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2024.04.23

バッテラとは?大阪庶民のソウルフードの秘密♡【あっぱれ! 大阪寿司!! part9】

大阪寿司はもはや希少価値であることをお伝えしましたが、しめ鯖の押し寿司「バッテラ」は別。地元では日常食に、もはや全国区にまで認知度は広がっています。その理由を考察しました。

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京都の鯖寿司とはまったく違う〝バッテラ〟

関西圏では知らない人はいないであろう「バッテラ」。それ以外の地域でも、スーパーやデパ地下で遭遇率が高いこのお寿司。四角い形をした、鯖の身の薄い寿司に見覚えのあることと思います。
伝統の押し寿司の一種であり、生まれは確かに大阪なのですが、これまで紹介してきた大阪寿司と「バッテラ」の〝立ち位置〟は違う。安価で、ありふれたもので、かつ人気。大阪寿司の独立形態と呼んでもいいでしょう。

大阪でバッテラが食べられているのは自宅を除けば、(1)寿司も丼もあるうどん屋 (2)食堂 (3)街の寿司屋のようなところで、昼間のうどん屋が多いのかも? 小皿にのったおにぎりや稲荷寿司と並んで、バッテラがあるのが普通で、甘いおだしのうどんの合間に食べる酢飯がなんとも言えない味わいを生むわけです。小皿のバッテラは2切で200円が相場。こんなチープなお寿司で満足なの? とでも聞きたくなりますが、地元民に言わせると、「鯖が目あてなんじゃない、バッテラが食べたいんだ」とのこと。なんのこっちゃ? ですが、バッテラには別価値があるというのが地元民の考え。この特集でお世話になった寿司職人さんも「鯖の身が薄いから、おだしを含んでも口の中が生臭くならないんとちゃう? あの薄さに意味があるんよ」とベタ褒めしていましたっけ…。

明治誕生のバッテラはボルトガル語に由来

そもそも「バッテラ」はいつ大阪に生まれたのでしょう? 答えは明治24(1891)年ごろ、大阪湾で大量にとれたコノシロ(コハダの成魚)を用いて〝布巾(ふきん)じめ〟の姿寿司に仕立てたのが始まりです。魚の身を開いた形が小舟に似ていたので、それを見た客がポルトガル語で小舟を意味する「バッテイラ(bateira)」と呼んだのが名前の由来。ここで唐突にポルトガル語が出てくるのが不思議ですが、当時水上警察署がパトロールに短艇を使っていたそうです(さすが水の都大阪!)。その後、ネタは安価な鯖に変わり、また調理法も〝布巾じめ〟から魚の身に合わせた舟形の木型を用いたものに変わり、さらに効率のよい長方形の木型へと改良がなされました。

箱寿司の〝へぎ貼り〞を鯖に転用し大ヒット

さて「バッテラ」の名前の由来を知ったところで、本題はここからです。鯖と長方形の型を前にして、職人の頭に新発想が浮かびました。それは上方の古い言葉にある〝へぐ〟こと! 〝へぐ〟とは、魚の身を薄くそぐことで、「箱寿司」のように薄く切ったネタを寿司飯の上に配する技法は〝へぎ貼り〞と呼ばれます。鯖の身も〝へぎ貼り〟にしたことで、現在の「バッテラ」のスタイルが定まりました。

鯖の〝へぎ貼り〟を発想した人物の名が歴史に残っていないのは残念ですが、この寿司職人はふたつの功績を残しました。ひとつは「薄く〝へい〟で、一尾から何本も寿司だねがとれるようになり、1本あたりの『バッテラ』の価格が非常に低く設定できるようになった」こと。ふたつ目に「クセが強いと敬遠されがちだった鯖が、身が薄くなることで万人に受け入れられるようになった」ことです。これこそが「バッテラ」が広く普及した理由であり、〝庶民の味方〞の大阪寿司として今日まで愛される理由です。

ちなみに、写真の「梅田吉野寿司」のバッテラは、鯖の片身の4分の1を〝へい〟だもの。これが典型的な「バッテラ」の姿ですが、店によっては片身4分の1以下のものもあります。「梅田吉野寿司」のベテラン、佐藤春一さんに〝へぎ方〟を聞くと、「鯖の皮目を下に、包丁を平行に入れる。身がボロボロにならないように、刃を少しずつ入れるのがコツ」だとか。

寿司飯の上に鯖の身、その上に白板昆布をのせると「バッテラ」の完成ですが、いつから白板昆布をのせるようになったかは不明です。「バッテラ」と時を同じくして鯖の上に松前昆布をかぶせた「松前寿司」が誕生したのは確かで、昆布の旨みが鯖に及ぼす効果を「バッテラ」にも使うようになったと考えるのが妥当なところでしょう。塩と酢だけで調味されてきた鯖に、甘酢漬けにした白板昆布の風味は、「バッテラ」のように昆布も鯖の身もいくら薄くても、効果があるのです。

ということで、同じ鯖でも京寿司の「鯖寿司」と「バッテラ」は大きく違います。海が近い大阪と海から遠い京都では、鯖の手当てが一番の違い。京都では鯖は若狭から京都に運ばれてきたので、塩のあて方がきつい。それをやわらげるために、酢も深く入ったと考えられます。また、京都の鯖寿司に巻かれる昆布が厚いのも、身の厚みと寿司の味に比例したものです。
さて大阪寿司の〝別腹〟、「バッテラ」に興味がわきましたか? 大阪の寿司職人がつくるものはやっぱり違う。食べたくなったら、ぜひ大阪で!

これが大阪人の愛する典型的なバッテラです


梅田吉野寿司の「バッテラ」450円(税込)。職人が自分で塩して、酢で加減をして店の味を出すのが大阪のバッテラ。さっぱり、いくらでもつまめる!

店舗情報


梅田吉野寿司(うめだよしのずし)
住所:大阪府大阪市北区角田町9-26新梅田食道街 
電話:06-6315-0151
営業時間:10時30分~21時(イートインは20時L.O.)
休み:無し

国鉄大阪駅(当時)地下に、昭和25(1950)年に誕生したグルメ街「新梅田食道街」。この店は昭和42(1967)年に開業。味よし、値段よし、ビジネスマン御用達の日常のお寿司をどうぞ。お土産はほかに「鯖寿司」1,000円(税込)、「松前寿司」1,500円(税込)もある。

撮影/石井宏明 構成/藤田 優
※本記事は雑誌『和樂(2021年12・1月号)』の転載です。

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和樂web編集部

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