきます。ここでホップを入れるのですが、ホップを入れるタイミングも造りたい味によって変わります。煮沸する時点でホップを入れると、香りが立たず、苦味だけになります。60分間煮沸してからホップを入れると香りが立ちます。このように使う原料が同じでも、工程が違うと全然味が違ってきます。

――工程ごとに味の変化があり、それらをすべて見極めて製造していくんですね。

上村:素材と温度、工程時間を組み合わせて設計していくのが難しいし、やりがいでもありますね。煮沸が終わったら、上のタンクに移送して、そこで酵母を入れて、発酵させていきます。無濾過で非加熱でやっているのでじっくり時間をかけます。発酵が終了したら、タンク内の温度を極端に下げて、酵母を下に沈め、こまめに酵母を抜き、製品化となります。抜いた酵母は使い回すのですが、コロナ禍の時は、数多くビールが造れなかったので、1回、1回酵母を捨てていたんです。

長濱浪漫ビールが考える地域の食材と合わせて楽しめる美味しいビール

――それぞれの発酵には、どのくらいの時間がかかるのですか。
上村:伊吹バイツェンは酵母にストレスを与えて早く発酵させるので、3~4日で、軽いすっきりした味わいのビールになります。長浜エールが1週間ぐらい、淡海ピルスナーは2週間ぐらいかけています。

――現在どのくらいの量を造っているのですか。

上村:ビールは月4~5回仕込みで、1回に2,000リッターなので、8,000リッターから1万リッター造っています。

――長濱浪漫ビールが目指すビールとはどのようなものでしょうか。

上村:コンセプトに起因するんですが、ここは併設したレストランで出来立てのビールを味わってもらうのが第一なので、料理に合うビールを造ることが目標です。だから味の強いビールや個性の尖ったビールではなく、料理を食べながら、何杯でも飲めるビールを造り続けています。そこを大前提として、どこまで副原料を加えていけるかが醸造家に求められるスキルでもあります。現在、クラフトビールは1パーセントのシェアなんです。ですので、小さな醸造所で競い合うより、協力してシェアを広げていかないとと思っています。そのためにもお互いの情報を交換しながら、良いビールを造っていきたいです。

本格派という言葉がぴったりのしっかりした飲みごたえのあるビールやさわやかで軽い味わいのビールなど、飲み比べも楽しいクラフトビールは、飲む味ごとに造り手の思いが伝わってきます。上村さんの生き生きとビール醸造について語る表情に、天下統一を果たした秀吉の面影が重なり、思わずエールを送りたくなりました!

醸造のスペースもオープンに設計されているので、まさにここで造られているんだと実感!お料理とビールが楽しめて、お土産として購入もできます!旅行で立ち寄るのにぴったりの場所ですね。

A4ランク以上の近江牛を厳選し、少量しか取れない希少部位「イチボ」の霜降りを使用したしっとりジューシーなローストビーフはビールの味を引き立てる美味しさ

サクサクの衣とふわふわの白身魚の感触が口の中でとろける自慢のフィッシュアンドチップスはビールが何杯でも進む

長濱浪漫ビール

住所:滋賀県長浜市朝日町14-1
公式サイト:https://www.romanbeer.com/

連載 滋賀県クラフトビール巡り

第1回 クラフトビール、今なぜ人気?滋賀・長濱浪漫ビールの若き醸造家に魅力を聞いてみた

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旅行業から編集プロダクションへ転職。その後フリーランスとなり、旅、カルチャー、食などをフィールドに。最近では家庭菜園と城巡りにはまっている。寅さんのように旅をしながら生きられたら最高だと思う、根っからの自由人。

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幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。十五代目片岡仁左衛門ラブ。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。