Art
2022.03.15

それはアートなのか?デザインなのか?伝説のキュレーター、小池一子の軌跡を追う

この記事を書いた人
この記事に合いの手する人

この記事に合いの手する人

三宅一生、川久保玲、石岡瑛子、杉本博司、森村泰昌、大竹伸朗、内藤礼…。今をときめくあまたのデザイナーや美術家たちと深いかかわりを持ちながら、クリエイティブな活動を半世紀以上にわたって続けてきた女性がいます。編集者からスタートし、キュレーターとして名を馳せるようになった小池一子(こいけ・かずこ)さんです。その活動を総括する「オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動」が開かれているアーツ千代田 3331を訪れたつあおとまいこの2人は、あまりにも幅広く、そして深みのある活動ぶりに目を見張りました。

私アキナスも大ファンです!

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

素敵な魔女たちのコンサート

『魔女コンサート’76』のポスターの展示風景 小川敦生撮影

つあお:小池さんが企画に携わっているコンサートのこのポスター、何だか最高じゃないですか?

まいこ:「魔女コンサート」っていったい何なのでしょうね?

つあお:何となくワクワクします。

まいこ:でもここでストライプのドレスを着て手を広げている女性は、魔女というよりも若くてきれいに見える!

つあお:それこそたわくし(=「私」を意味するつあお語)にとっては「魔女」かもしれません(笑)。

まいこ:なるほどね! 誘惑の塊?!

つあお:誘惑されたいなぁ。

まいこ:魔女でもいいんですか?

つあお:魔女は素敵ですよ! でも、こうやって空をホントに飛んで来たら、きっとびっくりしちゃうな。

まいこ:「コンサート」っていうからには、単なる魔女の集いじゃないんですね!

つあお: 中山千夏さんとか、なぜか手書きで修正された跡がある新谷のりこさんとか、たわくしにも馴染み深い昭和な歌手の名前が載っている。ちょっと懐かしいかも! 彼女たちはきっとすごいエネルギーで歌いまくったんだろうなぁ。

まいこ:1976年ですから、まさに昭和真っ只中! 女性もぐいぐい出てきてた時代っぽい!

つあお:このポスターのコンサート、まさに女性が中心になっているのですね!

まいこ:そもそも「魔女」は、ミステリアスな言葉ですね!

つあお:「ともに、空翔ける女たちへ」っていうコピーは、たわくしが見てもかっこいい! 空を飛ぶから「魔女」なんだ!

まいこ:女性が団結しようとしている勢いを感じます。

つあお:「ともに」ですもんね。

まいこ:ちょっと男性たちへの対抗心も表れているのかな?

つあお:多分この時代にこういうことをやるのは、かなり画期的だったんだろうなと思います。

ボディコピーまでじっくり読むと…本当にかっこいい!

まいこ:ポスターにある「女が発想するビューティフルな出会いのコンサート」って、私も行ってみたいと思っちゃいます。

「伝説のキュレーター」はこうして生まれた

小池さんが編集の仕事に携わっていた時期の雑誌等の展示風景 小川敦生撮影

つあお:小池さんはもともとは、すごい編集者なんですよね。1959年の早稲田大学卒業直後の『週刊平凡』に始まって、『森英恵流行通信』などいろんな媒体に携わっていらっしゃる!

まいこ:想像以上にマルチな分野でご活躍だったことがこの展覧会でわかりました。

つあお:早稲田では最初文学部演劇科に入ったのだけど、英文科に転科していらっしゃる。翻訳もなさってますもんね。

まいこ:素晴らしい!

つあお:一方で、劇団に入って演劇には関わり続けている。とにかくあらゆる文化に貪欲だったんだろうなあ。敬服します。

まいこ:美術展のポスターも数多く手掛けられたようですね!

つあお:そうなんですよ。編集の世界から入って広告コピーなどを手がける中で、西友のプライベートブランド「無印良品(MUJI)」の創設に携わり、西武百貨店とも関係を深めて、西武美術館(後のセゾン美術館、現在は閉館)ともかかわるようになる。

西武美術館のポスターデザインは、田中一光さんや松永真さんが手掛けられていました!

まいこ:美術のほうにもテリトリーをどんどん広げていったんですね!

つあお:1989年には、メキシコの女性画家フリーダ・カーロの個展をキュレーターとして開いてます。何だかインパクトあるんですよね。

「フリーダ・カーロ展」等小池さんがキュレーションを担当した展覧会のポスターの展示風景 小川敦生撮影

まいこ:その時代は女性画家自体が珍しかったのでは?「愛と生、性と死の身体風景」というテキストにも女性の強さや複雑さが表現されているように感じます。

つあお:1976年にメキシコで作品を見て、魅力に打ちのめされたのだそうです。そう、フリーダはその頃、壁画で有名なディエゴ・リベラの妻として紹介されるのが普通だったそうですが、小池さんは自立した女性画家として紹介したんだそうですよ。

まいこ:今も大活躍の大竹伸朗さんのポスターも、今回の小池さんの展覧会で見ました!

大竹伸朗「Printing/Painting」展ポスター 展示風景 小川敦生撮影

つあお:大竹さんは、東京都現代美術館で大きな個展を開いたり、瀬戸内海の直島で『I♡湯(アイラブユ)』という銭湯をデザインしたり、八面六臂の大活躍。たわくしはヴェネツィア・ビエンナーレという世界的な芸術祭でも何年か前に展示を見ましたよ。でも小池さんが大竹さんを見出したのは、大竹さんがまだ武蔵野美大の学生のときだったそうです!

まいこ:うわぁ! 先見の明!

つあお:まずこのポスター自体がすごく楽しい!

まいこ:本当に! 赤・青・黄色ときらびやかです。

つあお:いろんなモチーフがペタペタと貼り付けられているところが、やっぱり大竹さんだ!

まいこ:映画のワンシーンみたいなイメージとか、抽象絵画みたいなデザインとかが混然一体となってますね!

つあお:ぐちゃぐちゃしてますよね! たわくしは、そこがホントに大好きなんです。

まいこ:隣のテキストも、カラフルでネオンみたい!

つあお:まさに大竹伸朗ワールド!

まいこ:大竹さんの作品も展示されてましたね!

大竹伸朗『Musician』 展示風景 小川敦生撮影

つあお:そうそう、平面作品と映像作品がありました。小池さんは何せ「伝説のキュレーター」ですからね。

まいこ:あの「佐賀町エキジビット・スペース」で、ですよね!

佐賀町エキジビット・スペース=1983年、小池一子が江東区佐賀町に開設した非営利のオルタナティブ・スペース。廻米問屋市場として栄えた歴史を持つ、27年竣工の近代建築「食糧ビル」の3階をインテリアデザインの設計会社「スーパー・ポテト」の監修でリノベーションし、展示スペースとして生まれ変わらせた。若手の発表の場と言えば貸し画廊が大半を占めていた当時、「いま生まれつつあるアートを発信しよう」というコンセプトのもとに、まだ評価の定まっていない美術家やキャリアのない若手作家を積極的に紹介した。(引用元=美術手帖

つあお:たわくしのような美術界どっぷりの人間の認識としては「小池一子=佐賀町エキジビット・スペース」だったんですよね。

まいこ:その「伝説」はよく聞きますよ!

つあお:それでね、小池さんは編集者だった時代に、これまた伝説的デザイナーの田中一光さんやまだ多摩美大の学生だった三宅一生さんとか、2020〜21年の東京都現代美術館の個展で大きな話題になった石岡瑛子さんとか、とにかくいろんなクリエイターと仕事をしていたら、どんどん美術のことがやりたくなって、自分でアートスペースの運営を始めちゃったみたいなんです。

1970年代前半に石岡瑛子のアートディレクションでPARCOの仕事を手掛けた。小池はコピーライティングを担当。 小川敦生撮影

まいこ:その行動力凄すぎ! しかも、その頃協働したアーティストたちが今輝かしい活躍を見せているところがまたすごい!

つあお:佐賀町では1983年から2000年までの17年間にわたって展覧会やパフォーマンスなどさまざまな企画を行っていたんだけど、森村泰昌さんとか杉本博司さんとか内藤礼さんとか、ほんと今では第一線の人たちが勢揃いしているんですよね。

まいこ:セザンヌが描いたりんごに森村泰昌さんがなっている作品がこの展覧会に出ていて、見入っちゃったんですけど、まだ森村さんが有名になる前の作品だったんですね。

森村泰昌作品の展示風景 小川敦生撮影
壁面左から『批評とその愛人(1)』『批評とその愛人(2)』『批評とその愛人(3)』『批評とその愛人(4)』、手前『批評とその愛人 マケット』すべて1989年

つあお:そうです。杉本博司さんの「劇場」シリーズや「海景」シリーズなんかもすごく早い時期に佐賀町で出てますし、内藤礼さんの作品は建物の中にテントを張ってその中で観客が一人ずつ鑑賞するという、当時の美術界の常識にはなかったものだったんです。

まいこ:佐賀町はアバンギャルドな場所だったんですね!

つあお:それでね、小池さんにはお会いしたことはあるんですけど、意外とサバサバしていらっしゃいました。何だか凄さは中にしまってある感じ。

まいこ:私も一度お話したことがありますが、穏やかでやさしかったです。

つあお:穏やかだけどパワフル。理想的だなぁ。

まいこ:昨年は東京ビエンナーレの総合ディレクターをやっていらっしゃいましたね! 今でもパワーをバリバリ感じます!

まいこセレクト

横尾忠則作品の展示風景 菊池麻衣子撮影
左から『TEARS』『Ahmedabad-Tokyo,No.3122』『Ahmedabad-Tokyo,No.3115』『Ahmedabad-Tokyo,No.3113』すべて1991年

電気仕掛けの光の滝が流れているこの小ぶりな作品がポンと独立して飾られていたのですが、 瞬間的に「横尾忠則さんだ!」と思い当たりました。昨年の夏に東京都現代美術館で開催された横尾さんの大個展をつあおさんと訪れて浮世離れマスターズトークを和樂webに掲載したことを鮮明に思い出したからです。
その時のおもしろトークから「滝の画家 横尾忠則さん」がくっきりと記憶に刻まれていました。
そして現在大活躍の横尾さんも小池さんのところを通って来たんだな~と、過去と現在の時空がここでピッタリと合体したように感じたのでした!

つあおセレクト

『Morisawa写植「英語しりとり」』ポスター 展示風景 小川敦生撮影

世界的デザイナーとして知られる田中一光さんのデザイン室を小池さんが1970年代前半に訪れたときの話。色をちぎった紙片がたくさん、紙の上に載っていたそうです。そして、1色1字で横に7〜8字、縦に10行ほど並べてポスターを作りたい! と。しかも和英両文がいいと一光さん。どう並べるかを考えた小池さんは、漢字の英訳のしりとりをするという妙案を思いつきます。「one(一)」→「ear(耳)」→「rice(米)」→「八(eight)」→「虎(tiger)」…「根(root)」→「十(ten)」。そしてできたのが、このポスターだったのです。初めが「一」で終わりが「十」。「生」と「終」と「死」、「愛」と「涙」がつながっているあたりには、偶然の必然のような何かがあるのかもしれません。
それにしても、遊び心に満ちている点が素晴らしい。そして、これほど見事な成果物が出来上がるとは、奇跡のようにさえ思えます。しかも、たまたま「東西」の文字が上下に並んだのを見つけた一光さんは、その2文字だけ同じ色でつないだのだとか。いやはや、脱帽です。

文字の美しさだけでなく、一字一字を組んでいく写植の存在意義も感じさせるデザインです!

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。

Gyoemon『空翔ける小池さん』

デザインとアートの時空をシームレスに行き来する小池さんの「魔女」ぶりを描いてみました。まさに「翔け回る」イメージです。

展覧会基本情報

展覧会名:オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動​​
会場名:アーツ千代田 3331(東京・千代田区)
会期:2022年1月22日〜3月21日
公式ウェブサイト:https://alternative-kazukokoike.3331.jp

参考文献

小池一子『美術/中間子 小池一子の現場』(平凡社)

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

この記事に合いの手する人

平成元年生まれ。コピーライターとして10年勤めるも、ひょんなことからイスラエル在住に。好物の茗荷と長ネギが食べられずに悶絶する日々を送っています。好きなものは妖怪と盆踊りと飲酒。