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2022.04.28

月見る心はフランスも日本も同じ?最後の印象派展でロマンチックに浸る!【SOMPO美術館】

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月夜がどれほどロマンティックであることか。夜中でも人工の光にあふれた現代の都会人は、なかなか実感できないかもしれませんよね。そんな日常の中で、SOMPO美術館で開催中の「シダネルとマルタン展 ー最後の印象派、二大巨匠ー」を訪れたつあおとまいこは、月夜の美しさを描いた絵画に魅入られてしまいました。これぞ「浮世離れ」。展示されたフランスの絵を見ながら、つあおは日本人の月を愛する心に思いを馳せます。そして、つあおとトークをしていたまいこにもだんだん和の美意識が芽生えてきたと思いきや…。

印象派を見ながら和の美意識が…?

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

シダネルとマルタンについて

アンリ・ル・シダネル
Henri Le Sidaner(1862 – 1939)
インド洋モーリシャス島に生まれ、ダンケルクで育つ。パリの国立美術学校でアレクサンドル・カバネルに学んだのち、エタプルやジェルブロワなどフランス北部に移り、身近なものを情感豊かに描いた。

アンリ・マルタン
Henri Martin(1860 – 1943)
トゥールーズに生まれ、同地の美術学校で学んだのち、パリの国立美術学校でジャン゠ポール・ローランスに学ぶ。南仏各地を活動拠点とし、明るい陽光のもと風景や人物像を象徴主義的な雰囲気のなかに描いた。大画面の装飾画にも優れ、多くの公共建築の壁画を手がけた。(引用元=「最後の印象派、二大巨匠 シダネルとマルタン展」ウェブサイト

ヴェルサイユの月に和の心を感じる

アンリ・ル・シダネル『ヴェルサイユ、月夜』 1929年 油彩、カンヴァス 95×116cm フランス、個人蔵 ©Yves Le Sidaner

つあお:いきなり質問です。まいこさんは、夏目漱石が「I love you」をこう翻訳した! という話を聞いたことはありませんか?

まいこ:シダネルとマルタンの展覧会に来て、意味深な問いですね! 月明かりになぞらえたとか?

つあお:いい答えだ。漱石は「I love you」をどう訳すかを聞かれて「月がとってもきれいですね、とでも訳しておけばいいんじゃないか」と答えたというような逸話が、まことしやかに流布していたことがあったんですよ。

まいこ:へぇ。でも、現代人としては、そう言われてもピンとこないかも。

つあお:実は、「漱石が…」というのはガセネタだとも言われていますが、「月がとってもきれいですね」なんて言うといかにもロマンティックで、何となく日本の文豪っぽいですよね。

まいこ:そういう和の心には憧れるのですが。。。ラテンな私が男性になったら「月もきれいだけど君のほうがきれいだ」と直球勝負に出てしまいそう(笑)。

まいこさん、なんてイケメン…(ドキドキ)

つあお:「小倉百人一首」には月を詠んだ和歌が12首もあるそうですし、まいこさんが以前好きだって言っていた『武蔵野図屏風』や浮世絵師の月岡芳年が制作した「月百姿」シリーズなど、日本では、絵でもとてもたくさん月が描かれてきました。

まいこ:うんうん。『武蔵野図屏風』は、月が、沈むための山を見つけられずに野原に直接ドスンと落っこちているのが愛らしくて好きです。

つあお:まいこさんはけっこうインターナショナルだなぁと勝手に思っていたんだけど、日本人的な部分があったんですね(笑)。そもそも日本には美しさを愛でるという意味を込めて「花鳥風月」という言葉があったりもします。

まいこ:でも、現代の都会育ちだと、あまりにも人工の光が多い中で暮らしているので、月の美しさに目を向ける機会は少なそうですね。つあおさんには、「月がとってもきれいですね」という言葉は通じるのかしら?

つあお:たわくし(=「私」を意味するつあお語)、チャンスがあったら言ってみたかったなって思うんですけど、相手に理解されなかったら「失敗した」とか思っただろうなぁ(笑)。アンリ・ル・シダネルのこの絵を一緒に見ながら言ったら、ひょっとしたらいいかも! なんて思っちゃいました。

まいこ:いいですね! 描かれている場所はヴェルサイユ宮殿。ロケーションはバッチリですよ! しかも、この絵には人っ子ひとりいなくて、昼間は勢いよさに目を奪われていただろう噴水も、静かに月明かりを映す風景と化しています。

つあお:月のほんのりとした明かりの中で、彼女と二人っきりで…。

まいこ:いいムード!

確かに、百人一首の歌のような雰囲気を感じてきました!

つあお:それでね、この風景を描いたシダネルは、フランス印象派の後継者と言われてますけど、表れている情感はルノワールやモネとはまったく違うと思うんですよ。

まいこ:この薄く霧がかかったような雰囲気に、もやっと浮かんだ月! わびさびのフランス版って感じかな。

つあお:まいこさんの共感を得られるのがすごくうれしいなぁ。 下のほうに描かれているのが噴水であることは、近寄ってよく見ないとわからない。月夜のほの暗さが風景を包んでくれるところがまた、和の心にも通じているのかな。 「I love you」が文学的な言葉の中に包まれている、みたいな。

まいこ:そうですね! しかもこの噴水の中をよくよく覗き込んでみると、なんとなく蓮の葉っぱみたいなものが顔を出していて、奥ゆかしい雰囲気を演出してます。

つあお:眺めていると、味わいがどんどん深まっていく。素晴らしい絵ですね。

人が描かれていない!

つあお:シダネルには、ほかにも夜の風景を描いたと思われる渋い味わいの絵がたくさんあって、見入ってしまいます。

(左)アンリ・ル・シダネル『ジェルブロワ、花咲く木々』(1902年、個人蔵) (右)同『ジェルブロワ、離れ屋の前の小卓』(1935年、シンガー・ラーレン美術館蔵) 展示風景
ジェルブロワはフランス北部の小さな町。シダネルは1901年に住み始め、09年にヴェルサイユにいったん居を移したが、17年に戻ってきた。

まいこ:シダネル家の庭のテラスの食卓が描かれた『ジェルブロワ、離れ屋の前の小卓』もそうでしょうか。見ていて、「シダネル一家とお食事したい」という気持ちになりました!

つあお:おお、まいこさんもだんだん渋好みになってきたのかな? いいことだ。そう、たわくしはこの絵も月明かりの下の風景を描いたんじゃないかなと思って見てます。

まいこ:ジェルブロワって、どの辺りの町なんですか?

つあお:バラで有名な、パリの少し北西の田舎町です。すごくいい庭だったみたいで、家族だけでなく、ほかの画家を招いて食事をしたこともあったみたいですよ。部屋の明かりがぼんやり見えるのが、また渋い。

まいこ:人が描かれていないところも奥ゆかしいですね! それでいて人を感じさせる。そこに、つあおさんの和の心が共鳴したのでは?

つあお:おお、きっとそうですね! 着物が衣桁にかかっている様子を描いた『誰ヶ袖図屏風(たがそでずびょうぶ)』みたいに、人の姿は見えずその気配だけが描かれた絵が日本にはけっこうたくさんありますもんね。だから、シダネルのこの絵もじわじわ心に来るのかもしれません。

誰ヶ袖図屏風はこちらの記事でも見られますよ!人の気配の残り香ってとっても味わい深い…

まいこ:食器や瓶が描かれているけど、いわゆる静物画とは全然違う。直前まで人がそこにいたかのような暖かみが感じられます!

つあお:たわくしは、こんなシチュエーションでプロポーズをするのも素敵だなぁと思いますよ。

まいこ:いきなりプロポーズですか!?

つあお:おっと、まずは「I love you」ですね(笑)。 食い気は色気です。

まいこ:うまい!

つあお:でもきっと、こんなテラスで食べる料理は美味しいだろうし、2人でおしゃべりしていると、自然に打ち解けた感じになるんじゃないかなぁ。

まいこ:そうに違いありません! しかもここには白ワインのボトルとグラスがあります。真ん中にあるスープボールのような素敵な器の中には、媚薬が入ってるかもしれませんよ!

つあお:ふふふ。まぁ媚薬なんて入れなくても、この雰囲気なら大丈夫そうな気もしますけどね。

まいこ:さすが、つあおさん!

つあお:シダネルは、フランスでは印象派がもう終わってしまった時代に点描を使って印象派っぽい表現をしたんですが、モネやルノワールとはまったく違った独自な味わいを生み出している。作品を見ていて、何だかじーんときました。

アンリ・ル・シダネル『ジェルブロワ、テラスの食卓』 1930年 油彩、カンヴァス 100×81cm フランス、個人蔵 ©Luc Paris
シダネルは、昼間を描いた絵でも、日の光がさんさんと降り注ぐ風景とは異なる紗幕がかかったような描写をしている。

まいこ:この展覧会のもう一人の主役でシダネルの親友だったアンリ・マルタンも「最後の印象派」と言われる画家の一人ですが、シダネルとはずいぶん違って、日中のからっとした情景が多かったですね!

つあお:そうそう。表現の根がからっとしてる。

まいこ:マルタンは南仏に住んでましたもんね。

アンリ・マルタン『マルケロルの池』 1910〜20年頃 油彩、カンヴァス 81.5×100.5cm フランス、ピエール・バスティドウ・コレクション ©Galerie Alexis Pentcheff
マルケロルは、南仏ラパスティド・デュ・ヴェールにあったマルタンの別荘の名前。

つあお:同じフランスでも、パリのある北部は曇りがちで、晴れていても太陽の光は南仏に比べると弱いなぁと、以前パリと南部のニースの間を往復したときに思いました。

まいこ:私も南仏のアルルでゴッホが絵の題材にした跳ね橋(ゴッホが『アルルの跳ね橋』を描いた当時の橋は現存していないが、別の場所に復元されている)まで歩いた時に、ああまぶしい、って思いました。生活している土地の違いから、それぞれの魅力的な表現が生まれるというのも面白いですね。

まいこセレクト

アンリ・マルタン『野原を行く少女』(=左の作品、1889年、個人蔵) 展示風景

展示室の入り口で私たちを迎え入れてくれるようにたたずんでいたのが、この絵の少女です。髪飾りからドレスまで、色とりどりのお花に飾られて、彼女が歩いた跡にはお花畑が広がる。花の女神フローラ! というのが第一印象でしたが、じっと見ているうちに、もやがかかった背景と、私の目にはどことなく浮かないように見える彼女の表情が気になってきました。そういえば、同じように花々に寄り添われているけど川に横たわっている悲劇のヒロインも、ほかの画家が描いていましたね。ジョン・エヴァレット・ミレイの『オフィーリア』です。やはり至高の美しさをたたえています。『野原を行く少女』のモデルは、マルタンの姉妹アデリーヌとのこと。こんな風に描かれて、うれしかっただろうな~。

つあおセレクト

アンリ・ル・シダネル『カミーユ・ル・シダネルの肖像』 1904年 油彩、パステル、鉛筆 、厚紙 46×38cm フランス、個人蔵 ©Yves Le Sidaner

アンリ・ル・シダネルは、奥さんのカミーユをまるで月のように描いているなぁ! なんて思ってしまいました。ほのかに明るく、顔がまん丸に近い。きっと、本当に月のような存在だと感じていたんじゃないかと思うんです。

あなたは太陽だ!って言われるより、あなたは月だ…。って言われる方が嬉しいかもしれない(個人の感想です)

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。​​

Gyoemon『月夜に黒猫』

黒猫は月夜でも目立たない存在! そして、月見団子を狙っているのです。

展覧会基本情報

展覧会名:シダネルとマルタン展 ー最後の印象派、二大巨匠ー
会期:2022年3月26日〜6月26日
会場:SOMPO美術館(東京・新宿)
公式ウェブサイト:https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2021/sidaner-martin/​​

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

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平成元年生まれ。コピーライターとして10年勤めるも、ひょんなことからイスラエル在住に。好物の茗荷と長ネギが食べられずに悶絶する日々を送っています。好きなものは妖怪と盆踊りと飲酒。