「能」は昔、アイドルのステージだった!? そんなことを言うと専門家の方々に怒られる……。しかし世阿弥の時代、農民から将軍までみんなが能を見に来て、ライブのように盛り上がった。そんな実態が研究でわかっているそうだ。
研究によれば約600年前、能はテンポが今の2~3倍、速かった。世阿弥が絶賛した能楽師・犬王は、天女のように踊るのが得意だったという。テンポのよい軽やかなダンス……キラキラしたアイドルのステージに近かったと筆者は妄想する。
また、世阿弥の作品には古典の和歌が盛り込まれている。当時の観客ならみんな知っている和歌で、いわばパンチライン。今にたとえれば、ヒット曲、サビのフレーズがライブ中に出てきて「あ、この歌詞知ってる!」と観客が盛り上がる状態だ。室町時代の能はフェスのように楽しまれていたかもしれない。
そんな空想をしていたら、すごいニュースが飛び込んできた。俳優、音楽と幅広く活動している、阿部顕嵐(あべあらん)。
世阿弥が書いた『風姿花伝』をタイトルにした独演会をやるそうだ。映画やドラマ、『ヒプノシスマイク』の舞台等に立ってきた現代のイケメンが、なぜ世阿弥の著書をタイトルに? 気になりすぎて、本人に事情を聞いてきた。
尚、聞き手はオフィスの給湯室で抹茶をたてる「給湯流茶道(きゅうとうりゅうさどう)」。「給湯流」と表記させていただく。
ライブのセトリを考えるとき、世阿弥の『風姿花伝』が参考になる!?
給湯流茶道(以下、給湯流):イマドキのサウンドで活躍される阿部顕嵐さんが、600年前の著書をタイトルにした独演会をやると。びっくりしました。
阿部顕嵐(以下、阿部):じつは小学生の頃から、能や狂言をみていました。子どもには「伝統芸能は敷居が高い」って偏見はない。だから純粋に楽しみで能楽堂に行ってました。今も能や狂言を見るのは、ライブに行く感覚に近いです。
給湯流:小学生の頃から能や狂言をみていたとはすごい。渋いお子さんだったんですか?
阿部:いや、小学生の頃、戦国武将のゲームにハマって自然に日本史に興味がわきました。あと小学生のときに野球をやっていたのですが、同じチームにたまたま和泉流狂言師、野村万之丞さんがいたんです。
給湯流:ええ!
阿部:年齢も近くて今も仲良し。当時は「野村虎之介」から虎ちゃんって呼んでいました。「虎ちゃんのおじいちゃん、人間国宝なの? じゃあ皇居の中、入ったことある? ずるいよお」なんて無邪気に話していました。虎ちゃんのつながりもあって、小さいころ能や狂言をみていたんです。今考えると、すごいことだなって思いますけど。
給湯流:それで自然に『風姿花伝』も読まれていたと。
阿部:芸能をやっている人間が『風姿花伝』を読むと、めちゃくちゃささるんですよ。
『風姿花伝』は、世阿弥が弟子へのアドバイスをまとめたもの。江戸時代までは、能楽関係者だけが読んでいた、秘伝! 子どものうちからベテランになるまで、どういう稽古をしたらいいか、長く人気が続くために何をすべきか等、実践的なことが書いてある。舞台に花を咲かせる、観客を夢中にさせる、ライバルに勝つための必殺技も載っており、アイドルオタクが読んでも楽しい。
阿部:どれも素敵な教えなのですが、印象に残っているものの1つは陰陽道の話ですね。昼間は陽の空気が流れているので、敢えてしっとりした演目からスタートした方がいい。夜はお客さんも暗い気持ちになりがちだから、にぎやかな明るい曲を始めにもってこい、と。観客の感覚をつかむのが大事ってメッセージがささります。
給湯流:わー、なんかコンサートのセトリに近いですね。
阿部:そうですね、世阿弥のころは昼間、外で上演して客席も明るかったはず。お客さんの顔がはっきり見えるから、より反応がシビアだったんだろうなって思いますね。僕らのライブだと客席を真っ暗にするんですが……。
世阿弥の時代は、神社や寺など屋外スペースで昼間に長時間、たくさんの演目をやるのが主流だったらしい。しかも2つの流派でバトルすることもあった。どちらのチームが良かったか、観客が決める。相手チームの出方次第で、臨機応変に演目を変えろと『風姿花伝』に書いてあり、勝負ごとの緊張感がすごい! 今なら『M-1グランプリ』を見た視聴者が、あのコンビが面白かった、つまらなかったと盛り上がるノリに近いかも?
1つのことを極めるだけでは、「誠の花」じゃない
阿部:都会と田舎で演目を変えろって教えも、心に残っています。京の都は、足利将軍とか貴族とか目利きの客が多いので、最先端の流行をおさえた公演をする。でも田舎でとがったステージをやっても、お客さんは理解できない。地方では、能に詳しくないお客さんでも楽しめる演目をやれと。都会の貴族から地方の農民まで、どんな観客にも対応ができること、引き出しをたくさん持っておくのが一流だって書いてあって。
給湯流:ひとりよがりの前衛的なステージだけをやっても、ダメってことですね。
阿部:ほかにも、1つのことを極めるだけでは「誠の花(まことのはな)」じゃないってメッセージが好きです。いろいろな芸を身に着けることで、長くお客さんに応援してもらえる。僕も、お芝居、ダンス、歌、バンドといろいろなジャンルで活動しているので、この言葉に勇気をもらっています。
『風姿花伝』に、鬼の役をやったら評判がよかったからといって、いつも鬼の役しかやらなければ客は飽きると書いてある。「え、この人こんな役もできるんだ!」と観客が新鮮な感動を持つのが本当の「花」。ありとあらゆる演目を稽古して、舞台で常に花を咲かせ続けろと世阿弥は伝えている。
独演会のアイディアは、佐渡島に流された世阿弥の小説がきっかけ
給湯流:独演会のタイトルは、なぜ『風姿花伝』に決めたんですか?
阿部:普段から、戦国、室町時代の小説を読むのが好きで。僕の公式ファンクラブのイベントを企画しはじめた時、たまたま藤沢周さんの『世阿弥最後の花』って作品を読んでいたんです。
給湯流:どんなお話なんですか?
阿部:晩年の世阿弥が、佐渡島に流されてからの話です。息子、元雅(もとまさ)の視点からの文章も入っていてぐっときます。
給湯流:元雅! 世阿弥を贔屓にした足利義満。義満が死んだ後、権力抗争に巻き込まれ、若くして謎の死を遂げた息子さんですね。
阿部:佐渡なら権力者の目を気にせず暮らせる、お父さんが好きな演目をのびのびやってくれといった内容を、息子が天の声で伝えるくだりがあって。その文章が本当にいいんですよ。
給湯流:それは泣ける! もともと『風姿花伝』は読んでいたうえに、たまたまその小説にハマっていたのと、ファンクラブの企画を考え始めた時期が重なったんですね。
阿部:そうですね。僕はずっと和が好きなので、自分のルーツを基に表現できると思って決めました。
独演会のために、あの伝統芸能の稽古を始めた!
給湯流:独演会は和がテーマ。どんなコーナーを用意されるんでしょうか?
阿部:あまりネタばれしちゃうと当日面白くないですから、一部だけお伝えします。とある伝統芸能の稽古を始めました。独演会でお披露目します。これをきっかけに長く習おうと思って。
給湯流:うわー! それは楽しみです。では最後に、独演会に来る方や、これからチケットを申し込もうという方へメッセージをお願いします。
阿部:もしも時間があれば『風姿花伝』を読んでくれると、より盛り上がると思います。案外、ページ数も少ないですから公演までに読めると思います。
給湯流:現代語訳も出てますから、読みやすいですよね。
阿部:でも、『風姿花伝』を知らないお客さんにも楽しめる内容にします。世阿弥も書いてましたよね、どんな人でも楽しませることができるのが一流の役者だって。
給湯流:なるほど~! 『風姿花伝』が今のアーティストにもリアルにささることを教えていただきました。今日はありがとうございました。
阿部顕嵐 プロフィール
生年月日:1997年8月30日
俳優としての活動を中心に、映画、ドラマ、舞台と幅広い作品に参加。
代表作としては、主演を務めた映画「ツーアウトフルベース」が今年全国劇場公開し、主演ドラマ「さよならハイスクール」もHuluにて現在配信中。また、『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stageや、「October Sky -遠い空の向こうに-」等の舞台作品にも多数出演している。
7人組アーティスト7ORDERのボーカルとして音楽活動も全力で取り組む傍ら、公式ファンクラブ「I OF THE STORM」の設立、オリジナルグッズの企画開発など、活動は多岐にわたる。12月3、4日には初の独演会「風姿花伝」を明治座にて開催予定。
追加公演決定! 阿部顕嵐・独演会『風姿花伝』
阿部顕嵐・独演会『風姿花伝』は、公式ファンクラブ会員限定公演です。既に発表されている12月4日(日)2公演は完売御礼。
好評につき12月3日(土)夜公演が追加されました。
追加公演のチケットは、10月17日(月)深夜0時より公式ファンクラブ内にて抽選受付中。詳しくは阿部顕嵐 公式サイトをご覧下さい。
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阿部顕嵐 独演会「風姿花伝」第1期公演
公演日時:
2022年12月3日(土) 夜の部 17:00
2022年12月4日(日) 昼の部 13:00 / 夜の部 17:00
会 場:明治座 (〒103-0007 東京都中央区日本橋浜町2丁目31-1)
料 金:全席指定 12,000円(税込)+お土産付
※本公演は全て「I OF THE STORM」会員限定公演となります。
受付期間:2022年10月17日(水)00時00分〜10月26日(水)23時59分
抽選結果:2022年10月29日(土)15:00〜
MORE INFO:阿部顕嵐公式サイト
7ORDER ニューシングル発売
TV アニメ「農民関連のスキルばっか上げてたら何故か強くなった。」オープニングテーマと安井謙太郎出演の映画『死神遣いの事件帖 – 月花奇譚 – 』主題歌が収録された両 A 面シングル。2022年11月16日発売です。
藤沢周『世阿弥最後の花』
世阿弥は、なぜ72歳で遠く佐渡へと流され、彼の地で何を見つけたのか? 室町の都を幽玄の美で瞠目させた天才が最晩年に到達した至高の舞と、そこに秘められた謎に迫る著者最高傑作。
芥川賞作家がその身に「世阿弥」を憑依させて描く、波乱と奇跡の感動巨篇です。